著作者の権利

2.著作権の主体

1)著作権の帰属(創作者主義とその例外)

わが国著作権法は、著作権の帰属に関し、原則として創作者主義の立場を採用しています。 創作者主義によれば、
(a) 事実行為としての創作行為をおこなった自然人のみが「著作者」となり、
(b) その「著作者」に著作者の権利(財産権・人格権)が原始帰属することになります。

【著作権法2条1項2号】
著作者 著作物を創作する者をいう。

【 著作権法17条1項】
著作者は、次条第1項、第19条第1項及び第20条第1項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第21条から第28条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。

2)著作者の認定─創作者主義に基づく著作者の認定方法

著作者の認定は、著作物(創作的表現)の作成に関与したといえるかによって判断されます。 例えば、小説の具体的な文章表現に関与した者や音楽のメロディの作成に関与した者などが著作者と判断されることになります。これに対し、抽象的なヒントやテーマを提供したにすぎない者や助手として身体的補助作業をしたにすぎない者は著作者にはあたらないとされています。

【参考裁判例】・「SMAP大研究」事件(東京地判平成10年10月29日)

3)共同著作物

2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものは、「共同著作物」と呼ばれます(著2条1項12号)。

[肯定例] 2人で1枚の絵を描いた場合
[否定例] 1人が書いた文章をもう1人が翻訳した場合
       歌詞とメロディ

共同著作物の著作権に関しては、次のような取扱いがなされます。

(1) 著作権者の一部による自己利用、ライセンス

共同著作物の著作権、著作者人格権は、原則として全員が共同で行使する必要があります(著64条1項、65条2項)。そのため、共有者の1人が他の共有者の同意なく著作物の利用することや第三者に使用許諾をすることは原則として認められません。この点は、共有者による自己実施を原則として許容する特許法、意匠法、商標法との相違点です。
もっとも、共有者は、正当な理由なく、同意を拒んではならないといされているため、むやみに同意を拒むことは認められません(著64条2項、65条3項)。

(2) 権利侵害への対応

共同著作物の著作権が侵害された場合、著作権者は単独で差止請求、損害賠償請求を行うことができます(著117条)。

(3) 保護期間

共同著作物の著作権の保護期間は最後に死亡した著作者の死亡時から起算されます(著51条2項)。

4)職務著作

著作権法は、創作者主義の例外として、会社の従業員が職務上著作物を創作した場合、会社が著作者となる旨規定しています(著15条1項)。これは、従業員を雇用し、設備や人件費等の投資を行う使用者を保護することのほか、権利関係を明確化し、著作物の利用をしやすくするための規定です。

【 著作権法15条1項 】
法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物……で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

職務著作と認められるためには、(1)法人等の発意、(2)業務に従事する者、(3)職務上、(4)公表名義、(5)別段の定めがないこととの5つの要件を満たす必要があります。

(1) 法人等の発意

「法人等の発意」によると認められるためには、著作物作成の意思が直接または間接に使用者の判断にかかっていればよいとされています。

(2) 業務従事者

職務著作と認められるためには、創作者が「法人等の業務に従事する者」でなければならず、会社から外注を受けて第三者が著作物を創作した場合には法人著作は成立しません。もっとも、「法人等の業務に従事する者」が、会社と雇用関係にある社員に限定されるかについては、学説上争いがあります。この点、判例は、雇用関係の存否が争われた場合には、(1)指揮監督関係の有無、(2)報酬が労務提供の対価であると評価できるかによって判断をすべきであるとしています。

【参考裁判例】・RGBアドベンチャー事件(最判平成15年4月11日)

(3) 職務上

職務著作と認められるためには、著作物の作成が従業者の直接の職務内容としてなされたことが必要です。

(4) 公表名義

職務著作と認められるためには、「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であることが必要です。公表予定がないものについては、公表するとすれば法人等の著作名義で公表されるものであればこの要件を充足します。

(5) 別段の定めがないこと

当事者間で著作権が従業員に帰属するとの合意があった場合には、合意の効力が優先し、従業員に著作権が帰属することになります。

5)映画の著作物の著作権

映画の著作物の著作権の帰属に関しては、著作権法16条、29条に特別の規定が設けられています。

(1) 映画の著作物の著作者

著作権法16条は、「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、 美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」旨規定しています。すなわち、監督、プロデューサー、撮影監督等が映画の著作物の著作者になり、脚本家、原作者、作曲者、助監督等は映画の著作物の著作者にはなりません。

(2) 映画の著作物の著作権の帰属

著作権法29条1項は、映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者(映画の著作物の製作に発意と責任を有する者)に帰属する旨規定しています。そのため、映画の著作物の著作権は、通常の場合、映画会社に移ることになり、監督等の著作者は著作者人格権のみを持つことになります。

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