商標権取得のための条件

3.商標の登録要件

商標権は登録された商標を独占的に使用できる非常に強力な権利であるため、出願された商標を全て登録したのでは、かえって商品やサービスの円滑な取引きが阻害されるおそれがあります。そのため、商標法は商標が登録されるために満たしていなくてはならない条件を規定しています。

ここでは、主に文字や図形について、商標が登録されるための要件についてご説明します。

1)「自他商品・役務の識別力」があること

「自他商品・役務の識別力」とは、その商標を付した自社の商品または役務を他社の商品または役務と区別させる商標の基本的機能のことをいいます。

商標とは、本来、自社の商品・役務に付して、需要者が自社の商品・役務と他社の商品・役務とを区別して購入できるようにし、営業努力によってその商標に信用を蓄積して、顧客を引きつけるために使用されるものです。そのため、自他商品・サービスを区別させる機能を有さない商標は、商標としての本来の目的を果たし得ないため、登録できません。

識別力がない商標の例としては以下に挙げるようなものがあります。

(1) 普通名称

     商品・サービスの普通名称とは、取引界において、その商品・サービスの一般的な名称であると意識されるに至ったものをいいます。
固有の商品名: サニーレタス、さんぴん茶、コンピュータ、板状チョコレート、清酒、沢庵漬、美容
    略称: スマホ、アルミ、パソコン、損保、空輸
    愛称: 般若湯(清酒)
    俗称: 赤チン、沢庵、波の花(塩)
普通名称でなく特定人の権利にかかる登録商標の例:
「プラモデル」、「セロテープ」、「ヒロポン」、「エレクトーン」、「味の素」、「アクアラング」、「キャラバンシューズ」、「破魔矢」、「アートフラワー」、「オキシフル」、「オセロゲーム」、「キャタピラー」、「クッキングホイル」、「サランラップ」、「ジッパー」、「セスナ」、「ハモンドオルガン」、「チキンラーメン」、「バリラックス」、「ビデオコーダ」、「ポリバケツ」、「宅急便」、「デジカメ」、「万歩計」、「ラジコン」
*普通名称であっても、まったく別の商品やサービスについて使用するときには登録が認められます。
 例えば、石油に「シェル」、パソコンに「アップル」などです。

(2) 慣用商標

     慣用商標とは、当初自他商品・サービスの識別力を有していたものが、同種類の商品・サービスについて同業者間で普通に使われるに至った結果、識別力を失ったものをいいます。
 
「正宗」(清酒)、「羽二重餅」(餅菓子)、「かきやま」(あられ)、
「オランダ船の図形」(カステラ)、「甘栗太郎」(甘栗)、
「観光ホテル」(宿泊施設の提供)、「プレイガイド」(興行場の座席の手配)、
「純正、純正部品、純正パーツ、genuine」(自動車の部品、付属品)
「夜鳴きそばのチャルメラの音」(屋台における中華そばの提供)
* 慣用商標に識別力のある表示を結びつければ、全体として登録が認められます。
例えば、清酒に「菊正宗」「大黒正宗」「キンシ正宗」「櫻正宗」などです。

(3) 記述的商標

   商品の産地や品質、サービスの提供場所や質などを表示したものをいいます。
 産 地 ・・・・・ 北海道(バター),静岡(お茶),新潟(お米)
 販売地 ・・・・・ 東京,大阪,銀座(現存地),三河(旧国名)
 品 質 ・・・・・ デラックス,ストロング,ゴールド,NO.1
 原材料 ・・・・・ ぬか石鹸,ネオリンサン(肥料),ぶどう(菓子パン)
 効 能 ・・・・・ 即効,UNIVERSAL,クレンジング
 用 途 ・・・・・ 婚礼,台所用
 数 量 ・・・・・ 20個,100枚,50g
 生産方法 ・・・・・ 手打ち(そば)
商品との関係にかかわらず、「品質」等を表示するとされるもの
「レッド」「ブルー」「新」「新しい」「ニュー」「ネオ」「安全」 「インスタント」「オート」「ゴールド」「シルバー」「スーパー」「ソフト」「ダブル」「パーフェクト」「ハイ」「万能」「ファイン」  「フレッシュ」「ビッグ」「ミニ」「優美」「ユニーク」
*現在では、産地名と商品の一般名称を組み合わせた記述的商標にすぎないものでも、一
定の要件をみたす「関あじ」「長崎カステラ」「京人形」「下呂温泉」などが地域団体商標と
して商標登録を受けられます。
* 記述的商標(商標法第3条第1項第3号)の該当性につき、一般の需要者の認識を基準に判
断される旨記載され、さらに、出願された商標が現実に使用されていることは必要ない旨が商
標審査基準に明記されています。

(4) ありふれた氏または名称

  特許庁商標課の審査基準では、まとめると、次のように定められています。

ありふれた氏、業種名、著名な地理的名称(行政区画名、旧国名および外国の地理的名称を含む。)等に、
「商店」「商会」「屋」「家」「社」「堂」「舎」「洋行」「協会」 「研究所」「製作所」「会」「研究会」「相互会社」「一般社団法人」 「有限会社」「株式会社」「K.K.」「Co.」 「Co.,Ltd.」「Ltd.」
等を結合してなる商標は、原則として、「ありふれた名称」に該当するものとする。

ただし、行政区画名と業種名とを結合してなる会社名については、普通に採択されうる名称である場合でも、他に同一のものが現存しないと認められるときは、この限りでない。

「ありふれた名称」でないものの例
 「日本タイプライター株式会社」 
 「日本生命保険相互会社」

(5)きわめて簡単で、かつ、ありふれたもの

  審査基準では、例として、まとめると、以下のように定められています。
仮名文字(変体仮名を含む。)1字、1本の直線、波線、輪郭として普通に用いられる△、◯、▢、◇、♡、月桂樹もしくは盾の図形又は球、立方体、直方体、円柱、三角柱の立体的形状等は本号に該当するものとする。

ローマ字の1字もしくは2字からなるとき、ローマ字の1字にその音を仮名文字で併記したとき、または、ローマ字の1字の音を仮名文字で表示したものは、本号の規定に該当するものとする。数字は、原則として、本号の規定に該当する。

(6) これらの他、識別力がないもの

  識別力がないものとして、次のようなものが例示されています。
●地模様(例えば、模様的なものの連続反復するもの)
●商慣習上、「Net」「Gross」などのように、その商品やサービスの数量などを表示する場合に用いられる文字
●元号を表す「平成」「令和」等の文字(平成31 年改訂審査基準)
●商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等 
審査基準の改訂により、標語(キャッチフレーズ)が識別力を有するか否
かの判断基準が明確化されました。以下の表に示されているように、出願
人が一定期間使用してきたことにより広く知られている標語や、第三者
に使用されていない標語については、登録が認められやすくなりました。
キャッチフレーズ(企業名) 旧基準 新基準 理 由
美しい時代へ 東急グループ
(東京急行電鉄)
特定の企業名が入っている
Innovation for Tomorrow         
(ダイハツ工業)
企業名は入っていないが、CMなどでよく知られている
毎日続ける大豆の健康
(キッコーマン)
一般的に使われていない
朝食応援(非公表) × × 他の企業も使っている
キレイと元気(非公表) × × 一般的な特徴を表しているだけ
(特許庁の資料より抜粋)

*識別力のない文字であっても、
   ① 極めて特殊な字体で書かれている場合
   ② ハウスマークなど識別力のある文字や図形等を結合している場合
 などについては登録可能です。

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