【欧州】欧州特許庁(EPO)拡大審判部、クレームの解釈における明細書及び図面の参酌についての審決(G1/24)

2025年07月NEW

G1/24審決において、EPO拡大審判部は、クレームを解釈する際、明細書及び図面は常に参酌されるべきことを明確にしました。

背景
本件の発端となったのは、Philip Morris Products S.A.の欧州特許第3076804号(加熱式タバコ)に対してYunnan Tobacco International Co., Ltd.が申し立てた異議事件(第一審)において異議部が下した特許維持決定に対するアピール事件(第二審)です。本アピール事件における争点の一つが、クレーム1中の用語「gathered sheet」の解釈でした。
第一審及び第二審を通じて、「gathered sheet」を当業者による通常の理解に基づいて解釈(折り目を有する筒状のシート)した場合、本件特許には新規性が認められると判断されました。一方、本件明細書には、「gathered sheet」には「折りたたんだり巻いたりすることその他の方法により製造されたシート」を意味するとの記載があり、この記載を参酌して広く解釈した場合は、引例に基づいて新規性が認められないと判断されました。
第一審において異議部は、欧州特許条約(EPC)第84条に基づき、クレームを解釈する際、明細書と図面の記載を参酌できるのは、クレームの不明瞭な記載を明確にしようとする目的である場合に限られると判断しました。そのような立場に立つ場合、上記の通り新規性が認められることになるため、特許維持決定が下されました。
これに対し、第二審において審判部は、クレーム解釈における明細書及び図面の参酌基準に関して、これまでの審決例は一貫性に欠けると判断し、以下の質問を拡大審判部に付託しました。

質問 1
EPC第52条から第57条に基づき発明の特許性を評価する際、クレームの解釈には、EPC第69条第1項、第2文、およびEPC第69条の解釈に関する議定書第1条が適用されるか?

質問 2
特許性を評価するためにクレームを解釈する際、明細書と図面を参照してもよいか。よい場合、常に参酌すべきか、または当業者がクレームを単独で読んだ際に、不明瞭または曖昧であると判断した場合にのみ参酌すべきか?

質問 3
特許性を評価するためにクレームを解釈する際、クレームで使用されている用語に関して明細書に明示的に記載されている定義または同様の情報は無視できるか、また、その場合、どのような条件下で無視できるか?


拡大審判部の審決
上記質問1の回答
EPCの条文においては、特許性を評価する際のクレーム解釈の根拠について、明確な法的根拠が存在しない。したがって回答は「いいえ」となる。

上記質問2(質問3は2に包含される)の回答
クレームは、EPC 第 52 条から第 57 条に基づき、発明の特許性を評価するための出発点であり、基礎となる。そのクレームを解釈する際には、不明瞭性や曖昧性がある場合だけでなく、常に明細書及び図面を参照しなければならない。

EPOプレスリリースは以下のURLから入手できます。
https://www.epo.org/en/case-law-appeals/communications/press-communique-18-june-2025-concerning-decision-g-124-heated-0

G1/24審決の全文は以下のURLから入手できます。
https://link.epo.org/web/case-law-appeals/Communications/G_1_24_Decision_of_the_Enlarged_Board_of_Appeal_of_18_June_2025.pdf