【日本】特許法施行規則の一部を改正する省令(令和7年5月30日経済産業省令第48号)施行

2025年06月NEW

2025年5月30日、日本国特許庁(JPO)は、「特許法施行規則の一部を改正する省令案」および「裁定制度の運用要領」改正案に対する意見募集の結果と、意見に対する特許庁の考え方を公表しました。
これらの意見を踏まえ、「特許法施行規則の一部を改正する省令(令和7年5月30日経済産業省令第48号)」と「裁定制度の運用要領」が同日施行・改正されました。

1. 特許法施行規則の一部を改正する省令の概要
特許法、実用新案法及び意匠法の規定により裁定を請求する者は、特許法施行規則の様式により作成した裁定請求書を提出しなければなりません。当該様式には裁定請求に至るまでの協議の経過を記載する欄を設けているところ、その備考において、以下2点を協議の経過に係る具体的な記載事項として追加します。

(1)知的財産権に関する紛争解決手段として、裁判外紛争解決手続(以下「ADR」という。)が注目されているところ、通常実施権の許諾を求める他者は、協議が不成立に終わった場合であっても、直ちに裁定の請求を行うのではなく、まずはADRによる解決を試みることが考えられます。この場合において、具体的な争点や判断材料を明確化し、裁定の審議を効率化する観点から、ADRの経過及び結果についても新たに裁定請求書への記載を求めることとします。

(2)世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一Cの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(以下「TRIPS協定」という。)第31条(b)第1文では、「他の使用は、他の使用に先立ち、使用者となろうとする者が合理的な商業上の条件の下で特許権者から許諾を得る努力を行って、合理的な期間内にその努力が成功しなかった場合に限り、認めることができる」という旨が規定されています。そこで、裁定に係る審議を円滑に進める観点から、裁定請求がTRIPS協定第31条(b)第1文の要件を満たしていることを明確化するため、特許権者に提示した当該条件を協議の経過として裁定請求書に記載することを新たに求めることとします。

詳細につきましては、JPOの以下URLをご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/syoreikaisei/tokkyo/tokkyohou_20250530.html


2. 「裁定制度の運用要領」の改正
改正された「裁定制度の運用要領」には、以下の記載の通り、ADRの利用が明確に示唆されています。

「協議が成立せず」とは、協議をしたにもかかわらず成立しなかった場合をいい、「協議をすることができないとき」とは、許諾を得る目的で話合いを求めたが権利者側に協議をする意思がない場合等をいうと解される。このような場合の具体的事例としては、当事者同士の直接の協議の不成立の他に、その後の裁定の請求を前提とした代替的な紛争解決手続(ADR)を利用したが和解に至らなかった場合等が考えられる。

また、改正された「裁定制度の運用要領」には、公共の利益のため「特に必要である」か否かを検討するにあたって、以下の具体的事例が明記されています。
(i) 特許権者等によっては十分に満たされない需要に対応する必要があること。
(ii) 同等の公共の利益を速やかかつ適切に確保できる代替技術が存在しないこと。
(iii) 請求人が裁定の請求に係る特許発明を利用した事業を速やかかつ適切に実施でき、公共の利益を確保できること。(なお、特許発明を利用した事業の実施が他の法令等に基づく許認可等の対象であり、審議時の技術的な水準に照らして、当該他の法令等上必要となる行政機関の許認可等の要件に関する明白な疑義が認められる場合は、これに該当しない。)
(iv) 裁定が被請求人に与える影響を考慮してもなお公共の利益を確保すべきであること。


「裁定制度の運用要領」につきましては、JPOの以下URLをご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kogyo-shoyu/document/shingikai/saitei_yoryo.pdf