【米国】AIAに基づく冒認手続に関する初めてのCAFC判決

2025年09月NEW

米国では、2011年米国改正特許法(Leahy-Smith American Invents Act:AIA)の施行までは、先発明主義が採用されており、ある発明者が先に出願した場合でも、他の発明者が同一発明について自身が最初に発明したことを証明できれば、その最初の発明者は特許を取得することが可能でした。

Global Health Solutions LLC(GHS社)対Marc Selner(Selner氏)事件において、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、AIAに基づき特許審判部(PTAB)で審理された発明の帰属に関する手続(冒認手続(derivation proceeding:由来手続)に対する上訴を初めて審理しました。
冒認手続(由来手続)は、AIAの施行により新設されたものであり、先願の発明者が後願の発明者から発明を知得し、その承諾なしに出願したことを後願の出願人が証明し、先願の拒絶や取消を求めるものです。
2025年8月26日、CAFCはPTABの決定を支持し、冒認がなかったと認めました。

I.PTABでの手続
1.Selner氏は2017年8月4日、発明の名称を「イオン性ナノベシクル懸濁液及びこれより調製された殺菌剤」(Ionic Nanovesicle Suspension and Biocide Prepared Therefrom)とする特許出願をした(米国特許出願15/549,111)。

2.4日後の2017年8月8日、GHS社は創業者であるBradley Burnam氏を発明者として、発明の名称を「活性成分のためのペトロラタムベースの送達システム」(Petrolatum-Based Delivery Systems And For Active Ingredients)とする特許出願をした(米国特許出願15/672,197)。

3.両出願とも、創傷治療用軟膏を製造するための実質的に同じ方法に係る発明を主題としていた。

4.2013年時点では、Selner氏、Burnam氏、及び他の個人が創傷治療用軟膏を開発することに合意し、共同プロジェクトを推進していた。

5.GHS社は、Selner氏の特許出願に係る発明は、Burnam氏の発明に由来するものであり、冒認出願である旨を主張した。

6.PTABでの冒認手続の審理では、二つの軟膏成分を混合前に別々に加熱するという発明の概念に誰が最初に着想したかに焦点があてられた。

7.GHS社はBurnam氏が2014年2月14日午後4時4分にSelner氏へ送信したメールを提出し、Burnam氏が加熱法の着想者であると主張したが、Selner氏は同日午後12時55分までに自身が先に着想したことを立証した。

8.PTABは、Burnam氏が当該発明をSelner氏に伝える前に、Selner氏が当該発明を着想していたと認定し、Selner氏が最先の発明者であって、Selner氏の特許出願は冒認出願ではないとした。

9.GHS社は、PTABの決定を不服としてCAFCに控訴した。

II.CAFCの判断
CAFCは、最初に旧法下のインターフェランス手続とAIA下の冒認手続の違いを明確化した。

インターフェランス手続では、「誰が最初に発明したか」に焦点があてられる。一方、冒認手続では、先願に係る発明が後願に係る発明に由来するものか否かが問題となる。

冒認手続では、後願の発明者は、先願の出願日より前に、a)発明を着想し、b)先願の発明者に対してその内容を伝達したことを証明すればよく、最初の発明者であることの証明は必要ない。

先願の発明者も、自身が最初の発明者であることを示す必要はなく、単に自身の発明が独自になされたことを証明すればよい。

PTABの審理では、「誰が最初に発明したか」という問題(AIA後の枠組みでは直接関連性のない問題)に焦点を当てた点で誤りがあったが、Selner氏の発明が独自になされたものであると認定して冒認出願ではないとした決定の内容に誤りはなく妥当であるとCAFCは判示した。

判決文全文は、以下URLから入手できます。
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-2009.OPINION.8-26-2025_2563662.pdf