【米国】米国最高裁、特許権侵害訴訟の裁判地を制限

2017年08月

2017年5月22日、米国連邦最高裁判所は、TC Heartland LLC v. Kraft Foods Group Brands LLC事件において、連邦巡回控訴裁判所 (CAFC) の判決を覆し、「原告は特許権侵害を主張するにあたって、被疑侵害企業が設立 (法人登記) されている州または、被告が侵害行為を行い且つ恒常的で確立された事業所を持つ地を管轄する裁判所に訴を起こすことができる」と判示しました。その上で、CAFC判決を破棄して差し戻しました。

本事件では、特許訴訟の裁判地 (venue) について規定している連邦裁判所法1400条(b)の解釈が争われました。1400 条(b)は、次のように規定しています。

「特許侵害の民事訴訟は、被告が居住 (reside) している地か、あるいは、被告が侵害を行っており且つ恒常的で確立されたビジネスを行っている地の裁判地区に提起することができる。

“Any civil action for patent infringement may be brought in the judicial district where the defendant resides, or where the defendant has committed acts of infringement and has a regular and established place of business.”」

本事件では、上記「居住 (reside)」の解釈に関して、一般的な管轄を定める連邦裁判所法第1391 条(c)の規定との関係が争点となりました。最高裁は、法改正の経緯を検討し、米国内企業に関して、1400 条(b)の「reside」は、1391 条(c)の規定及びその改正に左右されず、設立されている州を意味する旨の判断を示しました。

これまで、特許権者は、訴訟提起先の裁判所をほぼ自由に選ぶことができました。その結果、多くの特許権者、特に、他社を訴えて金銭的利益を得ることを主たる目的として特許を保有するパテント・トロールは、特許権者の勝訴率が高い「テキサス州東部地区連邦地方裁判所」を頻繁に選んできました。近年、米国全体の特許侵害訴訟の約40%が、「テキサス州東部地区連邦地方裁判所」に提起されていると言われています。

今回の最高裁判決により、今後は、特許権侵害訴訟の裁判地が、アメリカ企業の多数が法人登記しているデラウェア州や、テクノロジーのハブであるカリフォルニア州やマサチューセッツ州に移るだろうと予測されています。

なお、本判決の射程が及ぶのは、米国内企業のみです。外国企業の裁判地については、最高裁は判断を避けていますが、外国企業の米国子会社が特許侵害で訴えられた場合は、本判決の判示が適用されると言われています。