【中国】中国第4回専利法改正-続報その概要

2020年10月

第4回改正専利法の概要

 2020年10月17日付けで、中国の第13期全国人民代表大会常務委員会第22回会議で「中華人民共和国専利法*1」の改正に関する決定が可決され、第4回改正専利法は2021年6月1日から施行されることになった。
 ここでは、今回の第4回専利法改正の概要について紹介する。
 改正専利法の改正箇所の新旧対照表はこちらをご参照ください。第4回改正専利法の条文はこちらをご参照ください。なお、前記新旧対照表及び第4回改正専利法の条文において、赤い文字及び下線で表示された部分が改正のあった部分を示す。

第4回改正専利法の主なポイント:故意による専利権の侵害は1倍ないし5倍の懲罰的な賠償を適用することが可能になり、司法的手続と行政的手続とが並行した医薬品のパテントリンケージ制度が導入され、医薬品の存続期間延長制度が導入され、また部分意匠制度が導入されている。

一、専利権の保護強化

(一)権利侵害の賠償(第71条関連)

1.懲罰的な賠償制度(第71条第1項)
 専利法第71条第1項は、故意による専利権侵害は「・・・算定した額の1倍以上5倍以下で賠償額を算定することができる」に改正され、「懲罰的な賠償制度」が導入された。
 2018年3月に李克強総理の政府業務報告の中で「知的財産権の保護を強化し、侵害に対して懲罰的な賠償制度を実施する」ことがはじめて言及され、その後の政策的な文書に懲罰的な賠償とのキーワードが繰り返し強調されてきている。また、2013年改正商標法では、悪意の権利侵害には1倍から5倍の懲罰的な賠償との規定が盛り込まれ、今回の専利法改正により、専利権侵害についても商標権侵害と同様な規定が設けられた。
 なお、2013年改正商標法では、「悪意」となっているが、今回の改正専利法では「故意」という表現を使っている。

2.賠償額の算定方法(第71条第1項)
 改正後の専利法第71条第1項は、専利権侵害による賠償額の算定について、さらに「権利者が権利侵害されたことによって蒙った実際の損害又は侵害者の侵害行為によって得られた利益に基づいて算定される」に改正され、「権利者が権利侵害されたことによって蒙った実際の損害」と、「侵害者の侵害行為によって得られた利益」とが並列して第一順位になった。

3.法定賠償額(第71条第2項)
 改正後の専利法第71条第2項では、法定賠償額について、現行法の「1万元以上100万元以下」から「3万元から500万元」に引き上げられた。
4.損害賠償の証拠の挙証責任転換に関する条項の新設(第71条第4項)
 改正後の専利法第71条第4項に「人民法院は、賠償額の算定のために、・・・場合は、侵害者に侵害行為に関連する帳簿、資料の提供を命ずることができ、侵害者が提供せず又は虚偽の帳簿、資料を提供した場合、人民法院は・・・賠償額を判定することができる」という損害賠償の証拠の挙証責任転換に関する条項が新設された。すでに運用されている司法解釈(二)*2第27条から法律の条文化されたものといわれている。

(二)専利の仮冒行為に対する処罰の厳格化(第68条)
 改正後の専利法第68条では、専利の仮冒*3行為に対する処罰の規定についても、現行法の「違法所得の4倍以下の過料に処する」から「違法所得の5以下の過料に処する」に改正され、現行法の「違法所得がない場合は20万元以下の過料に処する」から「違法所得がない場合又は違法所得が5万元以下の場合25万元以下の過料に処する」に改正された、処罰が厳格化された。

(三)国務院専利行政部門への専利権の侵害紛争解決の権限の付与(第70条、第69条)
 改正後の専利法第70条は新設条項である。
 第70条第1項では、「国務院専利行政部門は、・・・全国で重大な影響を及ぼす専利権侵害紛争を処理することができる」と規定され、国務院専利行政部門にも専利権侵害紛争を処理する権限が与えられた。なお、要件の「全国で重大な影響」の該否については後続の司法解釈かまたは実施細則における規定を注目する必要があるかもしれない。例えば、権利侵害の規模又は侵害によって得られた利益が極めて大きい場合や、製品が公共の利益(例えば、医薬品、医療器械)、国家の安全に関わっている等の場合の専利権侵害紛争とかは「全国で重大な影響」に該当することが考えられる。
 第70条第2項では、特定の類型の専利権侵害紛争については、地方人民政府の専利管理業務部門が案件を併合することができることが明確化され、専利権侵害紛争処理の手続簡素化を図るためであり、地方保護主義を極力回避し、裁判基準の統一を図るためである。
 第69条では、「専利の執行を担当する部門」の権限について規定されている。

(四)財産保全、行為保全等に関する規定の整合(第72条、第73条)
 改正後の専利法第72条及び第73条では、①訴えの提起前の財産保全の一態様として、専利権者又は利害関係人の権利を実現する行為を妨害することが追加された。②「一定の行為をすること、又は一定の行為を禁止することを命ずる措置を取ることを申立てる」ことを明確化し、現行の「民事訴訟法」第100条における規定に整合した。③今回の改正で、現行の「民事訴訟法」及びその関連の司法解釈に明確に規定されている訴えの提起前の財産保全、行為保全、証拠保全に関する手続的な内容は専利法から削除された。

(五)時効(第74条)
 2017年10月1日から施行された「民法総則」では、普通の訴訟時効が3年に改正されていることに合わせて、改正後の専利法第74条における時効も現行法の「2年」から「3」に改正された。これにより、2021年1月1日から施行されることになっている「民法典」にも平仄を合わせた。

二、医薬品専利関連制度の創設

1.医薬品の存続期間延長制度(第42条第3項)
 改正後の専利法第42条第3項は新設した条項であり、「新薬の上市の評価及び認可の審査のために時間を要した場合、・・・、存続期間の補償を与えるものとする。補償期間は、5年を超えないものとし、新薬の許可の上市後の合計の専利権存続期間は14年を超えないものとする」ことが規定されている。
 なお、補償期間の計算方法、延長後の保護期間の公示等については、改正専利法では明らかにされておらず、後続の司法解釈及び審査指南の改訂等を注目する必要がある。

2.パテントリンケージ制度(第76条第1項、第2項)
 改正後の専利法第76条は新たに導入されたパテントリンケージ制度に関する条項である。
 第76条第1項では、「医薬品の上市の評価及び認可の審査の過程で、・・・登録の申請に係る医薬品に関連する専利権により紛争を生じた場合、・・・人民法院に訴えを提起し、・・・医薬品専利権の保護範囲に属するか否かについて判決を求めることができる。国務院薬品監督管理部門は、・・・関連の医薬品の上市の許可を一旦停止させるか否かを決定することができる」ことが規定されている。
 第76条第2項では、「医薬上市許可申請人・・・は、登録の申請に係る医薬品関連専利権紛争について、国務院専利行政部門に行政裁決を求めることもできる」ことが規定されている。
 第76条第3項では、「国務院薬品監督管理部門は、国務院専利行政部門と連携して、医薬品の上市の認可の審査と・・・専利紛争解決との具体的なつなぎ合わせ方法を制定し、国務院の同意を得て実施する」ことが規定されている。
 今回の専利法改正では、医薬品のパテントリンケージ制度と医薬品の存続期間延長制度が同時に導入された。なお、米国のオレンジブック制度に対応する上市医薬品専利情報登記プラットフォーム制度は、医薬品パテントリンケージ制度の実施方法において具体的に規定を設けることが予想される(注:2020年9月11日付け行われた「医薬品専利紛争の早期解決メカニズムの実施方法(試行)意見聴取稿」において対応する規定が設けられている)。また、医薬品データ保護制度も、国家薬品監督管理局が2018年に具体的な規定が設けられている意見聴取稿(医薬品試験データ保護の実施弁法(暫行))が公表されている。

三、デザイン保護の強化

1.部分意匠制度の導入(第2条)
 改正後の専利法第2条では、意匠の定義について、現行法の「物品の形状、模様・・・」から「物品の全体又は部分的な形状、模様・・・」に改正され、物品の部分も保護対象とするようになった。
 グラフィックユーザインターフェイス(GUI)等の部分デザインの保護のニーズが高まることに伴い、部分デザインのイノベーションの保護を強化すべく、部分意匠制度が導入された。部分意匠制度の導入により、製品の市場競争力を向上させることができ、中国の企業の海外への「打って出る」が有利となり、イノベーションの奨励、及び部分デザインの効果的な保護が強化される。

2.意匠権の存続期間を10年から15年へ(第42条第1項)
 ハーグ協定の加入のための法の整備として、意匠権の存続期間を現行法の「10年」から「15年」に改正された。なお、上記存続期間は出願日が起算日となる点を留意すべきである。また、上記部分意匠制度の導入に加え保護期間が延長されることで、意匠権者の保護がより一層強化される。

3.意匠登録出願にも国内優先権制度の導入(第29条)
 今回の改正で、意匠登録出願にも国内優先制度が導入されるようになった。
 1992年専利法改正による国内優先制度の導入は、特許(発明専利)及び実用新案にしか導入されていなかった。2008年第3回の専利法改正時に、意匠登録出願にも国内優先制度の導入が要望されたが導入に至らなかった経緯があった。

四、その他

1.専利開放許諾制度の新設(第50条~第52条)
 改正後の専利法第50条には、専利権者の開放許諾の設定及び取下げの要件、第51条に開放許諾を受けるための方法、第52条に開放許諾の紛争処理についての規定が新設された。

2.信義誠実原則及び専利権の濫用への規制の明文化(第20条)
 改正後の専利法第20条第1項には、専利出願及び専利権の行使は信義誠実原則の遵守が明文化されると同時に、専利権の濫用の禁止について規定されている。
 第20条第2項は新設条項であり、専利権を濫用して競争を排除または制限し、独占行為を構成する場合は「独占禁止法」に基づくことを明文化した。

3.新規性喪失の例外の適用事由の増設(第24条第1号)
 改正後の専利法第24条第1号では、「国が緊急状態または非常事態になった場合、公共利益の目的のために初めて公開された場合」が新たに新規性喪失の例外の適用事由として追加された。コロナウイルスの対応に関連する改正と推測され、公共の利益のための発明の早期公開による出願人への救済のためである。

4.保護期間補償(調整)制度(第42条第2項)
 医薬品の存続期間延長とは別に、一定の要件を満たした権利化の過程における不合理の遅延によって侵食された保護期間(存続期間)が、専利権者の請求により補填されるための条項が新設された。米中経済・貿易協定第1.12条の要請に基づくものである。

5.被疑侵害者も専利権評価報告の提出することが可能に(第66条)
 専利権者、利害関係人のみならず、被疑侵害者も自発的に専利権評価報告を提出することができるようになった。専利法実施細則第56条第1項及び専利審査指南第五部分第10章第2.2節に規定された専利権評価報告を請求することができる者に対応している。

参考資料(中国語)
1.http://www.lifanglaw.com/plus/view.php?aid=1946
2.https://mp.weixin.qq.com/s/jPTPotNPGUEVtq6WfYY-gA
3.https://mp.weixin.qq.com/s/r80Hd3HxxoPm0QwIV7UoAA
4. https://mp.weixin.qq.com/s/FnRo9Zm36_NOCnOSONih9g


*1「専利」は特許、実用新案及び意匠を含めた上位概念であり、「専利法」には日本の「特許法」、「実用新案法」及び「意匠法」が含まれている。
*2最高人民法院による「専利権侵害紛争事件の審理における法律の適用に関する若干問題の解釈(二)」法釈〔2016〕1号 
*3「仮冒」には、専利の詐称、冒用等が含まれる概念である。