著作者の権利

3.著作権侵害の成立要件

1)著作権の帰属(創作者主義とその例外)

著作権侵害訴訟において、原告が著作財産権侵害の主張をする場合、原告は、自己が著作権者であることのほか、
(1)被告の著作物が原告の著作物に依拠して創作されたこと
(2)被告の著作物が原告の著作物と類似すること
(3) 被告が、著作権法に定める利用行為を行ったこと
の3点を主張・立証する必要があります。このうち、(3)については、著作権者の権利の内容として次章で取り上げる予定ですので、本章では、(1)(2)の要件につき取り上げることとします。

(1) 依拠性

著作権は、特許権等とは違い相対権であるため、著作権侵害が成立するためには、被告の著作物が原告の著作物に依拠して作成されたことが必要となります。 依拠性の認定は、類似点の程度、被疑侵害者の社会的立場、創作性の高低等をもとに総合的に判断されます。

【参考裁判例】・ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー 事件(最判昭和53年9月7日)

(2) 類似性

[1] 判例の判断基準

著作権侵害が認められるためには、被告の著作物が原告の著作物と類似性を有することが必要です。
この点、判例は、「他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を直接感得できるかどうか」との基準によって類似性の有無を判断しています。

判例における「他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を直接感得できるかどうか」との基準は、一見、理解しにくいものでありますが、これを著作物性の要件とリンクして考えれば、「表現」部分の共通性および「創作性」ある部分の共通性が必要であるとの基準を導くことができます。

【参考裁判例】
・パロディ=モンタージュ 事件(最判昭和55年3月28日)
・江差追分事件(最判平成13年6月28日)

[2] 「表現」の共通性

類似性が肯定されるためには、著作物の「表現」が共通している必要があり、アイデアが共通するにすぎない場合には類似性が否定されます。

【参考裁判例】
・タウンページ・キャラクター事件(東京地判平成11年12月21日)-類似性否定
・みずみずしいスイカ事件(東京高判平成13年6月21日)-類似性肯定

[3]「創作的」部分の共通性

類似性が肯定されるためには、著作物の「創作的」部分が共通している必要があり、創作性のないありふれた部分が共通するにすぎない場合には類似性が否定されます。

【参考裁判例】
・LEC出る順シリーズ事件(東京地判平成16年6月25日)-類似性肯定
・どこまでも行こうvs.記念樹事件(東京高判平成14年9月6日)―類似性肯定
・けろけろけろっぴ事件(東京高判平成13年1月23日)ー類似性否定
・The Wall Street Journal事件(東京高判平成6年10月27日)ー類似性肯定


[4] 創作性の高低と類似性判断

近年、類似性の判断にあたり、著作物の創作性の高低を考慮する裁判例が現れ、注目を集めています。この考えによれば、創作性の高い著作物については、類似性が肯定されやすくなり、創作性がそれほど高くない著作物に類似性が肯定されにくくなります。かかる判断手法は、意匠の類否判断の手法とも近似するものであり、妥当なものであると考えられます。

【参考裁判例】
・交通安全スローガン事件(東京高判平成13年10月30日)ー類似性否定
・サイボウズ事件(東京地判平成14年9月5日)ー類似性否定

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