【欧州】UPC、均等論判断でオランダ方式の4要件を採用

2026年07月NEW

統一特許裁判所(UPC)デュッセルドルフ地方部は、Wonderland Nurserygoods v. Cybex事件(UPC_CFI_807/2024)の判決において、特許侵害における均等論の判断基準として、従来ハーグ地方部が採用していたオランダ方式の4要件を踏襲しました。このことから、UPCにおける均等侵害判断において統一的な基準が形成されつつあることがうかがえます。

本件は、ベビーカー用車輪の旋回ロック機構に関する特許(EP 1905615 B1)に関するものであり、原告である特許権者は被告製品が本件特許発明の設計を単に反転させただけに過ぎず均等侵害に当たると主張しました。しかし、裁判所は以下の通り、上記の4要件における最初の3要件をいずれも満たさないとして、この主張を退けました。

1. 技術的均等性
本要件においては、被疑侵害品における特許発明との相違点が、特許発明の解決する課題と実質的に同一の課題を解決し、かつ実質的に同一の機能を果たしていることが要求されます。裁判所は、発明の本質的部分は単なる部材の接続ではなく、クレームに記載された部材配置そのものにあるとし、設計を反転させた構成を技術的均等とは認めませんでした。

2. 特許権者への公平な保護
本要件においては、クレームの保護範囲を均等物にまで及ぼすことが、特許権者に対する適切な保護として正当化されるうることが要求されます。裁判所は、被疑侵害品はクレームの構成を単純に置き換えたものではなく、根本的な再設計を要するものであることから、当業者が特許の記載から均等物として理解し得る範囲内には入らないと判断しました。

3.第三者にとっての合理的な法的予見可能性
本要件においては、当業者が特許の記載から、被疑侵害品における変形実施形態までクレームの保護範囲が及ぶことを合理的に理解できることが要求されます。裁判所は、クレームにおいて部材の具体的な配置が技術的効果を生み出す重要な要素として特定されていることから、当業者がクレームの文言で規定される範囲を超えて当該変形実施形態まで保護範囲が及ぶと予見することはできないと判断しました。

4. 先行技術に対する新規性・進歩性
本要件においては、被疑侵害品(変形実施形態)が先行技術との関係で新規性・進歩性を有することが要求されます。これは、いわゆるGillette/Formstein型の抗弁(変形実施形態が先行技術から容易に想到できるものであれば、均等侵害を認めない考え方)と同じ考え方であると言えます。
もっとも、本件では最初の3要件の判断時点で均等侵害が否定されたため、この要件についての判断は示されませんでした。

本判決は、UPCがハーグ地方部の4要件を踏襲しただけでなく、クレームに記載された構成要件ごとの技術的意義を重視して均等侵害の有無を判断する姿勢を明確に示したものです。今後、控訴審においても同様の判断が維持されれば、このオランダ方式の4要件がUPCにおける均等侵害判断の事実上の標準となる可能性があります。