【米国】特許権の消尽に関する米国最高裁判所判決

2017年09月NEW

2017年5月30日、米国最高裁判所(以下、最高裁)は、Impression Products, Inc. v. Lexmark International, Inc. 事件において、控訴審の2016年2月12日付け米国巡回控訴裁判所(以下、CAFC)の大法廷(en banc)判決を全面的に覆し、① 米国内での販売に関して、販売後の再販・再使用を制限する条件を付した場合でも、特許権は最初の販売により消尽するので、再販や再使用する行為を特許権の侵害として訴えることはできないとの判断を示すと共に、② 特許権の国際消尽を認めました。

1.事件の背景・経緯

(1) 特許権者である原告、Lexmark International, Inc. (以下、Lexmark社) は、米国内及び海外で、トナーカートリッジを設計・製造・販売していました。Lexmark社は、該カートリッジ及びその使用に関する特許を多数有しており、販売の際、顧客に対して次の2つのオプションを提供していました。

  1. a) レギュラー・カートリッジ:

定価での販売であり、販売後の制約なし。

  1. b) リターン・プログラム・カートリッジ:

上記a) のレギュラー・カートリッジより20%廉価だが、購入者は、1回しか使用できないと共に、使用後の空のカートリッジをLexmark社以外へ譲渡することができない旨の制限 (single-use/no-resale restriction) に同意する契約書に署名が必要。この制限を強制するために、カートリッジには再使用防止のためのICチップが内蔵されている。

(2) 被告であるImpression Products, Inc.(以下、Impression社=再生業者remanufacturer)は、購入者からLexmark社の使用後の空のカートリッジを入手し、トナーを充填して、再販していました。

(3) Lexmark社は、Impression社の以下の行為が特許権侵害にあたるとして、地裁に提訴しました。

① 米国内でLexmark社により販売され、その後使用済みとなったリターン・プログラム・カートリッジを入手し、ICチップを付け替えた後、トナーを再充填して販売する行為。
② 米国外でLexmark社により販売され、その後使用済みとなったカートリッジを米国に輸入し、トナーを再充填して販売する行為(レギュラー・カートリッジとリターン・プログラム・カートリッジの両方を含む)。

(4) これに対し、Impression社は、Lexmark社の特許権は、米国内及び米国外での最初の販売により消尽しており、Impression社の実施行為はLexmark社の特許権の侵害には該当しないと主張しました。

(5) 地裁は、① 販売後の制限があっても米国内での販売による消尽を認める一方で、② 米国外での販売による消尽を認めませんでした。そのため、両当事者はCAFCに控訴しました。

2.CAFCの判決

(1) 2016年2月12日付けのCAFC大法廷の判決では、次のように判示されました。

① 特許権者が、再利用および転売に関する制限を、合法的かつ明示的に、購入者に知らせていた場合、特許権者のカートリッジの販売により特許権が消尽することはないので、そのような制限に反した転売や再利用は特許権の侵害に当たる。
② 米国外で特許製品を販売する場合、特許権は消尽しない。

(2) Impression社は、これを不服として最高裁に上告しました。

3. 最高裁の判決

今回の最高裁の判決は、CAFCの判決を全面的に覆すものとなりました。
最高裁は、次のように判示しています。

(1) 判断が求められているのは、次の2つの論点についてである。

① ある製品の購入者がそれを再使用または再販売することに対して明示的制限を課して特許権者が当該製品を販売した場合、特許権者は、侵害訴訟により当該制限を強制できるか否か。
② 特許権者が、米国特許法が適用されない米国外で特許製品を販売することにより、米国特許権が消尽するか否か。

(2) 上記論点①について

Lexmark社が米国内で販売したリターン・プログラム・カートリッジに関して、そのようなカートリッジを販売した瞬間に特許権は消尽する。Lexmark社と顧客との契約における制限(single-use/no-resale restriction)は、契約法上は強制可能かもしれないが、Lexmark社が販売することを選択した特許製品において、特許権を保持する権限をLexmark社に与えるものではない。

すなわち、特許権者が、自らの意志で特許製品を販売する事を選択した場合、その製品はそれを購入した人の所有物となり、特許権という独占排他権の効力は、もはやそのものには及ばなくなり、一旦販売された時点で、特許権は消尽する。

従って、Lexmark社は、リターン・プログラム・カートリッジに付された販売後制限(single-use/no-resale restriction)を強制するために、Impression社に対して特許侵害訴訟を提起することはできない。リターン・プログラム・カートリッジは、その販売により、特許権による独占権の範囲外となったので、Lexmark社にどのような権利があるのかという点は、購入者との契約上の問題であり、特許法上の問題ではない。

(3) 上記論点②について

米国外で適法な販売があれば、米国内における販売と同様、特許法上の全ての権利は消尽する。

(4) 以上より、最高裁は、CAFCの判決を破棄し、差し戻しました。

4.最高裁判決の影響

今般の最高裁判決により、米国内での販売後制限が特許法ではなく契約法の問題となりました。また、国際消尽が認められたので、並行輸入品には特許権の効力が及ばなくなりました。米国市場で取引をしている企業は、ビジネスモデルの再検討が必要になるかもしれません。