【トルコ】新法での実施報告についての注意点
2018年03月
弊所ホームページの知財トピックスで、2017年3月にお知らせしました通り、トルコ共和国において、新しい産業財産法が施行されました(施行日:2017年1月10日)。
https://www.saegusa-pat.co.jp/topics/4011/
この新産業財産法では、旧特許法の規定の多くが改正されました。改正点の中でも、注意すべきであると思われる実施報告に関する事項について、以下にご説明します。
1.強制実施権
(1) 旧法では、下記の場合に、対象特許に対する強制実施権が認められていました(旧特許法第99条)。
① 対象特許が不実施の場合
② 自らの特許の主題に従属性がある場合(即ち、自分の特許発明を、他人の先の対象特許発明を実施することなく実施し得ない場合)
③ 公益性を理由とする場合
(2) 新法では、強制実施権の対象が拡大され、上記に加え、以下の場合においても、その設定が可能となりました(産業財産法第129条)。
① TRIPS協定の規定に沿って、他国の公衆衛生のために必要となった医薬品を輸出する場合
② 植物育種家が、他人の対象特許権を侵害することなく、新種の開発をすることができない場合
③ 対象特許の特許権者の行為が、市場競争を制限、妨害又は阻害している場合
2.実施報告
(1) 新法では、上記のように強制実施権の対象が拡大された一方、実施報告提出の義務が緩和されました。
(2) 旧法では、特許権者等は、特許権付与の公告日から3年以内に特許発明を実施する義務を負い(旧特許法第96条)、特許発明が、正当かつ合理的な理由なく実施されていない場合、同法第99条に定める強制実施権の対象となる懸念がありました。
これを避けるために、特許権者は、特許発明を使用/実施している旨の宣誓書(以下「実施宣誓書」という)を証拠(公的な証明書)と共に提出するか、又は、使用/実施していないことについて経済的、法的もしくは技術的な正当理由がある旨の宣誓書 (以下「不実施正当理由宣誓書」という) を提出することが必要とされていました。実際には、実施宣誓書の提出はこれまでほぼ皆無であり、不実施正当理由宣誓書が提出されていました。
(3) 新法では、特許権者等は、特許発明を実施しなければならず、出願日から4年又は特許付与決定の公告日*から3年のいずれか遅い方までに実施されていなければ、強制実施権設定の対象となります(産業財産法第130条)。しかしながら、不実施正当理由宣誓書又は実施宣誓書を提出するか否かは、特許権者の選択に委ねられることになりました。
*現地代理人の情報によりますと、欧州特許をトルコで有効化した場合、欧州特許庁(EPO)での特許付与決定の公告日 (EPOの公告日) を期間の起算日とする旨、最近、トルコ特許庁から口頭でアナウンスされたようです。この点について、トルコ特許庁からは何ら書面での通知がされておらず、不確実な情報との感は否めません。しかし、EPOの公告日は、トルコ特許庁の公告日より数ヶ月早いため、トルコ代理人及び欧州代理人達は、安全サイドに立って、EPOの公告日を起算日とするよう、期限管理システムを変更しています。
(4) 2017年4月24日に発効した産業財産法施行規則第117条によると、特許権者が不実施正当理由宣誓書を特許庁に提出した場合、当該宣誓書が公報に掲載されます。一方、いずれの宣誓書も提出しないことを選択した場合も、公報に掲載されます。
3.ご注意点
(1) 上記のように宣誓書の提出は義務ではなくなったものの、現地代理人は、実施宣誓書又は不実施正当理由宣誓書を提出することを勧めています。その理由は、これらいずれかの宣誓書を提出することにより、第三者が強制実施権を請求することを思いとどまらせる可能性があるからです。
(2) 現地代理人は、不実施正当理由宣誓書を提出することを選択した場合、不実施の正当理由についての証拠を、裁判所等に示すことができるよう、保存しておくことを勧めています。また、実施をしている場合も、実施についての証拠を必要なときに提出できるように保存しておくことを勧めています。
編集者注:
オンライン化により実施/不実施宣誓書提出の運用が以下の様に変更されました。
・オンライン上、基本的に実施/不実施の選択のみ可能であり、宣誓書の提出には別途、上申書が必要
・EPOの公告日より三年の提出期限に原則変更はないが、厳格な提出期限ではない