【日本】特許法等の一部を改正する法律公布-査証制度の創設と損害賠償額算定方法の見直し

2019年08月NEW

特許権侵害の可能性がある場合に、中立な技術専門家が現地調査を行う制度(査証)の創設等を主な内容とする特許法等の一部改正案が、2019年3月1日に閣議決定され、5月17日に法律第3号として公布されました (令和元年5月17日法律第3号)。施行日は、一部の規定を除き、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。ただし、後述の査証制度については、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされています。

1.概要
(1)中立な技術専門家が現地調査を行う制度(査証)の創設
特許権侵害の可能性がある場合、中立な技術専門家が、被疑侵害者の工場等に立ち入り、特許権の侵害立証に必要な調査を行い、裁判所に報告書を提出する制度が創設されます(特許法第105条の2等関係)。
(2)損害賠償額算定方法の見直し (実用新案法、意匠法及び商標法においても同様の改正が実施されます)。
① 侵害者が販売した数量のうち、特許権者の生産能力等を超えるとして損害額が減額されていた部分に対して、ライセンス料相当額を加算して損害賠償の請求が可能となります(特許法第102条第1項関係)。
② ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、特許権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨が明記されます(同法第102条第4項関係)。

2.査証制度について
特許権侵害訴訟においては、特許権者側に侵害の立証責任があります。しかし、特に製造方法の特許権の場合等では、侵害の証拠が侵害者側に偏在しているため、侵害の立証が困難なことが多々あります。
新たに導入される、査証制度では、裁判所が選定した中立な専門家が、侵害が疑われる者の施設へ立入って調査しますので、製品を分解しても製造方法が特定できない場合や、被擬侵害品が市場で入手することが難しい BtoB 製品といった場合に特に有効です。
一方で、権利濫用にならないように、要件は厳格に設定され、他の手段では証拠が十分に集まらない等、一定の条件が満たされた場合にのみ、査証が認められます。

3.損害賠償額算定方法について
損害賠償を求める場合、原則として、損害額を主張立証する責任は、原告側にあります(民法第709条)。しかし、特許権が侵害された場合、具体的な損害額の立証が困難である場合が多いため、特許権者の立証責任を軽減すべく、損害額の推定規定が設けられています(以下、現行の特許法第102条第1項~第3項をご参照下さい)。

・第102条第1項に基づく損害額:
「損害額」=「侵害者の譲渡数量」×「権利者の単位あたりの利益」
(但し、権利者の生産・販売能力等を超える部分を控除

・第102条第2項に基づく損害額:
「損害額」=「侵害者がその侵害の行為により受けた利益額」

・第102条第3項に基づく損害額:
「損害額」=「ライセンス料相当額」

現行の特許法第102条第1項では、侵害者の譲渡数量に権利者の単位あたりの利益を乗じて得た額を損害額と推定しますが、権利者の生産能力等を超える部分については、逸失利益は発生していないとして、賠償が否定され、損害額が減額されています。つまり、権利者自身の実施能力によっては、損害額が大幅に減額されていました。
しかも、現行の特許法第102条第1項の損害額と特許法第102条第3項の損害額とを重畳適用することは認められない裁判例も出されていました。
一方、改正法では、侵害者の譲渡数量に権利者の単位あたりの利益を乗じて得た額のうち、権利者自身の実施能力を超える部分についても、他者にライセンスすることが可能であった場合は、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額を加算した額を損害額として損害賠償請求が可能です (改正法第102条第1項第1号及び第2号新設:下図参照)。
これにより、大規模な生産設備等を有しない、中小企業やベンチャー企業でも十分な賠償を得ることが可能となります。但し、権利者がライセンスすることが可能であったと認められない場合は、当該ライセンス料相当額の損害賠償は認められず、侵害者の譲渡数量に権利者の単位あたりの利益を乗じて得た額のうち権利者自身の実施能力を超えない部分の額の損害賠償しか認められません。

図  権利者の生産・販売能力等を超える部分の損害を認定
         (ライセンス料相当額)

ラオセンス

(出典:特許庁:特許法等の一部を改正する法律の概要(参考資料)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/tokkyo/document/tokkyohoutou_kaiei_r010517/02.pdf

4.ライセンス料相当額の増額 (同法第102条第4項新設)
現行の特許法第102条第3項では、同条第1項・第2項での損害賠償が認められない場合でも、最低限、ライセンス料相当額についての損害賠償は認められると規定しています。現在の実務では、その業界におけるライセンス契約の平均ライセンス料率等を参考にして、金額が認定されており、平時のライセンス契約におけるライセンス料相当額の賠償請求しか認められません。
改正法では、「特許権の侵害があったことを前提として合意した場合のライセンス料相当額を考慮できる」とされています (同法第102条第4項新設)。つまり、平時のライセンス契約におけるライセンス料より高い金額を算定できることになります。当該規定は、同法第102条第1項第2号のライセンス料相当額にも適用されます。

詳細につきましては、下記、特許庁のウェブサイトをご参照下さい。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/tokkyo/tokkyohoutou_kaiei_r010517.html