【日本】令和元年の意匠法改正の概要

2020年02月

近年、一貫したデザイン戦略に基づいて製品やサービスの付加価値を向上させることが企業戦略上重要となってきています。こうした動きを支援するために、令和元年5月に意匠法の抜本的な改正が行われ、令和2年4月1日より施行されます。
主な改正点は以下のとおりです。

1.建築物の意匠の保護対象化
現行法では、物品は「有体物である動産」を意味することから、建築物などの不動産について、意匠登録を受けることができませんでした。
改正後は、以下の ①、② をすべて満たす不動産が保護対象となります。

①土地の定着物(継続的に土地に固定して使用されるもの)であること
②人工構造物であること(土木構造物を含む)

例)住宅、オフィス、研究所、工場、ホテル、百貨店、飲食店、病院、博物館、図書館、劇場、駅舎、神社、橋梁、複合建築物など
※複合建築物: 様々な業種のテナントが入る大規模施設など

・図の表示: 建築図面に用いられる【東側立面図】、【西側立面図】、【南側立面図】、【北側立面図】、【屋根伏図】等の記載も認められる。

2.内装の意匠の保護対象化
現行法では、複数の物品(テーブル、椅子、照明器具など)や建築物(壁や床の装飾)から構成される内装デザインは、一意匠一出願の要件を満たさないため、意匠登録を受けることができませんでした。
改正後は、以下の①~③をすべて満たす内装デザインについて、一意匠として意匠登録を受けることができます。
①店舗、事務所その他の施設の内部であること
②複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
③内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること

例)カフェの内装、オフィスの執務室の内装、自動車ショールームの内装、手術室の内装、観光列車の内装など

・図面は内部形態のみを開示すればよく、意匠の特定に支障がない範囲内で、様々な図法による開示が認められる。
・床、壁、天井のいずれか一つ以上を表すことが必要。

3.画像の意匠の保護対象拡充
現行法では、物品と意匠の一体性が求められるため、画像の意匠についても、物品に記録・表示される画像のみが保護対象となっています。

改正後は、物品に記録・表示されているか否かに関わらず、画像そのものを保護することができます。
これにより、クラウド上の画像やネットワークによって提供される画像も保護対象となります。

例:情報表示用画像、コンテンツ視聴操作用画像、取引用画像、学習用画像、音量設定用画像、数値入力用画像など

・現行法上の、物品の表示部に表示された、物品の部分としての画像を含む意匠として保護を受ける方法も認められる。
・テレビ番組の画像、映画、ゲームの画像、風景写真などのコンテンツ画像は、改正後も、意匠法上の保護対象とはならない。
・図面等プロジェクションマッピング等の立体的な奥行きのある画像について、「画像○○図」「画像展開図」等での特定が認められる。
・VRに用いられる、仮想空間内における配置等の表現が認められる。

4.関連意匠制度の拡充
①関連意匠に類似する意匠の登録
現行法では意匠登録を受けることができない「関連意匠にのみ類似する意匠」についても、登録が認められるようになります。

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[図は特許庁発行「改訂意匠審査基準案の概要」より引用]

②出願可能な期間の延長
現行法では、「本意匠の意匠公報発行日まで」(約8ヶ月)とされている関連意匠の出願可能期間が、「最初の本意匠の出願日(基礎意匠の出願日)から10年が経過する日前まで」に延長されます。また、関連意匠の権利期間は、基礎意匠の出願日から25年となります。

③先願や公知意匠の扱い
現行法では、関連意匠を出願する際、本意匠および本意匠を同じくする他の関連意匠との間においてのみ、先願の規定が適用されない(自己の先願により拒絶されない)ことになっています。
改正後は、関連意匠にのみ類似する意匠を出願する際にも、基礎意匠に係る他の関連意匠との間において、先願の規定が適用されません。

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[図は特許庁発行「改訂意匠審査基準案の概要」より引用]

さらに、関連意匠を出願する際、自己の基礎意匠および基礎意匠を同じくする関連意匠と同一又は類似する公知意匠は、新規性及び創作非容易性の判断の基礎となる資料から除外されます。

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[図は特許庁発行「改訂意匠審査基準案の概要」より引用]


5.意匠権の存続期間の変更
意匠権の存続期間の満了日が「設定登録の日から20年」から「意匠登録出願の日から25年」に変更されます。
なお、関連意匠の意匠権の存続期間の満了日は「最初の本意匠(基礎意匠)の意匠登録出願の日から25年」となります。

6.間接侵害の対象拡大
現行法では、「物品の製造にのみ用いる」専用品を生産、譲渡等する行為および物品を業としての譲渡等のために所持する行為を、意匠法上の間接侵害としています。
しかしながら、近年、模倣手口が巧妙化し、意匠権を侵害する製品の完成品を構成部品に分割し、非専用品のように見せかけて輸入する手口等が発見されています。
そこで、こうした模倣手口に対応すべく、改正後は、「その意匠が登録意匠等であること及び当該物品等が意匠の実施に用いられることを知りながら」等の主観的要素を規定することにより、非専用品に対しても、間接侵害が適用されるようになります。

7.出願手続の簡素化
①複数意匠一括出願
現行法では、一意匠一出願の原則により、一件の出願に複数の意匠を含めることができませんが、改正後は、一件の出願に複数の意匠を含めることができるようになります。ただし、この改正は、あくまでも手続の簡素化の観点から行うものであり、一意匠ごとに一つの意匠権を発生させるという原則は維持されます。

②物品区分の見直し
願書に記載すべき物品の粒度を定める「物品区分表」が廃止され、意匠の物品名の柔軟な記載が可能になります。

※上記7.については、施行日が未定(2019年5月17日から2年以内に施行される予定)です。