【中国】中国第4回専利法改正-専利法修正案(草案二次審議稿)の概要
2020年10月
2020年7月3日付け、「中華人民共和国専利法修正案(草案二次審議稿)」(以下「二次審議稿」という)が一般公開され、パブリックコメントの募集 (2020年8月16日まで)が行われた。ここでは、今回の二次審議稿における主な改正点について概略的に紹介する。なお、今回の二次審議稿の改正条文は、弊所の「現行法と修正案(草案)2次審議稿との対照表こちら」をあわせてご参照ください。
一、デザイン保護の強化
1.部分意匠制度の導入(改正第2条)
グラフィックユーザインターフェイス(GUI)等の部分デザインの保護のニーズが高まることに伴い、一次審議稿*1で一旦削除された部分意匠に関する改正条文が再度採用された。部分意匠制度を導入することにより、製品の市場競争力を向上させ、中国の企業の海外への「打って出る」が有利となり、創新を激励し(イノベーションを奨励し)、及び部分デザインの効果的な保護が強化される。
2.意匠権の存続期間を10年から15年へ(改正第42条第1項)
ハーグ協定の加入のための法の整備として、意匠権の存続期間を10年から15年に延長した。なお、上記存続期間は出願日が起算日となる点を留意すべきである。また、部分意匠制度の導入に加え保護期間が延長されることで、意匠権者の保護がより一層強化される。
3.意匠登録出願に国内優先権制度を導入(改正第29条)
国内優先権制度は、1992年専利法改正時に、特許(発明専利)及び実用新案にしか導入されなかった。2008年第3回の専利法改正時に、意匠登録出願にも国内優先制度の導入が要望されたが導入に至らなかったが、今回の改正で、意匠登録出願にも国内優先制度が導入されるようになった。
二、権利侵害の賠償の強化(改正第71条関連)
1.懲罰的な賠償制度(第1項)
2018年3月に李克強総理の政府業務報告の中で「知的財産権の保護を強化し、侵害に対して懲罰的な賠償制度を実施する」ことがはじめて言及され、その後の政策的な文書に懲罰的な賠償とのキーワードが繰り返し強調されてきている。また、2013年改正商標法では、悪意の権利侵害には一倍から五倍の懲罰的な賠償との規定が盛り込まれた。
これを受け、2015年の専利法改正案から、最高で三倍であった懲罰的な賠償が最高五倍に引き上げられた。今回の二次審議稿でも「一倍以上五倍以下」となっている。
なお、2013年改正商標法では、「悪意」となっているが、今回の専利法の二次審議稿では「故意」という表現を使っている。
2.賠償額(損害額)の算定方法の調整(第1項)
専利権者の賠償額の算定方法について、①専利権者の逸失利益による損害額の算定、②侵害者の得られた利益による損害額の算定について、従来の適用の優先順位が廃止され、上記算定方法①と、上記算定方法②とを、今回の二次審議稿では「または」で接続することにより、専利権者が訴えを提起する際に、上記二つの算定方法の適用が選択できるようになっている。
3.法定賠償額(第2項)
法定賠償額について、その上限額が現行法の「100万元」から「500万元」に引き上げられた。
また、前回の一次審議稿の「10万元以上500万元以下」が、今回の二次審議稿では「500万元以下」に変わり、「10万元」という下限が撤廃された。
4.いわゆる「挙証妨害規則」の新設(第4項)
改正第71条第4項に「人民法院は、賠償額の算定のために、・・・場合は、侵害者に侵害行為に関連する帳簿、資料の提供を命ずることができ、侵害者が提供せず又は虚偽の帳簿、資料を提供した場合、人民法院は・・・賠償額を判定することができる」という条項が新設され、いわゆる「挙証妨害規則」のような規定が設けられた。すでに運用されている司法解釈(二)*2 第27条から法律の条文化されたといわれている。
三、医薬品専利関連制度の創設
1.医薬品の存続期間延長制度(改正第42条第3項)
今回の二次審議稿では、前回の一次審議稿における「創新薬」を「新薬」に修正され、ここで「新薬」は、主に「創新薬」と「改良型新薬」を含み、ジェネリック薬は含まないとの解釈も存在するが、「新薬」とは何かについては今後立法者による解説を注目する必要がある。
また、今回の二次審議稿では、前回の一次審議稿における「中国の国境内と国境外同時に上市を申請する」という要件が削除され、米中経済・貿易協定第1.12条の要請である。
2.パテントリンケージ(改正第75条第2項、第3項)
今回の二次審議稿に初めてパテントリンケージに関する条項が改正第75条に追加された。2017年10月に中国共産党中央弁公庁と国務院による「許認可制度の改革の深化及び医薬品医療機器の創新の奨励に関する意見」にパテントリンケージ制度の創設を探索することが提唱された。ジェネリック薬品の許認可における潜在的な専利紛争の低減を主たる目的となっている。
パテントリンケージ制度の創設は、許認可制度の改革の深化及び医薬品医療機器の創新の奨励との中国自身の内在的な需要であると同時に、米中経済・貿易協定第1.11条における「専利紛争を早期解決するための効果的なメカニズム」との要請を受けたものである。詳細な内容は、改正条文をご参照ください。
なお、パテントリンケージに関する改正条項について、今回のパブリックコメントの募集において、多くの関係者から、コメント、意見、提案等が出ている。
四、その他
1.専利開放許諾制度の新設(改正第50条~第52条)
改正第50条に専利権者の開放許諾の設定及び取下げの要件、第51条に開放許諾を受けるための方法、第52条に開放許諾の紛争処理についての規定が新設された。
2.信義誠実原則の明文化及び専利権の濫用への規制の明文化(第20条)
改正第20条には、専利出願及び専利権の行使は信義誠実原則の遵守が明文化されると同時に、専利権の濫用の禁止について規定した。また、今回の二次審議稿には、第2項が新設され、専利権を濫用して競争を排除または制限し、独占行為を構成する場合は「独占禁止法」に基づくことが明文化された。
3.新規性喪失の例外の適用事由の増設(改正第24条第1号)
今回の二次審議稿では、「国が緊急状態または非常事態になった場合、公共利益の目的のために初めて公開された場合」が新たに新規性喪失の例外の適用事由として追加された。コロナウイルスの対応に関連する改正と推測され、公共の利益のための発明の早期公開による出願人への救済のためである。
4.保護期間補償制度(改正第42条第2項)
医薬品の存続期間延長とは別に、一定の要件を満たした権利化の過程における不合理の遅延によって侵食された保護期間(存続期間)が、専利権者の請求により補填されるための条項が新設された。米中経済・貿易協定第1.12条の要請に基づくものである。
5.被疑侵害者も専利権評価報告の提出することが可能に(改正第66条)
専利権者、利害関係人のみならず、被疑侵害者も自発的に専利権評価報告を提出することができるようになった。専利法実施細則第56条第1項及び専利審査指南第五部分第10章第2.2節に規定された専利権評価報告を請求することができる者に対応している。
6.専利の行政執行の強化(改正第68条~第70条)
改正第68条は、過料の上限が現行法の「四倍」から「五倍」に引き上げ、過料の額が現行法の「20万元」から「25万元」に引き上げた。
改正第69条は、2018年の行政機構の改革による組織変更により、第69条柱書の「専利業務管理部門」が「専利の執行を担当する部門」に変更した。
改正第70条は、「国務院専利行政部門は、専利権者又は利害関係人の請求により、全国で重大な影響を及ぼす専利権侵害紛争を処理することができる」という条項が新設され、国務院専利行政部門が「全国で重大な影響を及ぼす専利権侵害紛争」を解決することが可能になった。
7.時効(改正第74条)
2021年1月1日から施行される予定の民法典に規定される一般の訴訟時効に合わせて、改正第74条における専利権侵害訴訟の時効が現行法の「2年」から「3年」に改正される。
8.ネットワークサービス提供者に関する義務条項を削除
前回の一次審議稿では、第71条にネットワークサービス提供者に関する義務条項が設けられたが、今回の二次審議稿では、該当の条項が削除された。2019年1月1日から施行された「電子商取引法」第41条~第45条に関連規定が設けられ、また2021年1月1日に施行予定の民法典第1194条~1197条においても関連の規定が設けられているためであると考えられる。
参考資料(中国語)
1.http://www.lifanglaw.com/plus/view.php?aid=1946
2.https://mp.weixin.qq.com/s/jPTPotNPGUEVtq6WfYY-gA
3.https://mp.weixin.qq.com/s/r80Hd3HxxoPm0QwIV7UoAA
*1「一次審議稿」は、2019年1月に公表された「中華人民共和国専利法修正案(草案)」である。https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/opinion/20190104_1.pdf
*2 最高人民法院による「専利権侵害紛争事件の審理における法律の適用に関する若干問題の解釈(二)」法釈〔2016〕1号