【中国】最高人民法院が「2020年中国法院知的財産司法保護状況」及び人民法院の知的財産の司法による保護計画(2021-2025年)を公表

2021年05月

 2021年4月22日に最高人民法院によって記者会見が開催され、全国法院2020年知的財産の司法による保護の全体的状況が紹介されたとともに「2020年中国法院知的財産司法保護状況」(以下「知財白書」という)が公表され、人民法院の知的財産の司法による保護計画(2021-2025年)、2020年度知的財産十大案件、五十件典型案件も公布された。以下に、2020年知財白書及び人民法院の知的財産の司法による保護計画について簡単に紹介する。

1.2020年知財白書について
 2020年中国の各人民法院による一審、二審、再審請求などを含む知的財産関連案件の新受件数が525,618件で、対2019年比9.1%増で、既済件数が524,387件で、対2019年比10.2%増であった。
 ここでは、上記2020年知財白書で公表されたデータが反映された中国の知財動向について、中国における知財訴訟民事事件の受理件数(表1)(こちらをご参照)、中国における知財訴訟行政事件[1]受理件数(表2)及び中国における知財訴訟民事事件(一審)の受理件数の内訳(表3)のデータをまとめた。
 2020年に最高人民法院は、商業秘密、専利の権利授与・権利確認、ネットワーク知的財産権、知的財産権の刑事保護及び知的財産権民事訴訟の証拠等に関する司法解釈及び規範的文書を公表し、裁判規則の明確化、法律適用上の難問難題の解決、司法基準の統一、知的財産権保護の強化、侵害行為への厳罰を図った。民法典と知的財産権の特別法の正確及び統一した適用の確保のために、知的財産権類の司法解釈を集中的に整理し、18件の司法解釈を改訂し、4件の司法解釈を廃止した。
 裁判の品質向上の一環として、2020年中国法院10大知的財産案件、50件の知的財産典型的案例を公表し、案例指導が強化された。また、専利、回路配置、コンピュータソフトウェア、植物新品種等の分野における知的財産権の保護を強化し、人工知能、ビッグデータ、スポーツイベント及びネットゲームの生配信等新類型の事件を適切に審理し、新業態の規範的な発展の促進を図った。

2.人民法院の知的財産の司法による保護計画(2021-2025年)について
 「人民法院の知的財産の司法による保護計画(2021-2025年)」(以下「計画」という)は、「十四五」期間における知的財産の保護の指導思想、基本原則、全体的な目標及び重点措置を明確にした。「計画」では、「十四五」期間における人民法院の知的財産の司法による保護の全面的な強化に関する全体的要求及び具体的な措置が明確にされ、以下の特徴を有する。
 その一、時代の主題に密着し、中央[2]の方策を積極的に取り組む。「計画」は習近平総書記の重要講話における精神の本質及び核心的な意義を正確に把握し、「十四五」計画綱要を全面的に照準し、「知的財産の保護強化に関する意見」を確実に実行し、国家戦略のレベル及び新たな発展段階に入るための要請の視点から、知的財産の司法による保護の目標、任務及び措置を明確にしている。
 その二、新たな発展段階に立脚し、経済社会発展の大局に積極的にサービスを提供する。「計画」は「知的財産を保護することは創新を保護することである」との理念により、重要分野における知的財産権の保護を強化し、科学技術の「自立自強」を促進することに注力する。法に依る平等な保護を強調し、市場化、法治化、国際化したビジネス環境を積極的につくりあげる。種子分野の自主的創新を促進し、地理的表示を強化し、農村の振興を全面的に推進し、農業農村の現代化に司法サービス及び保障を提供する。
 その三、問題の解決の指向を堅持し、効果の長続きメカニズムの確立を重視する。「計画」は権利者の挙証責任の軽減、審理期間の短縮、賠償額の引き上げ、権利保護のためのコスト低減、知的財産保護の全体的な効力の向上に全力を尽くすことに注力する。体制のメカニズムの建設に立脚し、専門化裁判体系を改善し、訴訟制度を健全化し、裁判保障を強化し、知的財産の司法による保護業務を全面的に強化する。
 その四、各方からの注目に応え、国内、国際の二つの大局を両立させる。「計画」は知的財産の保護の制度を厳格に実行し、中外の当事者の合法的権益を平等に保護し、経済社会の発展の実際のニーズに積極的に応える。知的財産権分野の国家安全の維持を強調し、知的財産司法分野におけるグローバル的なガバナンスに積極的に参加し、司法裁判を通じて関連の国際的ルール及び標準の改善を推進させる。
 また、「計画」が重点的に注目するポイントは以下の通りである。
 その一、裁判の職能を発揮させる。裁判の品質及び効率の向上に注力することを強調し、司法の公信力を向上させ、創新成果の保護を強化し、文化の創作を激発させ、有名なブランドを育てるのに助力し、権利侵害の犯罪行為を厳罰し、公平な競争との市場秩序を維持させる。
 その二、司法改革を深化させる。国家レベルの知的財産案件の上訴審理メカニズムの建設を引き続き深化させることを強調し、知的財産専門化裁判機構の配置の改善を推し進め、インターネット法院における裁判機能の建設を大いに強化させ、知的財産裁判「三合一」改革を深化させ、案件の煩雑、簡単の仕分けの推進を深化させる。
 その三、業務のメカニズムを最適化させる。法律の適用基準の統一のメカニズムの更なる改善を強調し、知的財産権の行政執行の標準及び司法裁判基準の統一を促進し、紛争解決メカニズムの多様化を健全化し、行政執行と司法との連携を強化し、知的財産の国際的協力と競争を深化させる。
 その四、裁判の保障を強化する。政治能力の建設強化を強調し、国家の大局へのサービスとの意識を強固にさせ、知的財産裁判の部隊の構築を大いに推進し、優秀な人材の選抜と養成を強化し、スマート裁判所の建設成果を充分に活かして司法的保護業務の助力とし、各政策の確実な実行を確保する。

参考情報 http://www.court.gov.cn/zixun-zhuanti-aHR0cDovL3d3dy5jaGluYWNvdXJ0Lm9yZy9hcnRpY2xlL3N1YmplY3RkZXRhaWwvaWQvTXpBd05NakxOSUFCQUEuc2h0bWw.html

[1] :日本の「審決取消訴訟事件」に相当する。
[2] :「中央」は「中国共産党中央委員会」の略である。