【英国】最高裁が均等論を認める

2017年10月NEW

2017年7月12日、英国最高裁は、Eli Lilly v. Actavis UK事件において、均等侵害を認め、Actavis UK (以下「Actavis」) がEli Lilly(以下「Lilly」)の特許を侵害していると判示しました。

これまで英国の侵害訴訟では、クレーム文言の厳密な解釈により確定される権利範囲を拡張する考え方として、合目的的(purposive)にクレーム範囲を解釈するという手法が採られてきましたが、均等論の適用はないとされていました。今般の最高裁判決は画期的であるといえます。

判決文はこちらのURLからご覧いただけます。

https://www.supremecourt.uk/cases/docs/uksc-2015-0181-judgment.pdf

A.事件の背景・経緯

1.Lillyの特許
(1) Lillyの特許(EP特許1 313 508)の請求項1は、次の通りです。
Claim1.Use of pemetrexed disodium in the manufacture of a medicament for use in combination therapy for inhibiting tumor growth in mammals wherein said medicament is to be administered in combination with vitamin B12・・・ (以下省略)

(2) ペメトレキセド(pemetrexed)は、抗がん剤の一種ですが、その極めて重大な副作用により、治療の現場では使われておりませんでした。ところが、Lillyは、ペメトレキセド・二ナトリウム塩(pemetrexed disodium)を「ビタミンB12と共に投与することにより、副作用を顕著に抑制できることを発見し、ペメトレキセド・二ナトリウム塩をビタミンB12を含む医薬の形態で治療に使用することを可能にしました。

Lillyは、英国、フランス、イタリア及びスペインで上記EP特許を有効化し、上記医薬をアリムタ(ALIMTA®)という商品名で販売しています。 

2. Actavisの販売予定製品

Actavisは、ペメトレキセド・二ナトリウム塩の代わりに、①ペメトレキセド二酸(pemetrexed diacid=遊離酸形態のペメトレキセド)、②ペメトレキセド・ジトロメタミン (pemetrexed ditromethamine)又は③ペメトレキセド・二カリウム塩(pemetrexed dipotassium) を用いたジェネリック製品の販売を計画しており、これら製品がLillyの特許を侵害していないことの確認を、英国裁判所に求めました。

3. 第一審及び控訴審の判決

第一審裁判所 (The High Court) では、Actavisの製品は、英国、フランス、イタリア及びスペインにおいて、直接侵害も間接侵害も構成しないと判断されました。
控訴審裁判所 (The Court of Appeal) では、上記4カ国において、間接侵害を構成すると判断されました。しかし、直接侵害は構成しないと判断されました。
この控訴審判決を不服として、Actavis及びLillyの双方が上告しました。

B.最高裁判決

最高裁での争点は、次の通りでした(判決文段落10)。
1.直接侵害に関してEPC2000第69条の議定書(protocol)に規定される均等論を考慮してクレームを解釈するべきか否か
2.権利範囲を確定する際に、審査経過を考慮することが許容されるのはどの程度か
3.本件で寄与侵害の法理を適用して間接侵害を認めるのが妥当か否か
最高裁はこれら争点について、この順で、判断を示しました。なお、本稿では、紙面の関係上、直接侵害についてのみ説明します。

 

1.直接侵害 (均等)

(1) 判決文の段落27に、両当事者の主張内容が次の通り要約されています:
・Lillyの主張:
Actavisの製品は、ペメトレキセド二酸又はペメトレキセド塩とビタミンB12とからなる医薬であり、これは本件特許の開示とクレームの本質であるから、本件特許を侵害する。
・Actavisの主張:
本件特許のクレームはペメトレキセド・二ナトリウム塩に限定されているのに対して、Actavisの製品はペメトレキセド二酸又は異なるペメトレキセド塩を含有するから、侵害しない。

(2) 今般の最高裁の判決では、特許権者の公平な保護と第三者の法的安定性を確保するため、EPC2000で改正されたEPC69条の解釈に関する議定書(以下「議定書」)に照らし、且つ、国内及び欧州諸国の判例を参考に、均等侵害の有無を判断するガイドラインとして以下の新しいテストi)~iii)が示されました (判決文段落66)。

  i) 被疑侵害品が、特許クレームの文言通りの意味に含まれていない場合でも、特許発明、すなわち特許によって明らかにされた発明思想、と実質的に同一の結果 (result) を実質的に同一の方法 (way) で達成するか?

 ii) 優先日に当該特許を読み、被疑侵害品が本発明と実質的に同一の結果を達成することを知っている当業者にとって、被疑侵害品が当該特許と実質的に同一の結果を達成するのは、当該特許発明と実質的に同一の方法によるということが自明であっただろうか?

 iii) 当該特許を読んだ当業者は、当該特許のクレームの文言通りの意味に厳格に従うことが発明の必須要件であることを特許権者が意図していたと結論づけるか?

(3) 最高裁は、上記質問i)~iii)を本件へ当てはめ、Actavisの製品は侵害を構成すると判断しました。その理由は次の通りです。

質問i) に関して、 Actavisの製品は、いずれも、最終的にはペメトレキセド・アニオン及びビタミンB12を含有する医薬であり、本件発明と実質的に同一の方法で実質的に同一の結果を達成する(判決文段落68)。

質問ii) に関して、ペメトレキセド薬剤の他のバージョンとして、遊離の酸、ジトロメタミン塩及び二カリウム塩の使用が確立されており、しかも、これらが奏功するかどうかについては、当業者はルーチンの試験により検討できる。従って、当業者は、Actavisの各製品がペメトレキセド・二ナトリウム塩と同様に奏功すると認識するであろう(判決文段落69)。

質問iii) に関して、控訴審判決は、クレームの文言に重きを置き過ぎ、議定書第2条の検討が不十分である。本件特許でペメトレキセド・二ナトリウム塩以外の塩を除外する意図があったとは言えない(判決文段落70~74)。

以上より、Actavisの製品はLillyの特許を侵害すると結論づけました。

2.包袋禁反言

(1)当該特許クレームは、審査の段階において、「抗葉酸剤」から「ペメトレキセド・二ナトリウム塩」に補正されました。そのため、Actavisは、特許権侵害の有無を判断する際に、包袋禁反言の原則を適用すべきであると主張しました。

(2)これに対して、最高裁は、英国及び欧州諸国の判例を検討し、包袋履歴を考慮に入れるのは、他の状況もあるかもしれないが、現時点では、次の場合に限られると指摘しました(判決文段落88):

(i)争点が、特許明細書とクレームのみからでは、全く不明確であり、包袋履歴の内容がそのポイントを一義的に明確にする場合、又は

(ii)包袋履歴の内容を考慮しないことが公共の利益に反する場合(例えば、特許権者が、EPOに対して、被疑侵害品にまで特許の範囲を拡張する意志はないと明言している場合)

(3)最高裁は、上記 (ii) の点に関して、本件特許の審査経過を検討し、本件特許の審査経過は上記直接侵害についての結論を変更することを正当化するものではない、と結論づけました(判決文段落89~91)。

C.実務への影響

1.今般の最高裁判決は、英国での法的不確実性を増大することになりますが、英国の侵害実務をドイツ、米国及び日本等の実務に近づけ、国際調和への第一歩になるとみられています。

2.過去の英国判例に基づき非侵害の見解書を得ていた場合は、均等論の適用を認めた今回の最高裁判決に照らし、再検討する必要があると思われます。

3.今般の最高裁判決によると、被疑侵害者は、些細な変更を加えるだけでは侵害を回避できなくなる可能性が高まると思われます。しかし、出願人 (特許権者) としては、侵害品が均等論に依拠することなく文言侵害となるように明細書を作成することが安全です。