【中国】懲罰的賠償の適用に関する司法解釈(法釈〔2021〕4号)-2021年3月3日から施行

2021年03月

2021年3月3日に、最高人民法院による知的財産権侵害の民事事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する司法解釈である法釈〔2021〕4号が公布され、同日から上記司法解釈が施行された。ここでは、最高人民法院の公式サイトに掲載された最高人民法院民三廷の責任者が記者への回答の内容の概要を紹介する。なお、上記司法解釈の条文についてはこちらをご参照ください。

1.趣旨
 裁判基準を明確にすることにより、各級法院への懲罰的賠償の正確な適用を指導し、知的財産権の重度な侵害行為を懲罰する。

2.司法解釈の制定の背景
 2018年11月5日に習近平総書記が、第一回中国国際輸入博覧会で「中国は懲罰的賠償制度を導入する予定」と発言した後、懲罰的賠償制度に関する法律の改正及び政策制定作業が加速して推進された。また、2019年に改正された「中華人民共和国反不正競争法」、2020年に改正された「中華人民共和国専利法」、「中華人民共和国著作権法」等の知的財産関連法律にはいずれも懲罰的賠償に関する条項が追加された。2020年に公布された「中華人民共和国民法典」において知的財産の懲罰的賠償制度の規定が設けられ、このことは懲罰的賠償制度が知的財産分野において「全面的にカバー」することが実現されたことの証となる。2020年11月30日に開催された中央政治局第25回集団勉強会では、習近平総書記が「知的財産の懲罰的賠償制度の確実化を急ぐ」ことを強調した。
 なお、2013年改正された「中華人民共和国商標法」、2015年改正された「中華人民共和国種子法」には率先して懲罰的賠償制度が確立されていた。

3.司法解釈の主な考え方
(1)習近平総書記の重要指示の貫徹
 知的財産事件の規律に応じた訴訟規範を積極的に探索して改善し、創新(イノベーション)に有利な知的財産権の法治環境を最適化し、知的財産強国及び世界での科学技術強国の建設、社会主義現代化国家の全面的な建設に堅実な司法サービス及び保障を提供する。
(2)法律の統一、正確の適用の保証
 上記司法解釈は、著作権法、商標法、専利法、反不正当競争法、種子法等の多くの法律(中国では「部門法」という)に関わっており、起草の過程で、民法典の正確で、統一した適用の要請に従って法に依り解釈し、懲罰的賠償の適用標準の統一を保証するとともに、それぞれの部門法の間の表現上の差異を可能な限り調整し、全面的な平等保護原則を堅持し、適用条件を慎重に考慮した。また、具体的な条文はいずれも実体法及び手続法上の根拠を有している。
(3)問題指向を堅持する
 2014年及び2017年に専利法と著作権法の実施状況について、全人代常務委員会による法的執行の検査が行われ、その報告書では知的財産事件の賠償額が低い等の問題が指摘されていた。知的財産事件の賠償額が低いことは、権利者の蒙った損害が補填されにくい一方で、知的財産権の侵害を効果的に抑制することができなくなる。上記司法解釈の起草が、このようなネックとなる問題を踏まえ、侵害のコストを大幅に引き上げ、知的財産権を重度に侵害する行為を法に依り懲罰を加えるようにした。
(4)実務上の操作性(使い勝手)を良くする
 上記司法解釈は、法律の適用の標準を明確にし、懲罰的賠償の司法適用の操作性(使い勝手)を強化し、当事者に明確な訴訟ガイドを提供し、司法解釈の使いやすさ、操作性を確保することを趣旨とする。
 上記司法解釈には7箇条の条文が設けられ、知的財産権の民事事件における懲罰的賠償の適用範囲、請求内容及び時期、故意及び情状が重大の認定、算定の基数及び倍数の確定、発効時期等について具体的な規定が設けられている。

4.司法解釈のハイライト
(1)「故意」と「悪意」との関係を明確にした。民法典における主観的要件の規定では「故意」となっているが、商標法第63条第1項、反不正競争法第17条第3項の規定では「悪意」となっている。多く方に意見を聞き取り、研究を重ねた結果、「故意」と「悪意」は同義と理解すべきである。
(2)情状が重大の認定基準を明らかにした。情状が重大は懲罰的賠償の構成要件の一つであり、主に行為者の手段方法及びそれによる結果等の客観的な側面に対するものであり、行為者の主観的状態にはあまり関わっていない。上記司法解釈第4条に規定の考慮された要因は主に既存の典型的案例に由来している。
(3)懲罰的賠償の基数の算定方法を明確にした。著作権法、専利法では基数の算定の順序について規定されていなかったが、商標法、反不正競争法及び種子法では前後の順序が規定されている。また、法律によっては懲罰的な賠償に合理的な支出を含むか否かが必ずしも一致しているとは限らない。そのため、上記司法解釈第5条に規定された「法律に別途規定がある場合はそれに従う」は、異なる事件の類型にそれぞれ対応の法律が適用されることを意味することになる。
 懲罰賠償制度の権利侵害に対する抑止機能を活かすために、知的財産権裁判実務に立脚し、上記司法解釈では、原告の主張と提供された証拠によって確定した賠償額を基数の一種としている。同時に、虚偽の帳簿、資料を提供した場合は民事訴訟法第111条に基づいて法的責任を追及するとの規定を設けた。

5.懲罰的賠償制度の濫用防止への対策
(1)懲罰的賠償の適用要件を明確にすることで、裁判規則上懲罰的賠償の濫用の防止の保障を提供する。
(2)典型的案例を通じて指導を強化する。最高人民法院は近いうちに知的財産懲罰的賠償の典型案例を公布することを予定している。このような典型的案例を通じて、上記司法解釈の条文の意義をより正確に把握するようにし、各法院が上記司法解釈を正確に適用するように指導する。

参考情報 http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-288861.html