不正競争防止法について-(2)

  • それでは、もっと分かり易く理解してもらうため、実際に法廷で争われた事例を挙げてご説明していきましょう。

    【事例1】 タレントの芸名と企業グループの営業表示に関する事例

    これは、タレントの高知東急(たかちのぼる)の名前が、「東急」という周知表示を侵害しているかどうか、また、企業としての営業表示と個人名との間で誤認混同が生じるといえるかどうかについて争われたケースです。

1)原告:「東急」グループ主張内容→「東急」という商号は周知のものであり、混同を生じる。
2)被告:タレントの高知東急(たかちのぼる)
主張内容→(1)不正競争防止法11条1項2号の規定により、「高知東急」は、自己の氏名を不正の目的なく使用する行為であり、不正競争防止法の適用除外の対象となる。
3)裁判所の判断
(1)混同について広義の解釈を認めた。
広義の混同(経済的又は組織的な何らかの密接なつながり)とは、企業間では、典型的には系列関係や提携関係を示す場合が多いが、それのみに限定されるものではない。本事例のように、周知表示の主体が企業であり、類似表示の使用者が個人の場合には、
イ)類似表示の使用者が周知表示の主体に所属している
ロ)類似表示の使用者の活動が、周知表示の主体によって支持される又は類似表示の使用を許諾されている
ハ)類似表示の使用者が周知表示の主体の資金的援助を受けている
等の関係をも含むべきである。
(2)更に、原告グループが、広報活動としてのコンサート等の芸能に関連する催しを幅広く行っていることを考慮すると、被告の「東急」なる表示は、原告およびグループを連想させるものである。
(3)被告の主張である-不正競争防止法11条1項2号の規定(自己の氏名を不正な目的なく使用する行為は当該法の適用外である)-については、芸名の場合には自然人の氏名とは異なり、生まれながらに有しているものではなく、選択可能であることから、他人の周知の営業表示を無断で使用できない。

【事例2】 著名表示(マクセルおよびMAXELL)による差止請求事例

これは、原告(日立マクセル)が被告(株式会社日本マクセル)に対し、その著名表示(マクセル、MAXELL、maxell)の使用差止を請求した事例です。争点のポイントは、被告の営業表示は原告の著名表示と類似するのかどうか、不正競争(フリーライド、ダイリューションの存在の有無)といえるのかどうかです。

1)原告:日立マクセル株式会社の主張内容→マクセル、MAXELL、maxellは著名商号および商標であるので、使用の差止を要求する。
2)原告:株式会社日本マクセルの主張内容→不正競争防止法2条1項2号(著名表示)の要件に形式上該当していても、ダイリューション(希釈化)、ポリューション(汚染)、フリーライド(ただ乗り)に該当しない場合には不正競争性はない。被 告による被告商品表示は当該各要件に該当しない。
3)裁判所の判断
(1)原告標章は著名といえるかどうか→日本国際知的財産保護協会がH10年に発行した「日本有名商標集」や電子図書館における「日本周知・著名商標検索」にも原告の当該商標は掲載登録されており、原告商標はいずれも著名といえる。
(2)類似かどうか→被告表示の「株式会社日本マクセル」については、日本は国名を表示するため識別力は弱い。識別力が強くなるのは、「マクセル」である。この表示は原告の「マクセル」とは全く同一であり、また、「MAXELL」および「maxell」とは呼称が同一であるから原告表示とは同一であるといえる。
(3)不正競争に該当するかどうか→
イ)原告表示は、「Maximum Capacity Dry Cell」、つまり、創業時の製品である乾電池の商品表示の最初の3文字ずつを用いた造語であり、原告の表示として独自性がある。
ロ)原告は、優れた性能を備える商品の開発や各種の賞を受けた独創的な広告によって評価を受け、商品の売上高を向上させてきたものと認められ、原告商品等表示は良い印象を備えており、顧客吸引力があると推定される。
ハ)被告による、被告商品等表示の使用は、ダイリューション(希釈化)およびフリーライド(ただ乗り)に該当すべきである。
二)従って、被告は上記ハ)によるダイリューション、フリーライドに該当し、不正競争に該当する。

【事例3】 宗教法人の名称(天理教)が不正競争防止法の対象でないとされた事例
(東京高等裁判所での控訴事件)

本事例の背景としては、第一審(東京地方裁判所では、被控訴人である宗教法人天理教の主張を容認し、控訴人(宗教法人天理教豊文協会)が使用している「天理教豊文教会」の商号は不正競争防止法2条1項1号および2号の不正競争行為に該当するとして使用差し止めを求めた。これに対して、天理教豊文教会が高等裁判所に控訴したのが本事例であります。

1)控訴人:宗教法人天理教豊文教会の主張内容→控訴人は不正競争防止法が対象としている営業を行っていないため、当該法の対象にはならない。従って、地裁の裁定には承服しかねる。
2)被控訴人:宗教法人天理教の主張内容→ 
(1)現在は公益事業を含めその他の事業は行っていないと主張するが、規則の変更等により事業を行うことは可能であり、その場合には事業上の競争が生じることになる。
(2)また、控訴人による当該商業使用は、宗教上の人格権も侵害することなる。
3)裁判所の判断
(1)宗教法人の宗教活動は、不正競争防止法1条、2条1項1号~3号の「事業」又は「営業」に該当しない。

「理由」          
*各条項にいう「事業」又は「営業」とは、
イ)単に営利を直接の目的として行われる事業に限らず、
ロ)事業者間の公正な取引秩序を形成し、
ハ)その公正な競争を確保する必要が認められる事業を含むと解される、
二)従って、役務又は商品を提供してこれと対価関係にたつ給付を受け、これを収入源とする経済収支上の計算に基づいて行われる非営利事業もこれに含まれると解される。

*宗教活動は、
イ)教養を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成することを内容とするものであり、
ロ)収益を上げることを目的とるものでもなく、
ハ)信者の提供する金品も、寄付の性格を有するものであって、宗教活動を対価関係に立つ給付として支払われるものではない
二)また、これを対価関係にたつ給付を信者から受け、それらを収入源とする経済収支上の計算に基づいて行われる活動ではない。
ホ)宗教活動において競争を観念しても、その目的は布教を通じての信者の拡大や教義の宗教的・哲学的な深化の度合いといった、市場経済とのかかわりのない分野であり、不正競争防止法が公正の理念に基づいて規制しようとする競争には該当しない。           
(2)被控訴人(天理教の主張)に対して、
現在は、控訴人が公益事業その他の事業を行っていないとしても、規則の変更により容易に事業を行うことが可能であり、その場合には事業上の競争が生じることになる。という主張に対し、
高裁は、将来そのようなことが生じても(非営利事業)、当該事業の分野に限定して不競防法を適用し、その分野に関し、被控訴人が控訴人の名称の使用を差し止める根拠となりえても、宗教活動の分野をも含めて控訴人の名称の使用を差し止める法的根拠とはなりえない、と判示した。  
(3)名称権に基づく請求について
控訴人が「天理教豊文教会」の名称をしようすることには相当な事由があるというべきである。
控訴人の名称の採択使用は宗教団体の名称決定の自由の範囲を超えた違法なものとは認められず、従って、控訴人の名称の使用が被控訴人の名称権を違法に侵害するということはできない。
「理由」            
*宗教法人の名称決定の自由については、これを規制する法律が存在せず、その意味で広範な自由が保障されていることを前提に、下記2つの側面の調整という見地にたって制約の範囲を考慮すべきである。
イ)先の宗教団体の名称権の保護を理由に、後の宗教団体の名称決定の自由を制約した場合、後者の宗教活動に対する不当な制限を伴いかねないので、このような事態は避けるべきである。
ロ)他方、同一又は類似の名称採択に制約を加えないと、宗教活動の相手方である一般人の間に誤認混同を生じ、また、宗教団体同士の間でも、宗教上の教義の異なる他の宗教団体との混乱が生じる可能性は否定できない。
*上記の見地からすれば、後の宗教団体が、先の宗教団体の成果を不当に利用するなどの不正目的の場合、後が先の名称と類似又は同一の名称を使用することに相当な事由がない場合、又は、事由があっても同一又は類似の名称使用が先の宗教団体との識別を不可能又は著しく困難とする事態をもたらす場合などは上記名称決定の自由は制約を免れない。
4)被控訴人(宗教法人天理教)は、当該高裁の裁定を不服として最高裁判所に上告しましたが、結局は、最高裁も高裁の判決を支持しました。

(以上)

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