ライセンス契約(特許およびノウハウ)について -その(2)

  • 前回に引き続きライセンス契約のお話をさせていただきます。
    今回は、事例(2)特許権者が方法特許を有し、装置メーカー(当該装置により得られた製品について方法特許以外にも汎用性のある装置の場合)にライセンスを許諾し、当該装置を購入したユーザーが特許権者の方法特許を実施する場合のケースについてご説明しましょう。
    この場合、まず、特許権者からの侵害警告状に対して、装置メーカーはその回答状の中に、これまで製造販売してきた装置の台数を詳細に回答してしまっており、自明的に侵害を認めるような事態になっておりました。後の章でもご説明しますが、侵害についての警告状に対しては、慎重に対処すべきであり、早々に侵害を認めるような回答は避けるべきでした(ただ、当該装置メーカーは特許権者とも取引関係にあり、良好な関係を継続するために安易な妥協をしたようです)。

    従って、かかる場合は、侵害有無を今更主張しても解決にはならないため、権利者から要求を受けた実施料額に対する値下げの合理的理由を主張し、少しでも装置メーカーの負担を軽減させることが重要なポイントとなります。

    その論点のポイントは、

(1)当該装置は、対象の方法特許を使用するためにのみ製造されたのではなく、他の方法の実施も可能な汎用性のあるものであることを主張し、実施料額を少しでも軽減させること、
(2)実施料の算定根拠となる装置の販売額はかなりな金額になるため、正味販売額を算定ベースとし、正味販売額をできるだけ、低く抑えること(言い換えれば、販売額から差し引くコストの幅をできるだけ大きくすること)。


となります。
具体的な交渉結果、

(1)権利者は装置販売額に対して3%の実施料を要求してきましたが、汎用性のあること(つまり、ユーザーが当該装置を使用して当該方法特許を実施する確率)を根拠に、1%にまで減額させることに成功しました。かかる場合に注意すべきは、交渉時では、当然に両者の駆け引きが大切になりますが、相手の要求を減額させるには、それなりの根拠と理論展開が必要になることです。当該装置を使用する目的がどのような範囲にあり、ユーザーはどの位の確率で当該方法特許を使用するのか-つまり、当該方法特許の価値がいかようなものであるのかを利用分野の分析を行い、説明しないと納得はしてもらえないでしょう。本件の場合には、権利者と装置メーカーとも分野には詳しいため、装置メーカーからの説明にも権利者は納得してくれましたが、分野が違う場合には、権利者を説得することは大変な労力を要することになります。
(2)算定ベースとなる販売額をそのまま売値額とすることは賢明ではありません。販売額には、種々のコストがかかっており、実施料は、実施者が当該特許を実施または使用することで、どの位の利益があがったか、その利益に対して、何がしかのリターンをするというのが、基本的な考え方です。従って、販売額をベースとするにしても、当該装置を販売するに要した必要経費は差し引き、正味の販売額(通常は、利益額は明確な算定が困難なため、最低限度の販売額をベースとします)に対して、何%の実施料とするのです。このため、通常は、製品の返品額、割引額、運搬・配送・輸送費、保険料、梱包費等を差し引き材料として要求すべきです。ただし、開発に要した費用とか、人件費は控除対象としては認められないというのが原則となっております。
  • 次に、事例(3)あるプリンターのメーカーが海外企業と連携し、自らが製造するプリンターを日本では自らの販売ルートで自らの商標で販売し、米国や欧州では、OEM製造した同じプリンターを別の商標で当該連携会社の販売ルートで販売する中で、第三者が、最終ユーザーが当該プリンターを使用した目的物を利用する方法の特許を所有しているケースです。この場合に問題となるのは、日本では、当該プリンターを購入するユーザーに対して、特許権の範囲である方法の実施可能性について、当該プリンターメーカは販促資料やHPでうたっているため、間接侵害(特許法101条)を形成しているのは明確ですが、当該方法特許の対応外国特許(米国、欧州)については、当該海外連携企業が調査した結果では、クレームの範囲が大幅に減縮されており、当該プリンターを使用した製品について、ユーザーが必ずしも対象特許を実施しないし、当該米国企業も対象特許の実施可能性については、一言も販促材料ではうたっていないとのことです。

  • このような場合に、日本で製造されたプリンターが海外で販売され、これを購入したユーザーが対象特許を実施しないとき、米国や欧州に輸出することが、果たして、特許権者の権利を侵害することになるのか?
    判例等を調べても明確な回答はないのが実情(見解が分かれている)です。現実には、当該プリンターメーカは、特許権者からの警告状に対して、OEM製造したプリンターの台数を回答状で詳細に明かしていること、更に、当該米国連携企業との基本契約でも特許係争が生じても、当該プリンターメーカで自己の費用と責任で解決することと規定されており、現状では、打開の方法が見つからないという状態です。
    恐らく、当該プリンターメーカは、このように当該プリンターを購入したユーザーが実施することになる方法特許について問題になるとは、夢にも思わなかったに違いありません。現状打開の方策としては、(1)上記にも述べたように、日本で製造したプリンターを輸出すること(実際の米国の当該プリンター購入者は特許権者の方法特許を実施しない場合)が果たして、日本の方法特許の侵害になるのかどうかを裁判で争い、白黒を明確にさせる、(2)警告状で回答した中にOEM製造品についての詳細を説明してしまったため、侵害を暗に認めたような形になっているため、争ったとしても、白黒がつくか、つまり、プリンターメーカにとって有利な判決がでるかどうか、はなはだ疑問であるため、実施許諾を受けることを承諾し、実施料についての減額の面で少しでも負担が軽減するような交渉をもつ、のどちらかしか選択肢はないようです。

    現実には、実施料をかなり減額させることにより、当該OEM製品についても実施料を支払う道をメーカーは選択しました。
    このような事例を踏まえて注意する点は、

    (1)警告状がきた場合、慎重に対応し、安易に回答状で実施の現状を報告しないこと、
    (2)当然に当該プリンターを販売する場合には、関係する特許の有無の調査は必ずしておくこと、
    (3)OEM製造した連携先との契約においても、特に侵害条項については、前もって、専門家の意見を聞き、余り、自己に不利な内容を受け入れないこと
    等の事前の方策をしっかりしておくことを忘れないようにして欲しいと存じます。

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