-その(3) 秘密保持契約および共同研究開発契約について-(2)

    • 前回に続いて、今回は、英文の共同研究開発契約についての留意点をご説明しましょう。 国内の企業間や企業と大学間の共同研究開発は活発にされていますが、海外との共同研究や開発については各国における規制や法律との関連で必ずしもスムーズにいくとは限りません。
      また、研究および開発のレベルになると、お互い、技術情報や実験データのやりとり並びに研究成果の交換や発明が生まれるケースも十分考えられます。ここで、留意しなければならないのは、まず、米国の企業や大学との共同研究・開発契約において、上記技術情報や実験データ(特に米国側から日本企業または日本企業から派遣されている研究者に開示される場合)については、輸出管理規制の対象にはならないのかどうかの確認(これを怠ると産業スパイ法による罰則の対象となるリスクがあります)が必要となります。また、当然に米国で発明が生じた場合に米国側の単独となる場合は別として日本企業との共有になる場合に、当該発明を日本側の研究者に開示するにあたっては米国特許法のルールの対象となりますので、この点も十分理解した上で対応することが肝要です。

    • 英文の契約においても、注意する項目については、国内で説明しました項目と特に変わる点はありませんので、該当項目に対する注意点をお読みいただければと存じます。 Definition(定義), Objective of this Agreement(本契約締結の目的), Research(研究分担などの内容), Collaborative Development Agreement(次ぎの段階としての共同開発の詳細), Expense(費用分担), Patents(研究成果の帰属), Samples(研究用サンプル提供), Preservation of Data(技術情報及びデータの管理), Confidentiality (秘密保持), Publication(発表), Non-competition(競合する研究禁止), Term and Termination(期間および解約), Rights and Obligations upon Termination(契約終了後の権利および義務), Regulatory Clause(一般条項) 等

    • 共同研究・開発契約については、米国およびEUでも独占禁止法の規制の対象となっております。
       それぞれの国における共同研究開発に対する独占禁止法の考え方を以下にご説明しておきましょう。

      1)(1)米国
       司法省「研究者のための共同事業に関する反トラストガイド」
      (19808 Antitrust Guide Concerning Research Joint Ventures)
      共同研究に関する反トラスト法の分析を行ったもので、共同研究事業の本質的要素、共同研究に付随する制限、共同研究への参加および成果に係るアクセスに関する制限について分析しております。基本的な考え方は日本における独占禁止法と余り変わらないと存じます。
      (2)国家共同研究法
      (National Cooperative Research Act of 1984)
      共同研究開発の反トラスト法上の適法性は「合理の原則」(Rule of Reason)により判断されることを明示しております。共同研究開発契約の届出制度が設けられており、司法省および連邦取引委員会に届け出られた共同研究開発契約が反トラスト違反とされた場合でも、実損害額までの賠償で済むことになり、クレイトン法による懲罰的賠償(三倍損害賠償)の適用はないと思われます。
      本法は、1993年に改正され、国家共同研究生産法(National Cooperative Research and Production Act)となり、共同研究開発以外にも、新たに共同生産も対象となりました。
      (3)司法省「国際的事業活動に関する反トラスト施行ガイドライン」
      (1988 Antitrust Enforcement Guidelines for International Operations)
      ジョイントベンチャー一般について、合理の原則を用いて分析することとしております。 本ガイドラインは、1995年に改正され、積極的な米国反トラスト法の域外適用を打ち出しています。
      2)(1)

      EU
      「研究・開発に関する協定の類型的適用免除規則」
      (2010,OJL335/36)
      製品若しくは方法に係る研究・開発の成果の共同利用が、個々の事業者の研究・開発の促進を加速させ、EU産業の国際的競争力の強化、経済成長の確保に連なるとの認識において適用除外は認められる(規則第1条第1項)。
      その適用範囲は、共同の研究・開発活動(ノウハウの獲得、理論的分析の実施、組織的実験、必要な施設の設置と知的財産権を取得することを含む)に従事すること、共同の当該研究・開発活動の成果の利用となっている。
      当該共同研究・開発に関する契約等が、欧州運営条約(TFEU)第101条第1項から適用場外となる条件は、

      i)類型的適用除外の対象(規則第3条)
       共同研究・開発の作業が認められた計画の枠内で実施されていること
       当該作業の成果の利用が全て当事者にとって利用可能であること
       当該作業が共同研究・開発のみを内容とする場合、その成果を各当事者は独立して利用できること
       成果の共同利用は、当該成果の利用であること、当該成果の利用が製品の製造に必須なものであること
       当該製造を委託された事業者は、他の全ての当事者の注文を充足するものであること
      ii)契約期間(規則第4条
       共同研究・開発の当事者が競争関係のある場合
      契約当事者の2者以上の製造に係る製品の共同市場若しくはその重要 部分において、シェアーが25%を超えない場合には、最大7年間の適用除外が認められる。25%~30%の場合は、それまでの期間プラス2年間、30%超の場合は、それまでの期間プラス1年間となる。
       上記の共同研究・開発における当事者間で競争関係がない場合
      共同利用に係る協定には期間の制限がない。ただし、共同開発の期間は、当該成果に係る技術若しくは製品が上市後7年を超えることはできない。7年の後の共同開発は関連市場でのシェアーが25%を超えない限度で認められる。
      iii)適用除外が認められない競争制限的な条項(規則第5条)
       計画実施中、独自の研究・開発を行わない義務
       契約製品の購入先を、契約の当事者からのみ購入する義務
       当該共同作業に参画する他の当事者が権利を保有する地域では、当該製品の製造をしない義務
       契約製品の製造を特定の技術的範囲に制限する義務
      iv)契約者が契約製品によって代替又は改良される製品の競争者である場合には、当該製品のシェアーが20%以下の場合に限る
      v)契約者が競争関係にない場合には、その市場シェアーに関係なく認められる。ただし、適用除外の期間は、契約者が共同市場内で最初に生産を開始した日から5年間である
      vi)共同で成果の利用を5年間おこなった後は、契約者が競争関係にあったか否かを問わず、新製品の生産合計が20%を超えないときに限り適用除外が継続される
      vii)以下のような競争制限条項が存在する場合には、一括適用除外は認められない
       共同研究開発契約の対象分野以外の分野で、又は、共同研究開発契約の  
      終了後において、契約者独自の、又は、第三者との共同研究開発活動を 妨げるような制限
       共同研究開発契約の終了後において、当該契約の成果である製品又は製  
      法に関する他の契約者の知的財産権の有効性を争わない義務
       共同研究開発契約の成果である製品の製造、販売量又は当該契約の成果
      である製法の使用回数の制限
       共同研究開発契約の成果である製品の第三者向け価格の制限
       顧客制限
       適用除外期間を超える販売地域制限
       共同利用契約がない場合に、共同研究開発の成果である製品を第三者に使用させない義務および当該契約の成果である製法を第三者に使用させない義務
       テリトリー内で再販する販売業者やユーザーに対し、客観的な正当事由がなく、販売を拒否する義務、および、販売業者やユーザーが、共同市場内の他の販売業者から共同研究開発契約の成果である製品を入手するのを妨害する義務
       ●その他、注意すべき点
       1)相手方から開示を受け、その内容を評価するだけなら、「情報開示相互義務」を先方だけの開示義務にする
       2)開示後、評価をする期間を特定する(特に開示を受けた情報の内容を確認するだけなら、できるだけ短期間にするほうがよい)
       3)評価後、どうするのか→更に先に進む(共同研究、またはライセンス許諾)可能性があるのかどうか。→無い場合の提供された情報の処理
       4)開示後、評価をする期間を特定する(特に開示を受けた情報の内容を確認残余効は何時までか(契約終了後3年なのか、5年なのか)
       5) 開示を受ける技術がそれほどのものでないケースの場合(形式的な契約)には、できるだけ例外規定(公知公用など)を詳細に規定し、義務が課されない範囲を明確にする
    • 最後に共同出願契約について簡単にお話しましょう。海外企業や大学との共同出願は最近増加の傾向にあります。国内企業同士や企業と大学等の共同出願と違い、海外との契約では、それぞれの国の法律があり、当該共同出願がなされる国の法律の規制を受けることになります。
      ●注意すべき点としては、

      (1)特に相手が米国の場合、当該発明がどちらで生まれたものであるかにより、これまでも何度も触れてきましたように、規制の対象になることを念頭におく必要があります。米国で生まれた発明については、米国特許法上の規制対象となりますので、相手方に対して、きちんと対応を義務付けるべきです。日本で生まれた発明についても、基本となる技術が米国側のものである場合には、輸出管理規制の対象となるかどうかのチェックも相手方を通じて確認するようにしましょう。
      (2)共同出願契約の他の条項については、国内におけると同様ですが
      まず、
      対象発明の特定(Definitions)
      手続きはどちらがやるのか(米国での規制対象となるなら、米国側が手続きをすることになりますが)(Procedure of Patent Application)
      持分はどのようにするのか(Ownership)
      費用分担はどのようにするのか(Expense)
      発明者は冒認にならないように真の発明者を特定することが必要です(特に米国での出願については、発明者の特定が一番大切な要素となりますので、日本風な考え方は捨てるようにしましょう)。(Inventorship)
      実施の態様については、上記にも述べましたように基本契約(共同研究・開発契約またはライセンス契約)に規定があれば、それに基づくことになります。(Working of Inventions)
      侵害または被侵害についての協力義務(Infringement)
      その他(一般条項)(Regulatory Matters)

以 上

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