-その(4) ライセンス契約について-(4)

  • 引き続き、国際ライセンス契約におけるクライアントの皆様からのご質問に回答させていただきます。

(10)

ライセンス契約の別添で、対象特許とテリトリーを添付することになっているが、ライセンシーへの連絡なしに、対象特許が増加されており、契約期間がわからなくなっている。メインの国における対象特許が満了しているにも拘らず、実施料支払対象期間は、全ての対象特許が満了するまでとなっており、何時まで実施料を支払ったらよいのか不明瞭になっている。ライセンサーに対してどのように整理を要求すべきか、また、その根拠を明確に教えて欲しい。

(11)

ライセンス契約で期間が不明確なため(対象特許が全て満了するまで)、実施料を支払い過ぎた感がする。対象特許満了後の支払い分についての返還を要求できるか。契約上、ライセンサーはいかなる理由による場合でも既に受領した実施料は返還しないとなっている。

「回答」 (上記(10)および(11)に関して)
海外とのライセンス契約において、よく問題となるのが、対象特許の特定が明確になっていないため、気がついたら実施料を払いすぎていたとか、対象特許の満了時期がわからなくなっているとかという事例であります。
まず、チェックする条項は、

i )

対象特許の特定方法はどうなっているか。つまり、契約上、対象特許は契約時点で特定されたものだけか(契約文面で特定している場合や契約添付別紙に特定しているもの→特許権が成立している場合だけか、出願中も含まれるか)→出願中のものについては、ライセンサーがその出願状況をライセンシーに報告する義務が課されているかにより、各対象特許の満了時期が特定されます。

ii)

対象特許以外に追加の可能性を残しているか。契約締結時点では、契約添付として別紙に対象特許の特定(出願番号、特許番号、発明の名称、特許満了期間)がされているが、契約期間中に対象特許が追加されるような規定があるかどうか→そのような規定がある場合には、ライセンサーの義務としてその追加を報告し、書面にて別紙を差し替えるようになっているか。

等が問題となります。それらの規定が

*ある場合には、

ⅰ)

明らかに契約違反ですので、契約を解除するかどうかを検討することになりますが、解除の場合には、それ以降は権利が存続している間は当該特許の実施、すなわち、契約対象製品の製造・販売はできなくなりますので、この点も配慮すべきです。ただし、契約違反に対する損害賠償は請求することができます。

ⅱ)

明らかに契約違反ですが、上記ⅰ)にも述べましたように現実的には契約製品の製造・販売はできないため、ライセンシー側に及ぼす影響は大きいといえます。この場合には、明らかに先方のミスですので、早急に対象特許を明確にする(ライセンサーが対象特許を明確にし、ライセンシーに報告する)こと、又は、契約添付別紙の差し替えを書面で要求すること、又は、実施料減額について協議の場をもつこと等を提案してもよいでしょう。

ⅲ)

上記i)およびii)については、対象特許が追加され、まだ、権利が存続している場合ですが、これが、もし、既に対象特許は全て満了していたにも拘らず、実施料を払い続けていた場合にはどのように対処すべきかが問題となります。この場合には、双方の過失(ライセンサー側は故意の可能性も残るが)→ライセンサーは権利状況をライセンシーに報告しなかった、ライセンシーはライセンサーに確認しなかったという場合の双方の責任のバランスを考慮した上で、 契約上の実施料の既得権(ライセンサーはいかなる理由によらず、一度受領した実施料は返還しないという規定)に対して法的な問題(対象特許が満了していたにも拘らず、権利のないものに対して対価を支払うという義務が存続している、つまり、契約は有効に存続していたという事実)をどのように対応させて、どのような解決手段を見つけるかがポイントとなります。 双方での協議が成立しない場合には、契約上の処理方法(仲裁か裁判か)に基づき法的な場で協議してもらうことになると存じます。

* ない場合には、

ⅳ)

契約上、ライセンサーの報告義務が規定されていないというのは、本来ならおかしいのですが、ライセンシー側のチェック漏れとなります。このような場合に、現実に上記ⅰ)およびⅱ)のような状況が生じた場合はどうすべきか?

当然に契約期間や実施料支払期間という契約上最重要な事項と関連するため、いかに契約上はライセンサーの義務として規定されていなくとも、ライセンシー側からは対象特許の特定の要求はすることができます。つまり、書面で契約添付別紙の対象特許の差し替えと契約期間を明確にすることをライセンサーに要求できます。ただし、契約違反であることを主張し、何らかの法的措置に訴えることは困難かもしれません。

ⅴ)

上記ⅲ)のようなケースの時はどうするのか?

両者の主張の和解は無理と思われますので、おもいきって、仲裁または裁判手段を講じて、対象特許満了(本来なら契約は満了のはず)以降の実施料支払分の返還要求が可能かどうかを協議してもらうべきと存じます。(独占禁止法との関わりもあるはずですので)

いずれの場合でも、まず、契約締結時点で、対象特許の特定方法および支払期間の決め方並びにライセンサーの報告義務が規定されているかどうかをきちんとチェックするとともに、ライセンシーからも定期的に対象特許の特定をライセンサーに確認するような管理体制をきちんと構築し、上記のようなトラブルが生じないように留意することが必要だといえます。

(この章続く)

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