特許侵害訴訟(特に日米比較を中心)について-(3)

  • 今回は、日米の訴訟関連の制度の比較について、判りやすくするため、一覧表を用いてご説明していきましょう。

(1) 日米特許制度の比較
今回は、特に、日米における侵害訴訟の違いに焦点をしぼりますが、その前提となる特許制度の違いについても簡単に触れておきましょう。

  米 国 日 本
1.出願公開制度 (*) (1)不完全な出願公開制度 (1)出願公開制度
2.出願手続 (2)仮出願
(3)一部継続出願(CIP)
(4)継続出願(CA)
(5)分割出願
(2)国内優先権制度
(3)該当する制度なし
(4)分割出願
3.審査請求制度 (6)全件審査制 (5)審査請求制度
4.権利期間 (*) (7)特許期間:
出願から20年(95年6月8日以降の出願に適用。それ以前は特許付与から17年)
(6)特許期間:
出願から20年
5.特許付与後の手続 (8)再審査制度
*査定系再審査
*当事者系再審査
(9)再発行制度
(7)無効審判制度


(8)訂正審判

(*) 国家の安全のために秘密保持命令の対象となっている出願、仮出願及び非公開の請求をした出願は公開されない。

(2) 侵害訴訟における日米の比較
続いては、日本と米国における訴訟の手続や制度の違いについて、簡単に一覧表に纏めてみました。


  日 本 米 国
1.特許政策 (1)行政官庁の指導力が強いため、行政官庁主導で実施される傾向が強かった。 (1)特許法の解釈に関する主要な先例について、裁判所の判決による判例法により形成されてきた。
2.審決取消訴訟 (2)特許庁における審判は行政争訟、その審決は行政処分であるため、取消訴訟は行政訴訟となる。行政処分たる審決は、違法として裁判で取り消されるまでは公定力により有効とみなされる。当該訴訟は東京高等裁判所の専属管轄(特許法178条) (2)PTOの審決・決定に不服のある者は、その変更を求めて、ワシントン・コロンビア地区連邦地裁に提訴するか(145条)、CAFC(連邦巡回控訴裁判所)に直接控訴できる(141条)。PTOの審決等に公定力のような特別な効力はなく、通常の民事訴訟である。
3.特許侵害訴訟
*侵害差止請求訴訟
(3)特許権者からの侵害の停止を求める訴訟と、侵害者からの差止請求権不存在確認訴訟、侵害行為不存在確認訴訟がある。 (3)日本におけると同様の訴訟体系。これ以外にも、特許無効確認訴訟が認められている。
*損害賠償請求訴訟 (4)被告の侵害行為が故意または過失によることが要件(民法709条)。ただし、侵害行為の過失は推定されており、立証責任が転換される(特許法103条) 悪意の侵害行為については、刑事罰が適用される。 (4)被告に通告(notice)したとき、または、訴訟提起したときからの損害のみ回復できる。製品に[patent][pat.]の表示で公衆に通告したものとみなしている(287条a) 悪意の侵害者には、裁判所の裁量によって実際の損害額の3倍まで賠償額を増額できる(284条)。
*侵害訴訟と無効係争 (5)日本では特許を無効とする処分は、特許庁が特許無効の審判による審決によって行うべきとされていたため、 特許庁における無効審判、東京高等裁判所における審決取消訴訟のルートと、地裁での侵害訴訟が並行して行われていた。(*)

○ドイツ、韓国が同じ体系
(5)特許侵害訴訟では特許の無効を含めたあらゆる争点について判断を下すことができる。

○米国、英国、オランダが同じ体系

(*)キルビー特許訴訟(00年、富士通対テキサス・インスツルメンツの半導体訴訟)
最高裁判所は、無効理由が存在することが明らかな場合には、特段の事情がない限り、権利の乱用にあたり特許権の行使は認められないという判断を下し、これまでの大審院の判例(特許の無効は特許庁で判断すべきであり、裁判所が自ら無効の判断を下してはならない)を変更した。
その後の下級審での侵害訴訟において、侵害被疑者が特許無効の抗弁をし、無効理由が存在することが明らかであるため権利の濫用であり、特許権の行使を認めないとした判決は数多く存在した。現在では、特許法104条の3において特許が無効審判等により無効にされるべきものであるときは、相手方に対しその権利を行使することができないことが規定されている。無効理由も新規性欠如、進歩性欠如、記載要件不備などさまざまであり、下級審で積極的に無効理由を判断している。

  日 本 米 国
4.訴訟実務  
*訴訟管轄
(6)第一審: 大阪地裁判所
東京地方裁判所
控訴審: 東京高等裁判所
最終審: 最高裁判所
(6)第一審: 連邦地方裁判所
控訴審: CAFC(連邦巡回控訴裁判所)
最終審: 連邦最高裁判所
*特色ある制度 (7)*96年の民事訴訟法改正により損害額のUP(民訴法246条)。
*98年の特許法改正により
・逸失利益の規定の導入(102条)
・罰金の引き上げ(196条) 法人重課(201条)などの刑事罰の見直し
*99年の特許法改正により侵害の認定をしやすくするために以下の制度を導入。
・積極否認の特則→侵害被疑者が侵害を否認する場合に自己の行為の具体的態様を明確にしなければならない。
・インカメラ手続→裁判所からの文書提出命令に対して拒絶できる可能性を与え、その理由になる証拠を裁判所のみに提出させる制度
・ 計算鑑定人制度の導入→損害額の算定のために、損害を計算するための鑑定を命じることができるという制度
*2002年改正
・間接侵害(101条)では、欧米なみに行為者の悪意という主観的要素が入った。
(7)*ディスカバリー制度
訴訟当事者が事実関係を解明するために他の当事者や訴訟外の第三者から証拠を入手する手続:特例→開示要求を拒否できる。  
(1)情報が弁護士・依頼者間の特権(attorney-client pri-vilege) 
(2)情報が弁護士作成情報(work product)の範囲に入る場合

*陪審制度
陪審による裁判を受ける権利は憲法上保障されており、原告・被告の一方が申し立てときは採用される。

*損害額
→3倍賠償制度 悪質な特許侵害への懲罰制度
5.侵害訴訟に
  おける争点
1)特許の無効
(8)原則は、法制上、無効審判は特許庁で職権により審査され、侵害訴訟は裁判所で争うことになっているが、現在は特許の無効は実質的に特許庁と裁判所の両方の場で争うことができるようになっている(特許権者にとっては2箇所で防御する必要が生じたが)。但し、特許庁での判定は対世的効力を有するが、裁判所での判断に対世的効力はない。 (8)裁判所が侵害訴訟における特許無効の抗弁や反訴、または特許無効確認訴訟において特許の無効を判断する。 裁判所の決定は対世的効力を有する。

以 上 (この章完)

 

 

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