-その(3) 秘密保持契約および共同研究開発契約について-(1)

    • 今回からは、具体的な事例に関する英文契約についての留意点を中心にお話を進めていきましょう。まず、最初の段階は、やはり、将来共同で研究や開発をする又はライセンスの許諾を受ける場合の前提として、対象技術の事前評価や検討が必要になります。その評価や検討のために取り決めをするのが秘密保持契約(評価契約ともいいます)ですので、この契約からご説明していきましょう。

    • 秘密保持(評価)契約を締結するにあたって留意する点

      1)英文契約書独特の用語(technical term)に慣れる。
      英文契約書には独特な言葉が使用されております。まず、これを理解しないと後で後悔することになります。すなわち、契約書では、ほとんど現在形は使用されず、「shall」、「will」、「agree to」という接頭的用語が動詞の前に使用されます。
      通常の英語では、これらは、未来形を表す助動詞であり又は賛成するという動詞のイディオムです。しかしながら、契約等の法律文書では、全く趣旨が違ってきますので、これらを理解していないと大変なことになります。
      まず、基礎的なこれらの用語が表す契約上の効果についてお話しします。

      *shall :契約上は強い義務を表す用語ですので、文言中「shall」が使用されている場合には、該当する条項中の行為を実施しないときには、契約違反として契約解除になるか、悪くすれば、契約違反で訴えられるリスクを負います。従って、この「shall」が使用されている場合には注意しなければなりません。
      *will :「shall」より響きはやわらかいため、優位にたつ当事者側の履行には往々にして、「shall」の代わりに「will」を使用します。法的には「shall」と同様に義務を表しますが、「shall」の強い義務と違って努力義務ですから、義務違反を挙証するのは難しいといわれております。
      *agree to :優位にたつ当事者が自己の義務を言い表す際に、「shall」の代わりに、この「agree to」を使用したがります。これは、単に賛成するというだけで、対象となっている行為を履行しなくても義務違反とはならないものです。

      上記のようにちょっとした用語にも法的な効力の有無が隠されておりますので、理解とともに慣れることが先決と存じます。

      2)秘密保持の対象を明確にする-必要な条項のチェック
      よく、皆様から、秘密保持契約を締結するにあたって、先方から送付されてきた契約内容のご相談を受けますが、相手側が契約に慣れた企業であればある程、定型化された様式の契約に、こちら側の名称を記入するだけというものが圧倒的に多いのに驚かされます。このような契約書では、対象はどういう技術なのか特定されず、先方から開示を受ける秘密情報についても単に技術上、営業上の情報に対する秘密保持や目的外使用義務が課されております。しかも、契約期間の定めもなく、このままでは、対象が特定されない情報の義務を無期限に負うことになっております。秘密保持契約といっても、そのレベルにより、1)単に相手の技術の内容を確認する程度のもの、2)共同研究の前段階として、相手の技術および製品のフィージビリティ・スタディ(評価検討)を本格的に行うレベルのものとでは、自ずと対象とする情報の内容の特定および評価に必要な現品サンプルの提供の有無、評価結果の次のレベルへの発展の有無を明確に規定することに対する採否を判断することになります。

      例えば、ある程度相手方の技術が判っており、既に市場にも出ている製品についての評価を行うために相手側から技術情報の開示を受ける場合(上記にも触れたように相手側も通常の秘密契約フォームを準備し、開示を受ける側の名称だけ変更すればいいような場合)でも、相手が外国企業(特に米国等)の時には、少なくとも
      (1)対象技術とはどういうものか
      (2)開示を受ける情報はどのようなものか
      (3)相手方から開示を受け、その内容を評価するだけなら、「情報開示相互義務」を先方だけの開示義務にする
      (4)開示後、評価をする期間を特定する(特に開示を受けた情報の内容を確認するだけなら、できるだけ短期間にするほうがよい)
      (5)評価後、どうするのか→更に先に進む(共同研究、またはライセンス許諾)可能性があるのかどうか。→無い場合の提供された情報の処理
      (6)開示後、評価をする期間を特定する(特に開示を受けた情報の内容を確認残余効は何時までか(契約終了後3年なのか、5年なのか)
      (7)開示を受ける技術がそれほどのものでないケースの場合(形式的な契約)には、できるだけ例外規定(公知公用など)を詳細に規定し、義務が課されない範囲を明確にする

      上記の条項は明確に規定すべきと存じます。英文契約では、上記の肝心な点を不明確にし、義務違反の場合の処置、裁判の管轄など、一般条項を詳細に規定し、英文契約に不慣れな側に脅威を与えております。契約案が送付されてきたら、臆することなく、おかしい点や明確にすべき点は堂々と主張するようにしましょう。また、反対に相手側に技術を開示するような場合には、当該秘密保持の段階では、なるべく大切な情報(特に、ノウハウ的価値のある技術など)は、例え、秘密保持契約で秘密保持義務を課しているとしても、開示するのは避け、もっと先のレベル(共同研究・開発やライセンス)まで延ばすように注意してください。

      次に、少しレベルが上がって、両者とも真剣にお互いの技術を交換し、相手の技術を評価(フィージビリティ・スタディ)した上で、特定の目的(例えば、新規用途の開発、新規製品の開発など)を達成するための共同開発研究にまで進む場合における英文の秘密保持契約については、下記の項目はきっちりとチェックしましょう。

      (1)目的の特定化
      →各当事者が所有している技術の特定
      →評価対象の明確化
      →評価目的および達成目標の特定        
      つまり、両当事者がお互いに所有する技術を交換し、それを評価することにより何を達成しようとしているのかを契約上明確に特定する。
      「X and Y foresee the possibility of collaboration in the development of and hence conduct the feasibility study on ○○○○system for the Compound」
      (2)各自の役割分担
      →各当事者は何をどう評価検討するのか       
      →各当事者が相手方に開示・提供する技術および製品サンプルの特定
      →発生する費用の分担はどのようにするのか
      「The role of X under this Agreement are as follows:
      1)
      2)・・・・・
      The role of Y under this Agreement are as follows:
      1)
      2)・・・・・  」
      (3)秘密保持および目的外使用禁止
      当然に相手方から開示を受けた情報については秘密の義務を負うとともに、評価のために提供を受けた製品サンプルについては評価・検討以外の目的には使用しないという義務を負う(相手方に対しても同じ義務を課す→相互義務)。
      (4)評価の結果
      評価の結果得られた技術情報は、全て両当事者の共有とする。この段階で特許レベルまでの発明が生じる可能性は余りないと考えられますが、技術の内容によっては、新たな発明が生じる場合もあります。その場合には、上記(1)および(2)で各当事者の所有技術および評価の分担が明確化されておりますので、当該発明が何をベースにどちらによってなされたかにより発明者および権利者が特定できますので、これに関しては、関連当事者の所有にします。
      「Any technical information obtained as the result of the feasibility study carried out hereunder during the term of this Agreement shall be the joint property of the parties hereto.」
      (5)共同研究開発に進むか否かの協議
      お互いの最終評価結果を受領した後一定期間(例えば1ヶ月)以内に両当事者は、評価結果について協議する。両当事者が合意する場合、両当事者が合意した課題について共同研究・開発に関する契約について誠実に交渉する。
      「The parties hereto shall within thirty (30)days following the receipt by Y of the final report from X meet to discuss the results of the feasibility study conducted hereunder and use their reasonable best efforts to negotiate in good faith and agree on the collaborative development agreement of the ○○○○system of the Compound in the event that the parties mutually recognize that the development of such ○○○○system of the Compound is feasible taking into account the results of the feasibility study hereunder.」

      その他の注意事項は上記にも述べたとおりです。

(この章続く)

その他の知的財産法解説:目次