不正競争防止法について-(1)

  • 今回は、最近話題になっている不正競争防止法についてご説明しましょう。知的財産については、それぞれの特別法で保護されていますが、それとは別に、商業上の公正な慣習に反する行為(不正競争行為)を規制することを目的として、その規制(民事上の措置および刑事上の措置)を通じて、反射的に、知的財産が不正な侵害から保護されているのです。皆様に、まず、理解していただくために、不正競争法と知的財産との関連をチャートで表してみましょう。

1. 不正競争防止法と知的財産との関連図式

 創造的活動の成果 (人間の創造的活動により生み出されるもの)
  └→ 発明 → 特許法
└→ 考案 → 実用新案法
└→ 意匠 → 意匠法
└→ 著作物 → 著作権法
└→ 半導体集積回路の回路配置 → 回路配置法
└→ 植物新品種 → 種苗法
└→ 商品の形態 → 不正競争防止法
└→ デジタルコンテンツ → 著作権法
           
不正競争防止法(技術的制限手段の無効化行為)
 事業活動上の信用 (事業活動に用いられる商品又は営業を表示するもの)
  └→ 商品・役務商標 → 商標法
└→ 商号 → 商法、不正競争防止法
└→ 商標表示・営業表示 → 不正競争防止法
└→ ドメイン名 → 不正競争防止法
└→ 原産地表示 → 不正競争防止法、景品表示法、JAS法
 事業活動上の情報 (事業活動上の情報又は営業上の情報)
  └→ 営業秘密 → 不正競争防止法
└→ その他秘密一般 → 一般法(民法、商法、刑法)

上記のチャートをみてわかるとおり、不正競争防止法により規制を受ける知的財産としては、
(1) 特許法、実用新案法、意匠法、著作権法他が対象とする技術・製品
(2) 商標法が対象とする製品・営業標識
(3) 商法・商業登記法に規定される商号
(4) 営業秘密
などがあります。これらは、それぞれ特別法によって保護されると同時に、それらに関連した不正競争の多くが、不正競争防止法に基づく規制の対象となります。
2. 不正競争防止法に対する注意点
皆様に特に関連すると思われるのは、不正競争防止法の中でも、周知な商号や著名な商号を使用したりする場合には特に商標法以外にもこの不正競争防止法を注意する必要があります(不競法第2条1項1号及び2号)し、又、営業秘密を故意に漏洩したり、無断使用した場合には当該不正競争防止法により訴えられる(不競法第2条1項4号~10号)可能性が高いため気をつけなければなりません。これらに違反した場合には、差止めの他に損害賠償や刑事罰をうける羽目になります。
以下、少し、これらについてご説明していきましょう。

(1) 周知表示混同惹起行為(不競法第2条1項1号)
他人の商品等表示(会社名、商標、マーク、看板、商品の容器・包装)として需要者に広く知られている(周知)ものと同一又は類似の商品表示を用いることにより、他人の商品や営業と混同を生じさせる行為を指します。
重要な要素
「周知性」:日本全国や国民全てに知られていなくとも、一地方や特定の業界に広く認識されていればよいとされています。
「混同」:商品や営業をみたものに本物と思わせること。狭義の混同(出所又は営業主体が同一であることの認識)、広義の混同(両者間に経済的又は組織的に何らかの関連があるとの誤認)とがあり、裁判所でも広義の誤認を認定しています。
(2) 著名表示冒用行為(不競法第2条1項2号)
H5年の全面改正で新設されました。全国的によく知られた(著名)他人の商品・営業の表示(商品等表示)と同一又は類似の商品等表示を使用する行為を指します。
重要な要素
「混同」の有無は問題とされません。以下の3態様が主要となっております。
a) フリーライド(ただ乗り):信用・名声という価値の冒用であるから、冒用者に意図や認識があることが要件となります。
b) ダイリューション(希釈化):表示が著名、ユニークで良いイメージを有している場合には、その冒用によって価値が毀損され、その表示の有するユニークさが希釈されます。
c) ポリューション(汚染):著名表示でも特に高級イメージが定着している商品や営業の表示が低俗ないし価値の低い商品や営業に使用されると、高級イメージが汚染されることになります。
(3) 商品形態模倣行為(不競法第2条1項3号)
H5年に新設されております。他人の商品形態を模倣する行為を指します。海賊版もこれに該当しますね。商品の発売から3年以内との制限が付されております。なお、同種の商品が通常有している形態は対象から除外されます。
重要な要素
「形態」とは、商品の外形(形状、模様、図柄、色彩、質量感、光沢感など)をいいます。
「模倣」とは、商品の形態を盗用し、同一又は実質的に同一のものを作り出すことをいいます。模倣か否かは、商品の個性を与える特徴的な部分を中心に対比的判断を行うことになります。
「同種の商品が通常有している形態の除外」とは、技術的形態を除外するためであり、同種の商品がない場合には、機能及び効用が同一又は類似の商品と比較されます。
「3年」という限定を設けたのは、先行者にとって開発費用の回収、所要の収益の確保に十分な期間と看做されるためです。又、3年経過後でも意匠法等の知的財産法による保護が可能なためでもあります。
(4) 営業秘密に関する不正行為(不競法第2条1項4号~10号)
不正競争防止法の中でも、上記の(1)~(3)と並んで、重要な位置づけを占めているのが、営業秘密に関する不正行為の防止です。所謂、ノウハウもこれに含まれますので、皆様にとっては重要な取り決めです。
・4号: 他人の営業秘密を盗む、騙す、脅かす、盗聴する等の不正な手段で取得する行為や、その後自分で使用又は、他人に開示する行為
・5号: 誰かが盗んだような営業秘密をその事情を知りながら(当然知っているはずの場合のような重過失も含む)取得する行為やその後に使用又は、開示する行為
・6号: 営業秘密を取得したときは、それが盗まれたものであるとは知らない者が被害者から警告を受けるなどしてその事情を知ったにも拘らず、なお、使用又は開示する行為
・7号: 従業員やライセンスを受けた者のように他人から営業秘密を示された者が退職後や契約終了後、無断で不正の金儲けのためや加害目的のため使用又は開示する行為
・8号: 不正に開示(守秘義務の違反を含む)された営業秘密をその事情を知りながら取得する行為やその後使用、開示する行為
・9号: 営業秘密を取得したときは、それが不正に開示されたものとは知らず、被害者から警告を受けるなどして知ったにも拘らず、なお、それを自分で使用・開示する行為
・10号: 営業秘密の不正使用により生じた物の譲渡等
3. 不正競争と規制との関連は以下のチャートに示すような内容になります。いずれも、規制の対象となり、差止め~刑事罰までの範囲で罰せられることになります。侵害しないように注意するとともに、権利者は侵害者に対して、下記のような権利行使が不正競争防止法に基づき可能になることを理解してください。

規制の対象 (不正競争行為:2条1項)
・周知表示混同惹起行為(1号)
・著名表示冒用行為(2号)
・商品形態模倣行為(3号)

(営業秘密不正取得・使用・開示行為)
・不正取得・使用・開示行為(4号)
・不正取得後悪意転得行為(5号)
・不正取得善意転得後悪意使用(6号)
・不正目的使用行為(7号)
・不正開示後悪意転得行為(8号)
・不正開示善意転得後悪意使用(9号)
・不正使用後譲渡行為(10号)

(技術的制限手段の無効化行為)
・購入者・所持者の全ての無効化行為(11号)
・特定の者以外の者による無効化行為(12号)
・ドメイン名の不正取得・使用行為(19号)
・商品・役務内容等誤認惹起行為(20号)
・信用毀損行為(21号)
・代理人等の商標無断使用行為(22号)

(その他)
・技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供(17号~18号)
・商品・サービスの原産地・品質等の誤認惹起表示(20号)
規制 差止請求権(3条)
損害賠償請求権(4条)
信用回復措置請求権(14条)
刑事罰(21条・22条)

(この章続く)

 

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