-その(2) 技術移転に対する規制

  • 前回に続いて、米国との契約に関する規制についてお話します。今回は、特に、技術の移転(研究開発の成果、ライセンス対象のノウハウ技術、改良技術等)について、米国では昨今、更に厳しい法制による制限がしかれておりますので、これを理解しておかないと、痛い目にあうリスクが高いため、要注意事項といえましょう(例えば、新たな規制対象分野として、新興技術及び基盤的技術が追加される等)。

  • まず、米国で発生した発明および研究成果を日本等(国に限らず、米国に在住の米国籍をもたない外国人)に開示することに対して、米国では、1)輸出管理規制、2)特許法、3)経済スパイ法の3つの法律又は規制に抵触しないように考えなければならないのです。皆様も経験されていると存じますが、共同研究開発契約やライセンス契約を締結する際には、必ず、特許等の知的財産権が絡んで参ります。相手先は、第三者の企業や研究開発機関だけでなく、関係会社や子会社である場合も含まれると思われますが、関係会社や子会社だからといって、米国で生まれた技術を日本本社に自由に開示又は提供しても構わないかといえば、そうではないのです。このように、米国から外国への技術輸出にはさまざまな規制が敷かれております。十分それを認識した上で、対応の仕方を検討することが必要となります。
  • それでは、上記1)~3)の各法や規制の内容中、技術の米国外への持ち出しについてご説明していきましょう。

    1)輸出管理規制(15CFR chapter VII subchapter C)
    当該規制は、輸出管理改革法(輸出管理法は2011年失効)という法律を履行するために制定されています。規制、 対象範囲は非常に広いですが、下記に述べるように技術の海外への持ち出しについても対象とされます。
    a)対象事項-原則
    輸出管理規則に基づき輸出ライセンスが必要であるか否かを知るには、扱う品目、又は行為が当該規制の対象となるかどうかをまず知る必要がありますが、下記のように、
    (1)僅かな程度を超える量について、海外で外国製品に組み込まれた米国が出所である部品、構成部分、材料、又は他の製品、外国製ソフトウエアに編入された米国が出所である技術
    (2)米国が出所である技術又はソフトウエアの特定の外国製直接生産
    となっているため、米国で開発された技術は「みなし輸出」として規制の対象となります。
    ただし、下記のものは規制対象から除かれます。すなわち、
    1)他の米国連邦政府機関により統制されるもの。
    米国特許商標庁(以下PTOと省略。)による外国特許出願の許可の対象となる事項は、これに該当するため、対象から外れます。
    2)公共に入手可能な技術およびソフトウエア
    3)外国にあるもので、米国の関与(部品、材料、技術など)がわずかな程度にとどまるもの。
    b)輸出管理番号のチェック
    対象かどうかの判断は、対象事項が管理規制の対象事項の分類を示すCCL(the Commercial Control List:通商管理番号リスト)上のECCNs (the Export Control Classification Numbers:輸出管理分類番号)を割り 振られているかどうかを確認する必要があります。発明や研究成果につい ては、CCLリスト記載の品目の開発、生産、または使用に必要とされる技 術の輸出は、その品目の輸出と同様に扱われます。
    c)一般禁止事項
    次に確認すべき事項は、実施しようとしている事項が、10項目の一般禁止 事項に該当するかどうかです。皆様に関係する技術関連事項は以下の3点についてです。
    1)リスト記載の国への管理品目の輸出および再輸出
    2)わずかな程度を超えてコントロールされる米国内容物を組み込んでいる、外国で生産された品目の再輸出および輸出
    3)米国の技術およびソフトウエアの外国直接生産物の外国からの再輸出および輸出
    ここで、問題となるのは、上記 1)の輸出の定義づけです。輸出管理規制の734.2(b)では、 「輸出とは、管理規制の適用をうける品目の米国外への現実の出荷又は伝送、もしくは管理規制の適用をうける技術あるいはソフトウエアの外国での発表又は米国内の外国人に対する発表である。米国内での外国人への発表は、当該外国人の属する本国への輸出とみなされる(みなし輸出規定)。 永住権をもっている外国人はこれに含まれない。
    技術もしくはソフトウエアの「発表」は、以下の態様によってなされる。
    米国が出所である装置および設備の外国人による目視検査
    米国内又は海外における口頭での情報の交換
    米国内で知得された個人的知識又は技術的経験の海外での応用
    d)輸出の概念の確認       
    規制における「輸出」の概念は相当広くなっています。このため、米国でなされた発明を日本に伝送すること、また、米国でなされた発明を、米国内で永住権をもたない日本人に伝えること、更に、米国でなされた発明の特許出願の是非を、その発明に関与していない日本人駐在員に相談すること等は全て「輸出」
    (みなし輸出)に該当することになります。
    e)ライセンスの申請
    ライセンスが必要とされる場合には、15CFR748に従ってライセンスを得ま す。当該手続きについては、インターネット上から一部のフォームの取得も可能ですし、15CFR748を補充するガイドラインが輸出管理局から発行されています。直接にアクセスはしておりませんが、当該ガイドラインによりますと、外国人(日本人駐在員)のvisa、出入国記録、技術の使途などの説明を要求しているとのことです。
    2)特許法上の外国出願ライセンス(米国特許法 chapter17: 181条~188条)

    a)当該条項では、一般の発明の秘密保持と外国出願ライセンスについて定めており ます。特に、第184条では、
    i)米国でなされた発明(判例では、発明のconceptの場所ではなく、発明が実施された場所であるとされております)について、米国での特許出願から6ヶ月後までに、PTO発行のライセンスなしで、特許等の外国出願をすることを禁止している。
    ii)米国に最初に出願しないで外国出願してはならない。
    iii)米国に出願する予定のない技術の外国出願についてもライセンスなしでは許可されない。
    iv)外国出願そのもののみではなく、外国出願の準備又は提出目的(出願の可能性があるにすぎない場合でも)での技術情報の輸出についても許可の対象となる。
    ただし、この段階でライセンスを取得していれば、外国出願時点で改めてライセンスを取得する必要はないので、早めに取得することをお勧めします。
    b)具体的ライセンス手続き
    i)米国出願前のライセンス
    出願前にライセンスを取得するには、その申請をPTOにする(37CFRS 5.13)。通常問題がなければ申請から5~10日以内にライセンスが得られる。
    ii)米国出願後のライセンス
    現在では、米国への出願時点でPTOから送付されてくる出願受領証にライセンス許可文言が付される(37CFRS 5.12(a))
    米国出願後6ヶ月を経過すれば、その間に秘密保持命令が発せられなければ、上記受領証によりライセンスが得られなくとも、改めてライセンス取得は不要です(37CFRS 5.11(e)(2))
    PCT出願でも、米国以外の当局を受理官庁として出願する場合には、ライセンスは必要となります。米国を受理官庁とするPCT出願の場合には、出願から6ヶ月以内に、指定国の国内段階に移行させる場合にはライセンスが必要となります。
    米国に継続出願し、後に新規事項を追加した場合には、新規事項追加から6ヶ月以内に新規事項を含む外国出願をする場合には、その新規事項が元のライセンスの範囲を超える場合には別にライセンスが必要です(37CFRS 5.11(e)(3)iii))
    iii)ライセンスの追加申請
    当該ライセンスは、申請書で開示された情報の範囲で修正、補充、分割等が できますが、受領証の制限のないライセンスでは、許可された発明の本質が変更ない限度で追加も可能です。これ以外では、追加のライセンスを別途取 得する必要があるようです。
    iv)制裁
    ライセンスをとらなかった場合には、対応米国出願が特許になる前に発覚すれば、特許は発行されません。また、特許取得後に発覚すれば、無効となります(35USC185)
    ライセンスを取得できない理由が詐欺的な意図なく錯誤に基づいて生じた場合で、外国出願が特許法181条の国家防衛上重要でない場合にはその瑕疵は治癒されます(35USC184,185, 37CFRS5.25)。ただし、証明責任は出願人又は特許権者側にありますので、具体的な事情を示して説明する必要があります。
    186条では刑事罰も規定しております。
    c)管理規制によるライセンスと特許法上のライセンスの比較
    i)特許法:米国でなされた発明を対象
    管理規制:米国にある技術全てを対象

    例えば、米国に輸出された外国でなされた発明を再び外国に輸出する場 合には、特許法上の外国出願ライセンスの問題はないですが、管理規制の対象となります。
    注:外国の技術データのみから準備された特許出願明細書中の情報につ いては、外国の発明者の署名を得て後に米国で出願するための輸出は規制の対象とはなりません。また、特許出願明細書に含まれてい る情報は、米国出願前又は出願から6ヶ月以内に、発明時に米国に いた発明者又は米国居住発明者の共同発明者の署名を得る目的で輸 出される場合にも規制の対象とはなりません。
    ii)外国出願がPTO規則(37CFR part.5)に従っていれば規制の対象外となります。
    iii)特許法上のライセンスを取得していれば、規制のライセンスは不要です。(37CFRS 5.11(b))
    iv)逆に規制のライセンスを取得していても、特許法上のライセンスは必 要ですので、間違わないようにしましょう。(37CFRS 5.11(c))
    3)経済スパイ法(USC chapter 90 1831条~1839条)
    特にこの条項では、外国人(企業、研究機関を含め)の利益のために、米国内で企業秘密(営業上、技術上の秘密情報)を漏洩し、利用して、国内の所有者の利益を害することに対する罰則を規定しております。日本における不正競争防止法がこれに該当すると考えてよいでしょう。
    従って、米国内で生まれた技術情報を、外国民に開示する場合には、当該法律の罰則が適用される恐れがありますので、必ず、上記で示したどちらかのライセンスの取得が必要です。

    a)第1831条
    Economic Espionageとして、外国民のために企業秘密を漏洩したものに対する刑事罰を規定しています。
    b)第1832条
    Theft of Trade Secretsとして、企業秘密の所有者以外の者の利益のために企業秘密を漏洩し、利用した場合の刑事罰を規定しております。

(この章続く)

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