-その(4) ライセンス契約について-(5)

  • 引き続いて、今回は、米国以外の国におけるライセンス契約に対する規制などについてご説明していきましょう。

(1) 欧州諸国(ここでは、英国、フランス、ドイツが中心)
まず、各国におけるライセンス規制や裁判管轄、準拠法などについてお話する前に ライセンス契約の内容のチェックについては、EC競争法(EU機能条約)が第一優先になります。EC競争法(EU機能条約)および関連するEC規制に違反しないことが先決となりますので、内容につき理解していただくために簡単にご説明していきましょう。
1) EC競争法(EU機能条約)
欧州各国とのライセンス契約がEU内の市場の通商に実質的な影響を及ぼす可能性があると判断される場合には、契約における準拠法に拘らずEU機能条約101条1項(競争制限的合意又は協調行為の禁止)が強行法規として適用されます。 当該条項に違反する契約である場合には、契約自体が自動的に無効になるだけでなく、欧州委員会から高額の過料を課される恐れがありますので、十分留意する必要があります。
このためには、まず、同条約の101条3項による一括免除(block exemption)の適用を受けるかどうかがポイントとなります(当該内容については、技術移転契約に関する一括免除規則をチェックする必要があります)。
2) 技術移転契約に関する一括免除規
以下の内容に合致するような条項を規定している場合には、上記の一括免除は受けられませんので、下記のような条項を欧州の企業に要求したり、また、逆に要求された場合には、EC競争法(EU機能条約)に違反することになりますので、まず、どのような条項が問題となるかについてのみ列挙してみましょう。

i ) 重大な違反行為を構成する契約条項(委員会規則772/2004号4条)
a) 契約当事者が競争関係にある場合(同規則4条1項)
価格設定能力の制限(いわゆる価格カルテル)
生産又は販売量の制限
市場又は顧客の分割
ライセンシーが自己技術を利用する能力の制限、又は契約当事者のいずれかが研究開発を行う能力の制限。ただし、後者の制限がライセンスされたノウハウが第三者に開示されるのを防止するために必要不可欠な場合には除かれる。 上記各事項には例外規定がありますが、皆様には、上記条項がある場合には、まず、違反行為に該当する恐れ有りとの認識をもっていただくことが必要なため、ここでは、例外に関する詳細は省略させていただきます。
b) 契約当事者が競争関係にない場合(同規則4条2項)
当事者の第三者に対する価格設定能力の制限。ただし、最高販売価格及び真の推奨価格は除く。
ライセンシーが消極的に契約製品を販売できる領域又は顧客の制限 (これについても例外規定がありますが、ここでは省略させていただきます)

ii) 違法な契約条項(委員会規則772/2004号5条)
下記は上記a)における程重要ではないため、契約自体が無効になるのではなく、当該条項に限り違法・無効になります。
ライセンシーの改良発明および技術について、ライセンサー又はライセンサーが指定した第三者に独占的ライセンスを与える義務を課す場合
ライセンシーの改良発明および技術について、ライセンサー又はライセンサーが指定した第三者に全面的又は部分的に譲渡するための義務を課す場合
ライセンシーが共通市場においてライセンサーの所有する知的財産権の有効性に異議を唱えない義務を課す場合(不争条項)、ただし、当該ケースの場合、ライセンサーは契約を解除するという規定を使用した場合には、違反とならない
契約当事者が競争関係にある事業者でない場合において、ライセンシーの独自の技術を利用する能力を制限する場合又は双方の当事者の研究開発を行う能力を制限するような義務を課す場合。ただし、後者の制限がライセンスされたノウハウが第三者に開示されるのを防ぐために必要不可欠な場合には、これには該当しない。       

iii) 市場支配的地位の濫用の禁止(EU機能条約102条)        
市場支配的地位というには、関連市場で1位であり、かつ、市場占有率が40%以上の場合の状況を指し、かかる場合には、原則として市場支配的地 位が認められる恐れがあります。従って、ライセンサーが市場支配的地位にある場合には、下記のような濫用行為が禁止されます。
抱き合わせ→特定の知的財産権のライセンスが、異なる製品関連市場に属する知的財産権のライセンス又は製品、原料の販売を条件として、併せて行われる場合
ライセンス拒否→基本的な権利であり、これを拒否すると川下の市場における全ての競争を排除することになる場合
排他的取引→ライセンス契約において製造原料、関連サービスなどについてライセンサーからのみ提供を受け、他の業者との取引を禁止する場合
差別的価格設定→同じ権利を対象とするライセンス契約において、実施料がライセンシーによって異なる場合で、その差額に経済的理由がない場合
3) EU機能条約と加盟国の国内法との関連
a) EU機能条約は加盟国の国内法に優先するとされていますので、国内法が障害となる場合には、当該国内法は効力を有さないとされています。
b) 加盟国の通商に影響を及ぼし、EU機能条約101条1項に違反しない合意又は101条3項による免除を受ける合意については、加盟国はこれを禁止してはならないとされています(理事会規則1/2003号)。
c) EU機能条約101条1項又は102条に違反する行為については、加盟国はEU機能条約を適用しなければなりません。
従って、契約相手がECに属する場合には、まず、契約内容が上記EU機能条約の各規定に該当するか否かをチェックする必要があるのです。

4) 規則と加盟国の国内法との関連
a) EU機能条約に基づいて規定される規則は、加盟国においては施行などの措置をと ることなく自動的に国内法として適用されます(EU機能条約249条2項)
b) ライセンス実務と関係する規則は、EU商標規則(理事会規則40/94号)が採 択されており、EU商標と国内商標が並存することになります。
c) EU特許権は存在しないため、実体法的には加盟国の国内法に基づくものとなっています。ただし、出願については、欧州特許条約に基づき、指定した同条約加盟国の特許権について一括して欧州特許庁に行うことができます。
5) EU裁判所と加盟国の国内裁判所との関
a) EUには、加盟国の国内裁判所とは別に、欧州裁判所および第一審裁判所が存在します。主にEU機能条約およびEU法の解釈・適用に関する管轄を有します。
b) ライセンス契約との関連では、加盟国の国内裁判所に訴訟を提起した場合、当該紛争にEU法の解釈に関する問題が生じた場合などには、欧州裁判所で審議がなされ、先決判決により解釈が行われます。国内裁判所はその解釈に従って手続きを進めるようです。 

(この章続く)

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