特許侵害訴訟(特に日米比較を中心)について-(2)

  • 今回は、警告を受けた側の事例をご紹介し、その対応についてご説明していきましょう。

警告を受けた側:
当該会社(以下Xとします)はカラープリンターを製造販売しているメーカーです。既に、4~5年前から布にプリントするプリンターを開発し、その製造販売を行っています。この程、プリンターとは関係ない会社(以下Yとします)から、Yが所有している布にプリントする際の色の組み合わせやプリントアウトで色彩が鮮明に出る方法の特許をXが侵害しているという旨の警告状がX宛に届きました。当該警告状には、Xの侵害品を特定し、当該侵害品を使用するユーザーがYの特許を侵害しているため、Xのユーザーを守りたいなら、Yからライセンスを受けるべきであり、これを拒否するなら、Xのユーザーに対し、侵害である旨の警告状を送る用意があるとの内容でした。また、これまで、対象特許が成立した日以降の販売内容も連絡して欲しいとの要望も出されておりました。つまり、対象品目は対象特許が方法特許であるため、Xからプリンターを購入したユーザーが実際に方法特許を実施することになり、Xは直接侵害を補助するためのプリンターを製造販売しているため、間接侵害に該当する恐れがあることになります。ただ、このプリンターは汎用性があり、必ずしも、Xからこれを購入したユーザーが対象特許を実施するとは限りませんので、本来なら、もっと対応を検討し、回答書を出すべきでしたが、第1回目の回答書の中で、上記事項を抗弁としてうたっているにも拘らず、これまで販売した対象品の販売額を年度別に記載してしまいました。これでは、侵害を暗に認めていることと同じになりますね。以後、ライセンス交渉をせざるを得ない状況になってしまいました。そこで、これから、警告を受けた際に本当に注意しなければならないことを中心にご説明していきたいと存じます。

警告状を受けた場合、それへの対応はその後の紛争の展開に大きく影響を及ぼしますので、少なくとも以下の諸点に注意して対応を検討すべきです。

(1)専門家への早期の相談
顧問弁護士やつきあいのある弁護士が侵害事件に経験を有していない場合や、弁理士で特許事件の処理経験のない場合には、遠慮なく専門家の紹介を依頼しましょう。
特許事件の経験のあるとされる弁護士を紹介された場合でも、鵜呑みにせず、その弁護士に関する客観的な情報を収集し、又は、弁護士への実際の相談を通じて、それが信頼に足る弁護士であるかどうかを十分検討する。
チェックする点としては、弁護士や事務所の名声よりも、技術への理解力、特許法の知識、訴訟経験、まじめに取り組む姿勢といった実務的な側面を重視すべきです。
いったん信頼したら、余程の信頼関係を破壊するような対応がない限り、余り弁護士を変えることはお勧めできません。
(2)社内体制をどのように組むか
日本の企業の場合には、各部門から担当者を出してチームを組んで紛争解決にあたりますが、外資系では、国内での対応能力が十分でないため、チームで協力を図ることは余りしないと思われます。また、中小やベンチャーなどでは、チームを組むことも困難ですね。この際には、当事務所のように企業の法務・知的部門で長年経験を積んできた人材をかかえているような事務所を探し、弁護士とは別に相談窓口として支援を要請することが効率的にも効果的にも有用であることを覚えておいていただきたいと存じます。
弁護士側からみても、やはり実情に詳しい企業者の協力なしには、対応がしにくいため、どうしても、このような協力者が不可欠になります。
(3)警告状の意図をどう読むのか
警告者の求めるところが、ライセンスや権利の買取にあるのか、徹底した発明の実施停止又は製品の販売停止を求めているのか
徹底した実施停止や販売停止を求めるような強い要求の場合→和解での解決は困難(つまり、訴訟に発展する可能性が極めて高い)であるため 販売停止に踏み切るか、警告者の権利を無効にすることができるかを判断しなければならないことになります。
ライセンスを意図している場合→有利な条件でライセンス契約を締結したり、権利を譲渡すれば目的を達成できると思われるため、一般には最終的に和解的解決に応じる可能性が高いと思われます。
警告を受けた側としては、警告者において当該発明を実施しているのか、市場における当事者の製品の競合状態は排他的なのか、他社へのライセンス実績の有無、警告の内容等を分析することにより、ある程度、警告者の意図するところを推察できます。
(4)他のすべき事項
権利侵害の有無の調査→警告者の主張する権利の調査(特許公報の入手、特許登録原簿の謄本の入手、審査記録や異議手続記録又は審判手続記録→権利に瑕疵はないかどうか、無効理由はないかどうかを調べます)→合わせて、外国文献の検索(外国での特許や出願公開された技術資料はないか)、出願前に実施されていなかったかどうか→他社の類似品や特許資料以外の技術文献のチェックも大切になります。
警告を受けた側が実施している技術内容の調査(対象製品又は方法を詳細に知る社内・社外の技術者に対するヒアリング、製品又は方法が明らかとなる資料の収集、製品又は方法について外部に公表されている情報の収集→実体を把握する必要があります。
専門家への鑑定依頼(できれば複数の鑑定書を準備するほうがいいでしょう)
設計変更が可能かどうかの検討と販売停止措置→上記調査の結果、明らかに権利侵害の可能性が高いと判断した場合に、訴訟等の紛争によるリスクを避けるために、設計変更や方法の変更が可能かどうか、他の方策がみるからない場合の製造・販売措置の決定などについて検討する必要が生じます。
(5)上記等の注意する点を踏まえて回答状を出す場合には
i)さけるべき事項
軽々しく侵害の事実を認めるような記載はしないようにしましょう。
根拠や説得力に乏しい主張は避けましょう。
製品の売上高や利益額などは、例え、警告者が要求しても、回答してはいけません。
ii)明確に記載すべき事項
説得的な反論を主張し、法的手続に発展した場合でも十分な反論が用意されていることを端的に伝えることです(つまり、警告者に法的手続きを躊躇させることが目的です)。
警告書には、回答期限が設定されていることがありますが、時にそれを遵守することが難しい場合には、調査のために時間がかかることを率直に連絡し、回答の延期を申し入れる等、真摯な態度を示すことも重要だと思われます。

(この章続く)

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