-その(4) ライセンス契約について-(1)

  • 外国とのライセンス契約において、よくクライアントの皆様からご相談を受ける事項は

(1)相手方の当事者がこちら側の承諾なしに何時の間にか変わっていた。契約上は権利および契約の譲渡については触れていないがどのように対処すればよいか
(2)ライセンス対象特許(日本がテリトリーとなっている)の所有者が途中で変更になっているにも拘らず、日本の特許原簿では名義変更がなされていない。このような場合、相手方に対してどのような要求をすべきか
(3)相手方が通常実施権の設定を強く希望してきているが、どのようなメリットがあるのか
(4)特許と商標のライセンスを許諾している相手方から商標の使用権の設定登録を出願国全て(worldwide)にして欲しいとの要望が出されている。費用面からみて選択したいが、契約上可能か
(5)ライセンス契約締結後、ライセンス対象特許の改良発明をしたが、全て相手方に権利がいってしまうようになっているが、どうにかならないか
(6)実施料額の設定において、通常実施権であるにも拘らず相手方から10%以上の高額の要求を受けているが、その妥当性の判断についてどのように考えたらよいのか
(7)契約上、再実施許諾は認められていないが、下請製造として関係会社に製造を委託したら、相手方から契約違反であるため、契約を解除するとの通告を受けた。再実施許諾と下請との違いはどこにあるのか
(8)相手との契約では、日本における侵害や係争事件は、ライセンシーである日本側が全て責任をもってすることになっている。日本における実施について、第三者から侵害の恐れあるとの警告を受けた。ライセンサーは対象特許全てについて侵害が否かのデータおよび鑑定書を所有しているが、当該ライセンサーに対して、少なくとも当該データの開示を要求することはできないか
(9)日本側がライセンサーであるにも拘らず、準拠法はライセンシーである国(米国)の準拠法を固辞してきている。日本側の企業としては、当該ライセンシーは販売網も強力でありビジネスチャンスを失いたくないので、これをのむことにしたいが 将来的に何か不都合なことはないか(当方がどうしても日本法を主張するなら、第三国である英国の準拠法なら構わないともいってきているが)
(10)英文契約は初めてであるが、どうみても一方的な条項(ライセンサーの義務とライセンシーの義務の表現に差異があるように思われる)が多い気がする。どこがポイントか判らない。
(11)米国との契約は20ページ以上にもわたっている。許諾の範囲や実施料については、理解できるが、他の条項の良し悪しが判断できない。英文の契約はなぜ、このように長く、わかりにくいのか。
(12)ライセンス契約の別添で、対象特許とテリトリーを添付することになっているが、ライセンシーへの連絡なしに、対象特許が増加されており、契約期間がわからなくなっている。メインの国における対象特許が満了しているにも拘らず、実施料支払対象期間は、全ての対象特許が満了するまでとなっており、何時まで実施料を支払ったらよいのか不明瞭になっている。ライセンサーに対してどのように整理を要求すべきか、また、その根拠を明確に教えて欲しい。
(13)ライセンス契約で期間が不明確なため、実施料を支払いすぎた感がする。対象特許満了後の支払い分についての返還を要求できるか。契約上、ライセンサーはいかなる理由による場合でも既に受領した実施料は返還しない旨規定があるが。

などなど、かなり多くの問題解決に悩んでおられます。 そこで、今回は、これらの課題についてご説明をしていくことにします。

  • 各質問事項に対する回答
(1)相手方(ライセンサー)がこちら側(ライセンシー)の承諾なしに何時の間にか変わっていた。契約上は権利および契約の譲渡については触れていないがどのように対処すればよいか

「回答」
本来なら、契約締結時に締結後における契約当事者の変動への対応策を講じておく必要があります。昨今、企業間において企業合併・買収が頻繁に行われている中で ライセンス契約の譲渡、契約上の権利義務の移転などにより、契約当事者に変動をきたすことがあります。ライセンス契約は、契約当事者間の信頼関係を踏まえて契約関係に入ったのですから、契約の有効期間中に、契約の当事者関係に変動があっても困らないように契約締結時には契約条項に十分気をつける必要があります。しかしながら、今回のように、権利および契約の譲渡を一方的にされた場合で、かつ、何らの連絡もなかった場合については、
i )契約当事者の変更は、契約上重要な事項ですので、当該契約上、「完全合意」(Entire Agreement)条項があれば、契約当事者の変更は契約修正事項(Modification)に該当するため、両者の合意が前提となりますので、この旨、相手に確認し、新たな契約当事者の詳細な概要(ライセンサーとの関係等)を連絡させる必要があります。但し、契約上の準拠法が米国などになっている場合には、米国における契約法の概念(合併など事業とともになされる契約譲渡についてどう解釈するか)をチェックする必要があるように思われます。
ii)また、契約違反として解除の申し込みを行うことも可能と存じます。
iii)新たな契約当事者との間で契約を続行する意思があれば、当事者の変更および同じ契約条件でライセンス契約を続行することについて確認する契約を締結する必要があります。
iv)更に、対象特許についてもライセンサーから新たな契約当事者に権利が移転しているならば、各国の特許庁に対しても名義変更の手続きを要請すべきです。
(2)ライセンス対象特許(日本がテリトリー)の所有者が途中で変更になっているにも拘らず、日本の特許原簿では名義変更がなされていない。このような場合、相手方 (ライセンサー)に対してどのような要求をすべきか。

「回答」
この場合も上記(1)の場合と同様ですね。権利者が変更になった場合の処置について当初の契約には触れていなくとも、対象特許の権利者が変更になった場合について は、上記(1)と同様に考えてください。日本の特許法上は、特許の権利者は登録が発 生要件ですので、登録を信じて行為を起こした第三者には対抗できない場合が生じ ますので、迅速に変更の手続きを要求すべきです。

(3)相手方(ライセンシー)が通常実施権の設定を強く希望してきているが、どのようなメリットがあるのか。

「回答」
通常実施権は、一般的にいって登録云々ではなく、当事者同士の合意で効力が発生することになっていますので、登録の必要性はありません。ただ、特許法99条第1項によれば、「通常実施権は、その登録をしたときは、その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生じる」となっています。つまり、一度登録をしておけば、権利関係に変動が生じたとしても、通常実施権の地位は覆らないということです。 今回のご質問では、外国のライセンシーが日本における通常実施権の設定の要望を出してきた背景には、権利者の変動を危惧したものかもしれません。

(4)特許と商標のライセンスを許諾している相手方(ライセンシー)から、商標の使用 権の設定登録を出願国全て(worldwide)にして欲しいとの要望が出されている。 費用面からみて選択したいが、契約上可能か。

「回答」
商標の使用権の設定については、国毎にその効力発生要件が異なります。
大きく分けて、登録が効力発生要件となっている国(アルゼンチン、ウズベキスタン、カザフスタン、グアテマラ、タイ、チェコ、メキシコ)、登録の必要のない国(先進主要国など)、義務的ではないが、登録すれば第三者対抗要件やエンフォースメントが可能になる国(イタリア、ウクライナ、オーストリア、韓国、クロアチア、コスタリカ、スペイン、スロバキア、チュニジア、チリ、ドミニカ共和国、ハンガリー、フィンランド、フランス、ポルトガルなど)に分かれますので、まず、テリトリーとして与えている国について、上記のどれに該当するのかを特許事務所で調査・確認をしてもらう必要があります。
契約上は、1)必要な国(mustという表現を使用)については、ライセンサーの義務として規定されており、更に、2)第三者との係争(侵害・非侵害)については、ライセンシーが対応する(つまり、ライセンサーの排除義務はない)となっていることから考えて、上記の登録が効力発生要件になっている国は第一優先として使用権の設定は必要になります。更に、第二優先としては、登録することにより第三者対抗要件、特にエンフォースメントが可能になる国については、ライセンシーが係争を処理することができるために法制との関連で使用権の設定は必要と考えてよいでしょう。

(5)ライセンス契約締結後、ライセンス対象特許の改良発明をしたが、全て相手方(ラ イセンサー)に権利がいくような条項になっている。どうにかならないか。

「回答」
改良発明を全てライセンサーの権利に帰するような内容の条件を課されている場 合には、日本、米国、欧州に限らず、独占禁止法上の不公正な取引条件に該当しますので、準拠法が規定されている国の公正取引委員会(国により呼び名も変わりますが)に訴えることを考えてみてはどうでしょうか。本来なら、契約条件交渉時点でこのような条件を要求してくるライセンサーに対して、独占禁止法上問題がある点を主張すべきですので、今後は、力関係に遠慮するのではなく堂々と相互性(mutuality)の精神で交渉を進めて欲しいものです。

(この章続く)

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