契約の必要性について -共同研究(開発)契約-

  • 今回は、秘密保持契約等の締結後、被開示者が開示者の技術を評価した結果、当該技術の自社製品への応用や新規製品開発への可能性に興味を示した場合の次の段階として考えられる取り決めについてお話しします。

  • この段階で考えられる体系としては、一番多いのが共同で研究開発をする場合と、技術をもっている開示者側に次のステップの研究開発までを委託する場合です。前者では共同(開発)契約を締結し、後者では、研究(開発)委託契約を締結することになります。

  • 共同研究(開発)といってもその態様はさまざまで、それぞれの事情によって異なってきます。例えば、医薬分野の事例では、A社は既に製品(医薬品)を販売しているが、その製品の付加価値を高めるために、既存製品の製剤に関する研究開発(例えば、注射剤を口腔内崩壊剤への切り替え)を検討しているとします、そこにたまたま同じような製剤の開発をしているB社の技術が目にとまったとします。A社では、当該技術の評価をするためにB社と秘密保持契約を締結した結果、製剤技術としては価値あるものと判断した場合には、当該技術がA社の製品に適用できるかどうかの本格的研究開発に入ることになり、B社との共同研究開発契約を締結することになるのです。この場合には、同じ分野の製薬メーカー同志の取り決めになりますが、技術の所有者が大学や研究機関であり、研究開発を希望する側が企業の場合もありますし、技術の所有者が医療機器メーカーであり、開発希望者が製薬企業といった異種業種間のものもあります。
    共同研究開発では、大抵の場合、秘密保持契約下で開示を受けた側が当該技術の応用または適用可能性(自社が所有している製品への適用、自社が所有している技術との融合等)を検討するケースが多いようです。

  • 共同研究(開発)契約を締結する場合、対象とする技術を所有している場合と、相手の技術を自己の製品に応用する場合や自己の技術との融合で更なる技術の開発を目指す場合や、皆様が企業の場合や大学・研究機関の場合など、それぞれの立場や事情で契約内容も異なってきますが、ここでは、いずれの立場であっても、当該取り決めにおいては、どのような事項がポイントとなるかを両者共通の立場でお話ししていきたいと存じます。
    まず、

    (1)研究開発の目的:共同研究開発契約において何を達成しようとするのか、その目的は明確に記載しなければなりません。目的が明確になれば、両者がその目的にむかって何をすべきか、なにを相手方に要求すべきかなどが自ずと明確になります。
    (2)契約対象は何か:当事者が契約上で取り扱う対象は何か、つまり、各当事者が 相手方に開示提供するものは何か、技術情報なのか、ノウハウ技術なのか、研究開発に使用される製品(サンプル)があるのか等を明確に記載する必要があります。これは、当該研究開発でなされた成果(ノウハウ技術、発明、製品も含めて)が誰のものになるのかに関係する重要な事項であることを認識しておく必要があります。
    (3)情報・資料の相互開示:当事者が当該契約の目的を達成する上で必要な情報及 び資料をお互い開示提供し合うことになりますが、その際には、双方の技術のコ ンタミが生じないように注意する必要があります。往々にして、同じ分野の企業同志での共同研究開発では、契約外での研究開発の情報との関連性が問題になることがありますので、契約対象として開示提供を受けた情報や資料にアクセスできる人員を特定することも大切になります。また、秘密漏洩がないように開示提供された技術情報の保管も大切な業務となります。
    (4)研究開発の分担とその費用負担:共同で研究や開発をする際には、各当事者が何をするのかを明確に規定することも必要です。例えば、上記の事例でお話しすれば、A社は、B社から開示提供を受けた製剤技術に関する技術情報と製剤サンプルの提供を受け、自社製品への適用可能性に関する研究開発を実施する。一方、B社は、自己所有の製剤技術情報と製剤サンプルを提供するとともに、A社から要求があれば、A社の製品への適用のために、製剤技術の改良を実施するといったような分担を決めます。更に、その際には、各自が実施する分担作業に関する費用は自己が負担するというような費用の取り決めも明確にしておきましょう。 また、時には、サンプル作成に費用がかかる場合には、サンプルは有償で提供する旨の取り決めも可能です。
    (5)開発成果の取り扱い:契約上で最も重要な項目といえますので、この条項は欠かさないように注意して下さい。つまり、研究開発の過程または結果として生じた成果(技術、ノウハウ、発明等)の所属はどうなるのか、当該成果をどのように取り扱うのか(次のステップとして考えられるのは、ライセンス契約等)、発明等の知的財産が生じた場合の取り扱いはどうするのか(共同出願か、単独出願か) 等など必ず明確な規定を設けるべき事項はかなりあります。 上記に述べましたように、当該成果は、各自が何をすべきかを明確にしたことにより自ずと成果は誰に帰属するのかは明確になりますので、それに準じた事項を規定しておくとよいでしょう。基本的には、共同で研究開発作業に携わるのですから、成果も共同共有となりますが、分担の比重にばらつきがある場合(例えば、一方は費用を出すが、研究開発は他方がする場合とか、基本的な技術は提供するが、契約上の研究開発は一方のみが実施し、当該成果は完全に一方の研究開発によるものが明らかな場合には、成果は研究開発を実施する側のものとし、他方へライセンス許諾を予約する場合などのケースも考えられます)には、各々のケースに応じた権利の所属が決まることになります。
    (6)其の他:以上が重要な取り決めとなりますが、当然に秘密保持条項も必要事項に加えておいて下さい。この際、特に自己が保有している情報と相手方から開示を受けた情報がダブっている場合もありますので、例外事項としては必ず、相手方から開示を受けた際に、既に自己が保有していたことを立証できる技術情報や法的に問題なく正当に第三者から開示を受けた情報が立証できるように既存の技術の保管などにも気をつけておいて下さい。後で、技術情報のコンタミで争いになることもありえますので。
  • ここで、共同開発契約とは少し違う事情として委託研究開発契約が生じる場合もありますので、そのことに少し触れておきましょう。簡単に共同開発契約との比較を下記表に示します。

     共同研究開発委託研究開発
     研究開発の必要性両    者委 託 者
     開発業務の分担両    者受 託 者
     費用負担両    者委 託 者
     成果の帰属共有(原則:例外有)委 託 者
     成果の実施両者または一方委 託 者
     開発リスク
     開発終了後の拘束 多い。
     (1)相手方からの製品購入
     (2)秘密保持義務
     (3)第三者への実施許諾の制限等
     少ない。
      (委託者が開発したことと同じ)

    委託研究開発契約の場合には、上記に示したようにほとんど経済的なメリットとリスクは委託者がかぶることになります。かかる場合の受託者のメリットは受託による報酬の確保ということになりますが、最近では、研究成果の学会発表(発明が生じた場合には発明者としての地位の確保)を要求する受託者もあります。研究成果が画期的な場合には、委託者としても受託者(特に大学の研究者)の要望を聞きいれる場合も多いようです。

  • 上記を勘案して、共同研究開発の立場をとるのか、委託研究開発の立場をとるのかを決めることになります。  

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