-その(4) ライセンス契約について-(3)

  • 引き続き、国際ライセンス契約におけるクライアントの皆様からのご質問に回答させて いただきます。

(9)日本側がライセンサーであるにも拘らず、準拠法はライセンシーである国(米国)の準拠法を固辞してきている。日本側の企業としては、当該ライセンシーは販売網も強力でありビジネスチャンスを失いたくないので、これをのむことにしたいが、将来的に何か不都合なことはないか(当方がどうしても日本法を主張するなら、第三国である英国の準拠法なら構わないといってきているが)   

「回答」    
本来ならライセンサーの国である日本法を主張しても当然のことですが、契約交渉においては、やはり、力の差が条件交渉でも影響することは否めません。従って、ビジネスチャンスを失いたくないという日本側の企業の思惑もよく理解できます。
従って、契約における準拠法を米国にするか第三国(先方の代替案は英国ですが、調査してみると、ライセンシーは英国にも関係会社を所有していることが判明。英国を代替案としてオファーしてきた理由がわかりました)にするか、また、そうした場合に注意する点をご説明しましょう。

i )準拠法を米国法にした場合:まず、準拠法の他に裁判管轄はどこか、仲裁規定はあるかどうかを併せてチェックする必要があります。契約の法解釈はやはりライセンシーが特許を実施する国の法律で解釈するほうが実際的には合理的といえますが、ご存じのように、米国では、連邦法と州法があり、更に、判例法があり、少し複雑です。しかしながら、米国法なら日本でも内容をチェックすることは可能ですので、英国法他の代替案よりはベターといえます。
本件では、準拠法は米国、裁判管轄は被申立人の国において行うとなっていますので、当事者間での争いでは、ライセンサーがライセンシーにより訴えられた場合には、日本の裁判所(企業が所在する住所を管轄する裁判所:大阪に本社がある場合には大阪地方裁判所が第一管轄となります)が第一管轄となる旨の記載があります。幸いに仲裁規定と裁判管轄の両方(つまり、一方が仲裁に不服な場合には裁判手段を講じることができるという一方的な要求も見られますが、本件ではそこまで要求してきておりません)という規定はなく、解決手段は裁判になっております。
ただし、裁判の場合には訴訟内容および係争内容が公開されるため、非公開を望むなら仲裁規定を設け、仲裁による裁定が最終のものである旨を規定すべきです。
ii)準拠法を第三国にする場合 両方の意見がかみ合わない場合には、第三国としてスイス法を指定する場合がありますが、日本側からみて、日本法以外の法律を解釈のとりどころとすることは賛成できません。あくまで日本法とすべきですが、相手が米国企業であり、米国法を準拠法と主張する場合には、他の国よりも馴染みがあるため、消極的ではありますが、力関係からみて仕方ない場合には、これを受け入れざるを得ないと存じます。
(10)英文契約は初めてであるが、どうみても一方的な条項(ライセンサーの義務とライセンシーの義務の表現に差があるように思われる)が多い気がする。どこがポイントかよく判らない。

「回答」     
そうですね。日本語の契約と違って英文の場合(特に相手が米国の場合)は、量もはんぱではないですし、表現も普通のビジネス英語や日常会話とは違ってテクニカルタームが多く使用されているため、余計に解釈が困難となります。
例えば、義務を表す「shall」を動詞の前につけますが、気をつけないと、こちら側(本件の場合では、日本企業がライセンシー)に対する行為には全て「shall」が使用され、相手方(本件の場合では米国企業がライセンサー)の行為では、「agree to」とか「will」を使用しています。これらの表現は、「shall」のような絶対的な義務(当該行為を履行しない場合には、契約違反となる)ではなく、「will」は努力義務を、「agree to」は単なる同意するという趣旨であり、履行しない場合でも、こちら側から義務違反として法的な履行請求はできないことになります。

他には、契約条項の一方的な要求事例は、

1)解約条項(会社統合、破産、整理などの状況に陥った場合)が一方的にライセンシー側の状況のみを規定し、ライセンサー側に同様な事態が発生しても、ライセンシーから解約を要求できる可能性を規定していない場合、
2)ライセンシー側の契約違反では通告後30日の猶予期間を経過すると、ライセンサー側は直ちに契約解除権が行使されるのに対し、ライセンサー側の契約違反に対しては30日経過しても、誠意をもって違反を矯正する努力をした場合には、たとえ、矯正できなくとも、矯正されたものと看做す場合、
3)ライセンシーによる改良技術または発明をライセンサーの帰属とする場合、
4)ライセンサーが一方的に契約の権利・義務を第三者に譲渡することができる場合、
5)当事者の合意が得られない場合には、仲裁に裁定を依頼するが、ライセンサーのみが、更に裁判手段を講じることができる場合、
6)秘密保持を一方的にライセンシーのみに課す場合(改良発明や改良技術のライセンサーへの開示条項がある場合には、ライセンサーも当該改良発明や改良技術に対しても、相互に秘密保持義務を負うべきであるにも拘らず)、
7)定義条項でよく使用される文言を定義し、内容を特定しているにも拘らず、同じ内容を表現するために違う用語を各条項でもちいており、整合性にかける場合、

上記いずれの場合にも、契約の基本方針である「相互性(mutuality)」を欠いていると思われますので、交渉時点では遠慮なく主張すべき点は臆せず主張するように心がけましょう。
(11)米国との契約は20頁以上にもわたっている。許諾の範囲や実施料については、理解できるが、他の条項の良し悪しが判断できない。英文の契約はなぜ、このように長く、わかりにくいのか。

「回答」     
確かに、米国等との英文契約は非常に長くなっていますので、初めての方はその長さと複雑さに驚き、慣れている企業でも、恐らく、内容のチェックにうんざりしている方も多いと存じます。
日本企業同士の日本文の契約でも最近はかなり長くなる傾向にありますが、米国との契約ほどではないと存じます。まず、米国における契約の概念について理解しておくべきですね。
米国においては、基本的な契約の概念として、契約時点において必ず、1)パーフォーマンス・プラニング(履行円滑化の工夫)および2)リスク・プラニング(リスク対応の工夫)を明確にし、契約において、両者がお互いに何を約束したかを明確にし、また、その履行が円滑にされるためには、何を規定しておけばよいかを考えることになっています。これは、日本流の「誠実協議条項」をおいておけば、将来、契約に決められていない事項が発生すれば、その時点で協議すればよいという考え方とは基本的な違いがあります。
従って、米国との契約では、上記のプラニング方針に則り、さまざまな場面を想定した条項がおかれるのです。     

このためには、だらだらと全文をチェックするのではなく、検討する順位を決めて、内容を把握していくことに慣れるようにしましょう。

i )基本的重要事項
1)ライセンスの対象は何か(対象特許の特定および契約対象製品の特定)
2)ライセンスに付随して開示提供されるものはないか(ノウハウ等)
3)ライセンスの許諾範囲(権利の種類、実施できる範囲、実施できる地域) 更に、再実施許諾権がついているかどうか、下請製造が禁止されていないかどうか
4)実施料(種類:ランニングか一時金か、金額:合理的な料率または金額の設定になっているかどうか、支払方法:一時金については分割支払いも可能か、ランニングについてはミニマムなどの条件が課されているかどうか等)
5)支払期間は妥当か(契約時点で対象特許が特定されている場合と契約期間中に追加される可能性が規定されているか、その場合には、その追加手段について決められているかをチェックした上で、対象特許の存続期間(各国別かどうか、それとも、ワールドワイドにみて最後の特許が満了するまでとなっているかどうか)と実施料支払期間との整合性を確認する)。ただし、ノウハウ技術も併せて許諾の対象となっている場合には、支払期間は対象特許との関連でどのように規定されているか→ノウハウ技術の有効性の期間の想定も必要になる。
ii)権利義務関係事項
1)ライセンサーまたはライセンシーがどのような権利行使ができると規定されているか(ライセンサーの保証の範囲はどうなっているか)
2)ライセンサーまたはライセンシーの義務としてどのような条件が課されているか(相互義務の規定になっているか→例えば、秘密保持義務等)
3)当該義務を履行しない場合(所謂契約違反等)には、相手方はどのような処置ができるか
iii)権利侵害
1)対象特許の実施(契約製品の製造販売)により、許諾された地域(テリトリー)において、第三者から権利侵害を主張された場合の対応はどのようになっているか
2)対象特許を侵害している第三者がいた場合、当該侵害者への対応はどのようになっているか
iv)契約期間中に生じた改良発明等
1)ライセンシーによる改良発明等が生じた場合の処置についてどのように規定されているか
2)ライセンサーによる改良発明(追加の特許など)についての実施許諾の可能性についても規定されているか
v)その他の条項
1)契約解除条項(相互性が明確になっているか)
2)両当事者による係争(仲裁か裁判決定か)
3)契約解釈はどこの法律に準じるか(準拠法)
4)契約の地位、契約における権利・義務の禁止(相手方の同意が必要)は明確に規定されているか
5)完全合意の規定があるか(特に英文では、当該条項が明確に規定されている→この規定があることにより、口頭での約束でも契約中に規定されていない場合には主張できないため、要注意です)。
6)不争義務→ライセンス許諾の場合には、必ず規定がおかれておりますが、もし、対象特許の有効性について争わないという趣旨の義務規定がライセンシーに課されている場合には独占禁止法違反になりますので、その旨要求し、少なくとも、「ライセンシーが有効性について争う場合には、ライセンサーは契約を解除することができる」という範囲まで減縮させるようにしましょう。

(この章続く)

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