ライセンス契約及び共同研究契約と独占禁止法との関連について-その(1)

  • 今回は国内契約関連の仕上げとして、各契約(特に、特許・ノウハウライセンス契約および共同研究契約)に関して独占禁止法との関連で問題となる条項(特に拘束条件等)についてご説明し、ライセンスを許諾する側とライセンスの許諾を受ける側双方にとって留意しておくべき事項並びに共同研究を実施する上で留意すべき事項に焦点を合わせてご説明したいと存じます。

  • 特に、公正取引委員会ガイドライン(平成11年7月)における「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」および(平成5年4月)における「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」に基づき、具体的に何に気をつければいいのかを皆様のそれぞれの立場にたって事例を交えながら進めてみたく存じます。

  • さて、まず特許・ノウハウライセンス契約から始めましょう。これまでのご相談では、ライセンスを許諾する立場にある場合でも、相手との力関係からかなり不利な条件をライセンシー側から要求されているクライアントの皆様も多いようでした。勿論、ビジネス上の関係の構築、ビジネスの展開上やむをえない場合もあると存じますが、ただ、それだけの理由で相手方のいいなりになるのはどうかと思います。特許法上、独占禁止法上、不正競争防止法上、民法上からみて不当と思われる点については、特許等の権利者またはノウハウの保有者として正当なことは主張すべきであるとの認識は是非とも身に着けて欲しいと思います。また、反対にライセンスを受ける場合でも、本来なら当該特許の権利者であるべきなのに相手方に特許出願され、逆にライセンスを受けるという場合の相談もありました。この場合でも、当該特許に対する冒認を主張し、出願人に加えてもらうか、ライセンス条件を有利にもっていくか等の手段はあるのですが、上記のビジネスチャンスを壊したくない(つまり、係争は避けたい)との一念から、不利な条件を飲んだケースも多々見受けられます。契約はあくまで両者の交渉結果の合意事項を文書に纏めたものです。
    その交渉過程において、法制上、相手の行い、主張、要求がおかしい場合には、おかしいと主張することは、ビジネスチャンス云々のことではなく、それぞれの国内法上、当然の権利主張として認められているのです。従って、最低、これからご説明する点についてはご理解いただいた上で、今後のビジネス展開の参考にしていただきたく思います。

  • まず、独占禁止法上における違法となる行為の概念から簡単にご説明しましょう。
(1)独占禁止法第23条
 原則的には、特許法等による「権利の行使と認められる行為」に対しては、独占禁止法の規定が適用されず、違反行為を構成することはないが、当該「権利の行使」とみられるような行為であっても、それが発明を奨励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には独占禁止法が適用されるという趣旨を規定した条項です。この条項に照らして検討した結果、独占禁止法の適用があるとされた場合には、1)不当な取引制限ではないか、2)私的独占ではないか、3)不公正な取引方法に該当するのではないかという観点からの検討が行われます。
(2)事前相談制度
 皆様が契約を締結される前に、契約内容中、制限条項について確認をとりたい場合には、公正取引委員会が設置している事前相談制度を活用されることをお勧めします。当該相談制度は、特許・ノウハウ以外の知的財産権(商標法、意匠法、著作権法、種苗法、半導体集積回路の回路配置に関する法律によって規定されている権利)のライセンスを内容とする契約に含まれる条項についても相談の対象となっております。事務局は東京ですが、各地域に事務所があり、そこで相談に応じてくれます。
(3)独占禁止法の適用(3要件) → 独占禁止法3条違反
 上記(1)であげました独占禁止法の適用があると思われる3要件(別の言い方をすれば、知的財産権の権利の行使と認められない要件)について簡単にご説明しましょう。
不当な取引制限
 ライセンス契約において、通常のライセンス許諾であれば知的財産権の行使として何ら問題はありませんが、相互に事業活動を拘束する形態で用いられる場合には、不当な取引制限の問題となる可能性が強くなります。例えば、特許等のライセンス契約において、相互に特許製品等の販売価格、製造数量、販売数量、販売先、販売地域などについての制限が課され、これにより一定の製品市場における競争が実質的に制限される場合には、不当な取引制限として独占禁止法上違法となります。また、相互に研究開発の分野、ライセンス許諾先、採用する技術などについて制限が課され、これにより一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合にも不当な取引制限として違法となります。
私的独占
 ある特許等が一定の製品分野において、標準技術となっていて、当該分野での事業活動に不可欠である場合を想定すると、当該事業分野では、当該特許のライセンスを受けなければ事業活動が困難となるようなケースにおいて、当該特許等のライセンスに伴い、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンサーの指定する他の製品又は技術の購入を強制することにより、当該指定された製品と競合する製品を製造する事業者の事業活動を排除すること又は支配することにより一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限されるような場合には、私的独占として違法となります。
不公正な取引方法
 ライセンサーがライセンシーに対して、実施地域、実施機関等のライセンスの範囲に関する制限、研究開発活動等の制限、特許製品等の製造・販売等に関する制限などライセンシー活動に関して種々の制限を課すことによって、ライセンシーの活動を制限し、一定の分野における公正競争を阻害するような場合には違法となります。かかる場合には、優越的地位の濫用という観点からも検討することが必要になります。
  • それでは、契約上における具体的な事例(特に皆様のケースで注意すべき点は、上記の3要件の中でも不公正な取引方法に該当すべき事項(公正取引委員会告示 不公正な取引方法→一般指定の10項~14項)に集約されると存じますので、主に、かかる観点からの事例)を掲げ、ライセンサーとして権利行使の範囲とみられる制限、ライセンシーとして不当な取引制限(又は優越的地位の濫用)に該当していると主張できる点の両面に分けてご説明していきましょう。

ライセンサー側の立場からみて
1)権利行使の範囲とみられる制限等
 
  • 実施許諾の範囲の特定
         →特許有効期間中における期間の限定
         →特許権が有効である国における地域の限定
         →特許の実施(製造・使用・販売)を一定技術分野に限定
              または実施の範囲を製造とか販売などに限定
     
  • 一定の製品の製造数量等による実施料支払義務
    ライセンシーの特許製品の製造数量または販売数量等に基づいて実施料の支払義務を課すことは通常の行使の範囲であることは明確です。それ以外に、例えば、契約対象特許が製造工程の一部に使用される場合又は部品に係るものである場合に、計算等の便宜上当該特許若しくは部品を使用した最終製品の製造・販売数量若しくは製造に必要な原材料、部品等の使用数量若しくは使用回数を実施料の算定基礎とすること、又は計算等の便宜上特許製品の製造に必要な原材料、部品等の使用数量若しくは使用回数を実施料の算定基礎とすることは、権利行使の範囲と看做される。

  • 特許権消滅後等における実施料支払義務
    実施料の分割払い又は延払いが契約上規定されている場合には、特許権消滅後においてもライセンシーの実施料支払義務が継続する旨規定しても問題ないと思われます。

  • 一括ライセンス
    抱き合わせに該当しないケースとしては、契約対象技術の効用を保証するために必要な範囲内で、複数の特許について一括してライセンスを受ける義務を課す場合、例えば、医薬分野の場合、医薬品の有効成分としての化合物(物質特許)を許諾する場合において、当該化合物を製造するために必要な製造方法、中間体の製造方法は他にもあるが、当該化合物の有効性を保証するために 指定する製造方法や指定する中間体の製造方法の実施を義務付けることは権利行使の範囲とみられますし、また、上記を一括してライセンスを許諾する場合でも、実施料支払義務を化合物の特許のみに限定する場合等は権利行使の範囲とみていいでしょう。

  • 不争義務
    ライセンシーがライセンスされた特許の有効性について争った場合、ライセンサーが当該ライセンス契約を解除できる旨を規定すること-つまり、これによりライセンシーが当該特許の有効性について争うことができるときには、権利行使の範囲と看做されます。

  • 研究開発活動の制限
    特許ライセンス契約におけるライセンシーに対する制限は不当な取引方法に該当すると看做されますが、ノウハウライセンス契約においては、ノウハウの流用を防止することが秘密保持義務、実施分野の制限その他の制限によって達成が困難な場合がありうると考えられますので、このような場合には、契約対象ノウハウの流用防止のために必要な範囲内で合理的な期間に限って、ライセンシーが第三者と共同して研究開発を行うことを制限しても構わないとされております。

  • 改良発明等のグラントバック義務
    ライセンシーによる改良発明、応用発明等の取り扱いについては、以下のケースの場合には権利行使の範囲と看做されます。
    1) ライセンサーとの共有とすること
    2) ライセンサーに相応の対価で譲渡すること
    3) ライセンシーが特許出願を希望しない国・地域について、
      ライセンサーに特許出願をする権利を与えること
    4) ライセンサーに対して非独占のライセンスを与えること

  • その他の制限・義務
    権利行使の範囲と看做される規定は以下のとおりです。
    1) 最善実施努力義務
    2) 秘密保持義務
    3) 一方的解約条件→ライセンシーが支払い不能等による履行不能の場合

  • 製造数量又は使用回数の最低量の制限
    ライセンサーが最低限の実施料収入を確保する目的で、特許製品の最低製造数量又は方法特許の最低使用制限を制限することは権利行使の範囲と看做されます。

  • 契約終了後の制限
    ノウハウライセンス契約において、ノウハウの流用を防止することが契約終了後の実施制限その他の制限によっては達成が困難な場合がありえます。かかる場合には、契約対象ノウハウの流用防止のために必要な範囲内で契約終了後の短期間に限って、ライセンシーの競合品を製造・使用すること又は競争技術を採用することを制限できると考えられています。

  • 原材料・部品等の購入先の制限
    契約対象技術の効用を保証すること又は商標等の信用を保持することが原材料、部品等の品質の制限その他の制限によっては達成が困難な場合には、契約対象技術の効用を保証するため又は商標等の信用を保持するために必要な範囲内で、原材料、部品等の購入先を制限することは認められます。

  • 特許製品、原材料、部品等の品質の制限
    契約対象技術の効用を保証するため、又は商標等の信用を保持するために必要な範囲内で、特許製品、原材料、部品等について一定以上の品質を維持する義務を課すことは権利行使と範囲内と看做される。
 (この章続く)

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