-その(4) ライセンス契約について-(2)

  • 前回に引き続き、国際ライセンス契約におけるクライアントの皆様からのご質問に回答させていただきます。

(4)

実施料額の設定において、通常実施権であるにも拘らず相手方(ライセンサー)から10%以上の高額の要求を受けているが、その妥当性の判断についてどのように考えたらよいのか。

「回答」
よく同じようなご質問、ご相談があります。ご質問内容の主たるものは、所謂業界相場又は業界平均実施料はどれほどかというご相談でした。こうした相場については、発明協会の「実施料(第5版)(発明協会(2003年)」及び「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握=」(帝国バンク、平成22年)等による該当分野別での平均値を参考にしてきました。しかしながら、昨今、侵害訴訟等が日本でも頻繁におきるようになってから、英米並みに賠償金を高額に設定する傾向が増えてきたという現状からみて、実施料額も以前に比べて高額化する傾向にあります。

また、実施料率にしても、相場制から交渉による金額設定という流れが主流になってきておりますので、通常実施権だから、3~5%位が妥当であろうというよう な旧式な相場感覚では対応が困難になっております。

従って、下記に示すような、ライセンサー側とライセンシー側の対価決定に至る過程を踏まえて、当該要求を受け入れることができるか否かを決定すべきだといえます。また、ライセンス対象技術(特許またはノウハウ)がどの分野におけるものかによっても価値判断や基準が変わってきます。特に、医薬分野では、特許自体のもつ価値が他の分野(例えば、自動車、電機、機械など)とは違います(つまり1個あたりの権利がもつ価値は比較的高い)ので、実施料率にしても、かなり違いが生じます。従って、一概にこれ位とはいえないのが現状であると思われます。

ご質問の場合は、例え、10%であったとしても、貴社にとってライセンスの許諾を受ける場合が得策なのか(例えば、侵害係争の和解の手段としてライセンスの許諾を受ける場合には、争った場合における訴訟費用および損害賠償並びに当該事業ができなくなることのデメリットを加算した損失価値と、ライセンス許諾を受けることにより実施料額等の出費となる損失価値のどちらが大きいかのバランスを検討することになります)を判断の基準とすべきです。当該要求の10%では、対象製品の市場性からみても無理であれば、当然に引き下げを要求すべきです。損益分岐点をよく見極めましょう。
当事者双方がprofitableと考える過程は図示すれば以下のようになります。

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(5)

契約上、再実施許諾は認められていないが、下請製造として関係会社に製造を委託したら、相手方(ライセンサー)から契約違反行為であり、契約を解除するとの通告を受けた。再実施許諾と下請けとの違いはどこにあるのか。

「回答」
今回は、わかり易くするために、再実施を製造の実施のみに限定し、下請製造との違いをご説明してみましょう。まず、実施権の許諾(再実施許諾権付)を受けたライセンシーが、自らは製造機能を有していない場合には、製造のライセンスを第三者に許諾(体裁は製造委託になる場合もありますが、製造委託についても製造ライセンスの許諾の一部と看做されます)することは契約上有効と考えられます(勿論、ライセンサーにはその旨報告する義務はありますが)。しかし、再実施許諾権がない場合でかつ事前にライセンサーとの間でライセンシーが下請製造する可能性について協議がなされていない場合はどう考えたらよいのかがポイントとなります。

一般的にみて、契約上「下請製造はできない」という規定がない限り、ライセンサーの了解なしに、契約製品の全部又は一部の製造を第三者に委託することは可能と考えられていますが、今回のご相談のような場合には、対象案件である下請製造が上記の製造ライセンス(製造委託)とは違うこと、契約上は下請製造を禁止していないこと並びに下請製造先が事業の関連のない第三者ではなく、関係会社である点、更に当該関係会社の実施に関する全ての責任を親会社であるライセンシーが負う等についてライセンサーに説明することが必要となります。(詳細については、当事務所HPの検討課題「下請契約と製造委託契約の違いについて」をご参照ください)

(6)

相手側(OEM供給先:米国企業)との契約では、対象製品(プリンター)は日本企業が製造し、これを米国にOEM供給しているが、販売地域を分けており、米国企業は日本以外の米国および欧州で対象製品を自己の商標で販売している。契約では、日本において供給品に関連する侵害や係争事件が第三者との間で生じた場合には、供給元である日本側が全て責任をもって処理することになっている。このたび、第三者から侵害(直接侵害ではなく、当該供給品を購入したユーザーが当該供給品を用いて対象の方法特許を実施する)の恐れ有りとの警告を受けた。当該警告には、米国や欧州への供給品に関しても侵害の対象としてきている(日本での製造行為および輸出自体も侵害の範疇としている)。日本における対象特許の調査はしたが、米国や欧州については対象特許に関する調査は行っていない。契約上は、日本側が責任をもって対応するとなっているが、米国の企業は、米国や欧州における対象特許に関する調査を実施し、鑑定資料まで有しているとの情報を得ている。当該米国供給先に対して、少なくとも当該データの開示を要求できないか(日本における製造および方法特許を実施しない可能性が高い地域への輸出が間接侵害になるのかの議論のために必要)。

「回答」
少し複雑な案件です。まず、対象特許は方法特許であり、日本以外にも米国および欧州で特許を取得しております。対象製品(プリンター)は、当該製品を購入したユーザーが当該製品を使用して対象特許を実施(特殊な配色のインクを使用して布にプリントする技術)するため、直接的な侵害品ではなく、方法特許に使用されるもの、つまり間接侵害を形成するものになります。  
方法特許の場合には、直接侵害をするユーザーに代わって、その侵害を助ける製品を製造販売するメーカーが、権利者より直接にライセンスの許諾を受けて、当該メーカーより当該製品を購入するユーザーに対しては、権利の主張をしないというライセンス契約を取り交わすことが多いようです。

i ) 本件の場合には、対象製品を製造販売(輸出)するメーカーに対して、日本で対象製品を製造し、これを米国および欧州へ輸出することに対して侵害の行為であるとしております(何故なら、米国および欧州でも方法特許を有しているためとの理由)。本来は、まずこの点につき権利者と協議すべきですね。間接侵害に関する日本の裁判例でも、学者の意見でも、上記事項は論点(侵害を形成する又は非侵害である)が分かれており、本当に日本における製造および海外向けの輸出(海外で当該製品を購入したユーザーが方法特許を実施する)が日本における方法特許をベースに間接侵害であるといえるのかどうか(米国および欧州での方法特許は当該製品を使用しないでも実施できる可能性が高い-米国などでの特許の範囲は日本特許よりかなり範囲が限定されているとの情報を日本企業はつかんでいる)については明確になっていませんので、協議すべきと存じます。
ii) 更に、当該警告に対する応答も係争に関連することであり、しかも、米国および欧州での方法特許の実施に対する権利主張まで、日本側で受けることはおかしいと思われますので、契約上とは別に供給先の米国企業と侵害可能性の有無を協議するため、秘密保持契約下で米国企業が所有している米国および欧州での特許侵害に関する調査結果および鑑定書の開示を要求すべきです。

(この章続く)

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