-その(4) ライセンス契約について-(6)

  • それでは、今回は、欧州諸国、主に英国、フランス、ドイツについて、ライセンス契約の規制や裁判とのかかわりについて、各国の特別な内容に焦点を合わせてご説明して行きましょう。

(2)英国
1)ライセンス契約に影響を与える法律
英国では、米国、カナダ、オーストラリアと同じくコモンロー(判例法)に基づきます。しかし、EU加盟国ですから、EUに適用されるEU規則、EU指令、EU決定(EU法規)が適用されます。これらのEU法規は、国内法より優先され、違反の場合には厳しい罰則が課されますので要注意です。

2)契約違反について英国の企業と争う場合
通常は、裁判管轄は被告地主義を採用する場合が多いようです(つまり、当事者は一般的に紛争が生じて裁判になることを想定し、裁判で被告になる当事者の国の裁判所や法律を選定する方法)。
ここで、注意しておかなければならないのは、 被告地主義に基づいて日本側が英国企業を訴えた場合には、例え、準拠法を日本法にしていても
a)英国の裁判所で英国の民事訴訟法および証拠法に沿って裁判を行うことになること、
b)英国特許の有効性を争う場合には、英国特許法に照らして有効性が判断されることになります。  
被告地主義に基づく裁判では、原告の負担は少なくないため、できれば、仲裁などで穏便に紛争を解決するほうが両当事者にとってはメリットは多いような気がします。
3)裁判手続きの特徴
ディスクロージャー制度(米国におけるディスカバリー制度と類似)→当事者で必要書類を出し合う制度です。重要な証拠を出さないような場合には不誠実と看做され、負ける場合があるので気をつける必要があります。
裁判所で弁論権を有するのは、バリスターと呼ばれる訴訟専門の弁護士です。この専門弁護士は他の弁護士(特許弁護士等)より費用は高くなります。 更に裁判費用は負けたほうが負担することになるため、かなりリスクが高いといえます。
英国では、裁判所が和解を促進するシステムが整備されており、和解を拒否すると当該当事者に不利になるケースが多くなっていますので、途中で和解になる場合がほとんどのようですね。
(3)ドイツ
1)準拠法がドイツ法の場合には、以下のようなシステムおよび解釈によってライセンス契約の内容が検討されることになりますので、覚えておいて欲しいと存じます。

a)ライセンス契約は、売買契約とは異なり制定法で規定されず、契約自由の原則によって契約内容を当事者間で決めることができます(勿論、EU競争法、規則、指令等の適用は受けますが)。個々の権利や義務については民法の典型契約の規定が準用されますが、特定の問題(例えば、先使用の権利を取得しているライセンシーに対しては、権利の譲渡で影響されないなど-特許法15条3項)については明文の規定はありますが。

b)ライセンス契約の内容で不明確な条項解釈や取り決めがないケースで問題となった場合には、ドイツ法に基づく一般的な解釈の原則が適用され、また、裁判所でも補充解釈もできるようになっていますので、英米法における契約の解釈とは少し違うようです。       
例えば、ライセンスの許諾範囲が不明瞭な場合には、「許諾目的の理論」があり、契約上の目的を遂行するのに必要なだけの権利しかライセンスの対象とはしないという考え方が適用されます。

c)ライセンスの種類で特異なのは、ネガティブ・ライセンスというものが存在します。これは、日本における黙示のライセンスとよく似ていますが権利者が差止めや損害賠償請求権の主張を明示的または黙示的に放棄することにより生じるものです。排他的ライセンスは日本における専用実施権と類似していますが、日本における専用実施権が登録することにより効力が発生するのに対して、ドイツでは登録が効力発生要件とはなっていません。

d)ドイツ法との関連で注意する点(契約に触れていない場合)
ライセンサーは第三者に対して権利侵害の訴えを提起する義務はないが、通常ライセンスの場合に、侵害者を放置しておくと無償のネガティブ・ライセンスに相当することになるため、契約上で最適条件条項があれば侵害訴訟提起の義務が発生することになります。
遡及的効果のある対象特許の無効が宣言された場合には、ライセンシーは事前に契約解除または実施料の減額をライセンサーに求めることができます。
契約期間中に製造され倉庫に保管されていた製品は、通例では解約による契約終了後も販売することができるようになっています。
重大な契約違反の場合には、ライセンス契約に該当する規定がなくても随時(事前の警告が前提)即時解約することができます。
2)裁判について
a)裁判管轄が契約上で規定されている場合にはそれに従うことになりますので、例えば、日本国内の裁判所が規定されている場合に、ドイツの裁判所で訴訟を提起しても管轄外ということでその訴えは却下されます。
b)裁判管轄や仲裁条項がない場合には、被告がドイツ企業の場合にはドイツの裁判所の管轄となります。日本企業が被告の場合でも、訴訟の対象となる契約義務の履行地、又は不法行為地がドイツの場合には、ドイツの裁判所が管轄になります。
c)特許紛争案件の場合には、これを専門に扱う裁判所が全国12箇所に集中しています。日本における大阪高等裁判所、東京高等裁判所よりも多く存在することになりますね。
3)準拠法
日独間の契約上の紛争はどちらかの準拠法でやるべきです。比較的両者の法的 解釈は似ておりますので、どちらかで適切といえます。第三国の法に基づくと いうような合意は実務上さまざまな支障をきたす恐れがあるため、お勧めでき ません。

4)裁判手続きで注意すること      
ドイツでは、書面による主張が重要な役割を占めております。日本における弁 論準備手続がありませんし、米国におけるような長時間に及ぶトライアルもありません。口頭弁論も大抵1~2時間で終了するため、それまでの書面によるやりとりが一番重要になってきます。口頭弁論では、書面による事実を覆すことは困難になりますので、書面による見解-つまり、明確かつ説得力のある書面の作成が明暗を分けるといっても過言ではないようです。
(4)フランス
1)日仏間のライセンス契約はEC競争法が適用されます。競争法違反に対する行政罰はフランス競争評議会、競争違反行為の無効および損害賠償請求については商事裁判所(個人の場合)又は大審裁判所(企業などの場合)が管轄となります。このため、フランスとのライセンス契約では、常にEC競争法をチェックする必要があります。
2)裁判手続き
*競争法違反で会社同士が争う場合には、商事裁判所が管轄となります。
*特許に関して争う場合には、10箇所の大審裁判所が管轄となります。

(この章続く)

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