特許法では、発明の新規性が特許要件として要求される。これに関し、発明の新規性の喪失の例外という規定(特許法第30条)が設けられている。この規定によれば、学会発表等においてその発明の新規性が失われても一定の場合に限り特許を受けることができる。 しかし、この規定は、あくまでも例外的な取扱いであり、厳格に適用されるものであるために、この規定に頼りすぎるとかえって不利になることもあり得る。 したがって、発明の新規性の喪失の例外の規定を利用するにあたり、その内容を十分に理解しておくことが肝要である。
1.発明の新規性の喪失の例外の規定(特許法第30条)について
(1)規定の目的 一般には、発明を公表した場合、その発明の新規性がなくなり、特許を受けることができなくなる。研究者は学会等で自己の研究成果を発表する機会が多いが、自己が学会発表した技術内容(発明)も特許法上は新規性を失うことになる。 このため、特許出願前にその公表が行われた場合には、その公表内容に係る発明は新規性を失い、出願が拒絶されることとなる。これは、学会発表だけに限られず、発明が刊行物に掲載された場合、研究開発コンソーシアムにおける勉強会での口頭発表を行った場合、発明がインターネットやテレビ等で公表された場合、発明品が博覧会に出品された場合もその発明の新規性が失われる可能性がある。 そこで、特許法第30条において、これらの発明についても妥当な保護を与えるために、学会発表等により新規性を失った発明であっても、一定の場合には例外的に新規性を失わなかったものとして取り扱うこととしている。
(2)どのような公表が例外的に扱われるか 発明の新規性喪失の例外は、例えば、以下のような特許を受ける権利を有する者の行為に起因して、または、発明者等の意に反して新規性を失った場合にその適用を受けることができる。なお、特許庁等への出願行為に起因して特許公報等に掲載されて新規性を喪失した発明については、当該出願行為が特許を受ける権利を有する者の行為に起因した行為であっても、発明の新規性喪失の例外適用を受けることができない。
(3)発明の新規性喪失の例外の適用を受けるための手続き 新規性を失った行為が上記[1]~[9]等の行為に該当しても、それだけでは適用を受けることはできない。すなわち、その適用を受けるためには、下記[1]~[3]全ての手続きを行うことが必要である。
その他詳細については、特許庁HP内の「平成30年改正法対応・発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」を参照。
2.発明の新規性喪失の例外の規定の適用を受けるにあたり研究者が注意すべき事項について
以上のように、この規定を利用できれば、学会発表等の後からでも特許出願することができるため、研究者にとっては便利で都合が良いものと言える。 しかしながら、この規定の適用を受けるあたり特に以下の点についても十分理解しておかないと、出願が不利に扱われたり、場合によっては特許を受けることができなくなったりするので、その点は注意が必要である。
(1)発表した者等と出願における発明者との関係 本規定の適用を受けるためには、原則として発表者と発明者とは一致している必要がある。 但し、複数の発明者の一部の者が発表した場合、または複数の発表者の一部が発明者である場合であっても適用を受けることができる。このような場合には、発明者と発表者との関係について釈明した書面を提出することが必要となる(当該書面の記載要領については、特許庁HP内の「平成30年改正法対応・発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」参照)。
(2)先願主義との関連で留意すべき事項 本条は、あくまで新規性喪失の例外であって、先願主義の例外ではないことに留意すべきである。つまり、新規性喪失日と出願日の間に第三者の同一発明に係る出願があった場合は、本条の規定の適用を受けることができたとしても、後願として拒絶される。 したがって、新規性喪失の例外の規定の適用を受けられるからと言って新規性を失った日から1年猶予があると考えるのは危険であり、発表後はできるだけ早く出願しておくのが賢明である。もっとも、発表前に出願しておけば、上記のような危険も回避することができる。
(3)発明の同一性について 発明の新規性喪失の例外は、新規性を失った発明と同一の発明を出願した場合のみならず、新規性を失った発明と相違する発明を出願した場合にも適用される。つまり、発明の新規性喪失の例外の適用を受けると、その出願に係る発明の新規性及び進歩性の判断において、発表等された発明は先行技術として考慮されない。
(4)外国との関係で留意すべき事項 本条は、あくまで「日本国内」における新規性喪失の例外規定であって、諸外国にはそれぞれ特有の制度が存在する。そのため、日本において新規性喪失の例外の適用を受けられたからと言って、他の国で同様の利益が受けられるとは限らない(受けられない場合が多い)。つまり、諸外国での権利取得を希望する場合は、本条の適用を受けることなく、できるだけ発明の公表前に特許出願を行い、本条の適用を受けないことが好ましい。
Last Update: June 9, 2018
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特許法では、発明の新規性が特許要件として要求される。これに関し、発明の新規性の喪失の例外という規定(特許法第30条)が設けられている。この規定によれば、学会発表等においてその発明の新規性が失われても一定の場合に限り特許を受けることができる。
しかし、この規定は、あくまでも例外的な取扱いであり、厳格に適用されるものであるために、この規定に頼りすぎるとかえって不利になることもあり得る。
したがって、発明の新規性の喪失の例外の規定を利用するにあたり、その内容を十分に理解しておくことが肝要である。
1.発明の新規性の喪失の例外の規定(特許法第30条)について
(1)規定の目的
一般には、発明を公表した場合、その発明の新規性がなくなり、特許を受けることができなくなる。研究者は学会等で自己の研究成果を発表する機会が多いが、自己が学会発表した技術内容(発明)も特許法上は新規性を失うことになる。
このため、特許出願前にその公表が行われた場合には、その公表内容に係る発明は新規性を失い、出願が拒絶されることとなる。これは、学会発表だけに限られず、発明が刊行物に掲載された場合、研究開発コンソーシアムにおける勉強会での口頭発表を行った場合、発明がインターネットやテレビ等で公表された場合、発明品が博覧会に出品された場合もその発明の新規性が失われる可能性がある。
そこで、特許法第30条において、これらの発明についても妥当な保護を与えるために、学会発表等により新規性を失った発明であっても、一定の場合には例外的に新規性を失わなかったものとして取り扱うこととしている。
(2)どのような公表が例外的に扱われるか
発明の新規性喪失の例外は、例えば、以下のような特許を受ける権利を有する者の行為に起因して、または、発明者等の意に反して新規性を失った場合にその適用を受けることができる。なお、特許庁等への出願行為に起因して特許公報等に掲載されて新規性を喪失した発明については、当該出願行為が特許を受ける権利を有する者の行為に起因した行為であっても、発明の新規性喪失の例外適用を受けることができない。
(3)発明の新規性喪失の例外の適用を受けるための手続き
新規性を失った行為が上記[1]~[9]等の行為に該当しても、それだけでは適用を受けることはできない。すなわち、その適用を受けるためには、下記[1]~[3]全ての手続きを行うことが必要である。
上記“証明する書面”には、例えば、以下の行為により新規性を喪失した場合、以下の内容が証明されていることが必要である。
証明方法:立会人による証明書の提出
証明方法:刊行物の該当部分のコピーの提出
証明方法:発表された発明の内容に関して掲載、保全等に権限または責任を有する者による証明書の提出
証明方法:主催者による証明書の提出
証明方法:主催者による証明書の提出
その他詳細については、特許庁HP内の「平成30年改正法対応・発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」を参照。
2.発明の新規性喪失の例外の規定の適用を受けるにあたり研究者が注意すべき事項について
以上のように、この規定を利用できれば、学会発表等の後からでも特許出願することができるため、研究者にとっては便利で都合が良いものと言える。
しかしながら、この規定の適用を受けるあたり特に以下の点についても十分理解しておかないと、出願が不利に扱われたり、場合によっては特許を受けることができなくなったりするので、その点は注意が必要である。
(1)発表した者等と出願における発明者との関係
本規定の適用を受けるためには、原則として発表者と発明者とは一致している必要がある。
但し、複数の発明者の一部の者が発表した場合、または複数の発表者の一部が発明者である場合であっても適用を受けることができる。このような場合には、発明者と発表者との関係について釈明した書面を提出することが必要となる(当該書面の記載要領については、特許庁HP内の「平成30年改正法対応・発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」参照)。
(2)先願主義との関連で留意すべき事項
本条は、あくまで新規性喪失の例外であって、先願主義の例外ではないことに留意すべきである。つまり、新規性喪失日と出願日の間に第三者の同一発明に係る出願があった場合は、本条の規定の適用を受けることができたとしても、後願として拒絶される。
したがって、新規性喪失の例外の規定の適用を受けられるからと言って新規性を失った日から1年猶予があると考えるのは危険であり、発表後はできるだけ早く出願しておくのが賢明である。もっとも、発表前に出願しておけば、上記のような危険も回避することができる。
(3)発明の同一性について
発明の新規性喪失の例外は、新規性を失った発明と同一の発明を出願した場合のみならず、新規性を失った発明と相違する発明を出願した場合にも適用される。つまり、発明の新規性喪失の例外の適用を受けると、その出願に係る発明の新規性及び進歩性の判断において、発表等された発明は先行技術として考慮されない。
(4)外国との関係で留意すべき事項
本条は、あくまで「日本国内」における新規性喪失の例外規定であって、諸外国にはそれぞれ特有の制度が存在する。そのため、日本において新規性喪失の例外の適用を受けられたからと言って、他の国で同様の利益が受けられるとは限らない(受けられない場合が多い)。つまり、諸外国での権利取得を希望する場合は、本条の適用を受けることなく、できるだけ発明の公表前に特許出願を行い、本条の適用を受けないことが好ましい。
Last Update: June 9, 2018