拒絶理由通知・拒絶審査とその対応

拒絶理由

 特許出願は、出願審査請求の後、新規性、進歩性等の特許要件について実体審査がなされ、特許要件を満たすものについて特許が付与される。一方で、特許要件を満たさない特許出願、すなわち、拒絶理由を含む特許出願は特許を受けることができず、最終的に拒絶査定という処分に付されることとなる。
 しかし、拒絶理由を含む特許出願が、何の予告もなく直ちに拒絶査定されることは出願人にとって酷である。また、審査官の判断に誤りがあるかもしれない。
 このため、拒絶理由を含む特許出願にあっては、原則として、拒絶査定に先立って拒絶理由を予め出願人に知らせ、出願人の意見を求めることとしている。このような拒絶査定に先立って行われる通知を「拒絶理由通知」という。
 拒絶理由通知への適切な対応により拒絶理由を解消できれば、出願を特許査定に導くことができる。

1.拒絶理由とは

 特許出願が、独占権である特許権を付与するに値するものであるためには、所定の特許要件を満たす必要があり、この特許要件を満たさない特許出願は、拒絶理由を含むものとなり特許されない。この拒絶理由は、特許法第49条に限定列挙されており、この法定された理由以外の理由で特許出願を拒絶することはできない。

2.拒絶理由通知の種類

 拒絶理由通知には、通常の拒絶理由通知(最初の拒絶理由通知)と最後の拒絶理由通知の二種類がある。

(1)最初の拒絶理由通知

 原則として、出願人が最初に受ける拒絶理由通知を「最初の拒絶理由通知」という。

(2)最後の拒絶理由通知

 原則として「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正により通知することが必要になった拒絶理由を通知するものをいう。
 なお、最後の拒絶理由通知である場合は、拒絶理由通知書に「最後」である旨とその理由が記載される。

3.拒絶理由通知への対応

 拒絶理由通知を受け取った場合、出願人には指定期間内に意見書および補正書を提出する機会が与えられる(特許法第50条)。まず、出願人は、審査官等の判断が妥当なものであるか検討した上で、対応方法を検討することが重要である。

(1)拒絶理由通知の検討

 拒絶理由通知を受け取ったときは、まず出願番号で本願の出願書類を特定し、どの請求項がどの拒絶理由に該当しているかを確認する。引用文献が列記されている場合は、その引用文献の取り寄せを行う。
 その上で、審査官等が本願発明の特徴点を十分に理解しているか、拒絶理由との関係で適切な文献が引用されているか、引用文献に記載の発明について審査官等の認定に誤解や飛躍はないか、本願発明と引用発明の対比の仕方が適切か等の観点から検討すればよい。

(2)拒絶理由通知への対応方法

 拒絶理由通知に対し、出願人は意見書および補正書により反論等することができ、必要に応じて審査官等と面接または電話、ファクシミリ等による連絡を活用してもよい。

[1] 意見書
 意見書は、出願人が審査官等の見解に対して反論・陳述するために提出する書面である。意見書は、本願発明の特徴点を詳細に説明して審査官等の理解を助けたり、引用文献との相違点を明確に説明したり、実験成績証明書等により本願発明の作用効果を主張したり、刊行物等の証拠を提示して技術的背景や当業者の技術常識について説明したりすることが可能であるため、拒絶理由の解消に重要な役割を果たすものである。

[2] 補正書
 補正書は、明細書、特許請求の範囲または図面を補充・訂正するために提出する書面である。これにより引用文献に記載の発明との相違点を明確にしたり、不明瞭な記載を明瞭なものに修正したりすることができる。
 なお、最後の拒絶理由通知に対する補正では、最初の拒絶理由通知の場合と比べて、補正ができる範囲が制限される点に注意が必要である。
 最初の拒絶理由通知は、当初の明細書、特許請求の範囲または図面の範囲内で補正が可能である、すなわち、新規事項を追加しない範囲で広範な補正が可能である(特許法第17条の2第3項)。
(但し、出願日が平成19年4月1日以降の出願の場合、上記新規事項追加禁止に加え、いわゆるシフト補正に該当する補正もすることができない(特許法第17条の2第4項)。すなわち、特許請求の範囲を補正する場合、補正前に受けた拒絶理由通知で特許性の判断が示された発明と、補正後の発明とが、発明の単一性の要件を満たすように補正しなければならない)。
 一方、最後の拒絶理由通知が発せられた場合は、新規事項追加の補正が認められないこと(特許法第17条の2第3項)および出願日が平成19年4月1日以降の出願についてはシフト補正も認められないこと(特許法第17条の2第4項)に加えて、以下に示すように補正の範囲が大きく制限される。

(a)特許請求の範囲について補正できる範囲は、次の事項を目的とするものに限定されている。(特許法第17条の2第5項第1~4号)
 i)請求項の削除(同第1号)
 ii)特許請求の範囲の限定的減縮(請求項に記載した発明特定事項を限定する補正であり、補正前後の発明の産業上の利用分野および解決課題が同一であることが要求される)(同第2号)
 iii)誤記の訂正(同第3号)
 iv)明りょうでない記載の釈明(同第4号)
(b)上記(a)のii)については、さらに補正後の発明が独立して特許できるものであることが必要である(同第6項)。
(c)上記の補正要件に違反した場合は、あらためて拒絶理由が通知されることなく補正が却下される(特許法第53条)。

[3] 分割出願の検討
 分割出願とは、二以上の発明を含む特許出願の一部を、新たな特許出願として出願することを認めるものである(特許法第44条)。通常、特許出願が発明の単一性(特許法第37条)を満たさない発明を含む場合、または、出願当初は特許請求の範囲に記載されていないが明細書または図面に記載されている発明を含む場合に、これらの発明について分割出願を行うことができる。
分割出願は、以下の要件を満たす適法な出願であることが必要である。

(a)分割出願が所定の時または期間内になされていること
(b)分割出願が同一出願人によりなされていること
(c)分割直前の原出願の明細書等に二以上の発明が記載されており、かつ、分割直前の原出願の明細書等に記載された発明の一部を分割したものであること
分割出願が適法なものであれば、分割出願は現実の出願時ではなく、もとの特許出願(原出願)の時にしたものとみなされる(出願時の遡及効)。

[4] 応答せず放置、出願の放棄、出願の取り下げ
 拒絶理由通知の内容を見て、拒絶理由が解消する可能性が低く明らかに特許取得が困難な場合や、出願発明について特許取得の必要性がなくなったような場合には、拒絶理由通知に応答せず放置する、出願を放棄あるいは取り下げるという対応策が考えられる。この場合、応答期間が経過すると特許取得はできなくなるため、慎重に判断する必要がある。

4.先行技術(引用発明)に基づく拒絶理由に対して

 本願発明の特徴を把握しながら、引用発明の特徴の理解に努め、特に本願発明と引用発明の一致点・相違点を明確にする。具体例として、次のような主張が効果的である。

(1) 新規性欠如、特許法第29条の2に該当、同39条違反等の場合

[1] 本願発明と引用発明との間に相違点があればその旨を説明する。
[2] 本願発明と引用発明との間に相違点がない場合は補正により相違点を加えるようにする。
[3] 作用・機能等による物の特定を含む発明(特殊パラメータ発明を含む)、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム等については、引用発明と物として相違していること(現状では、物として同一であれば特許されない)、課題や有利な効果が相違していることなどを明らかにする。その根拠として実験成績証明書を提出して、引用発明と比較した有利な効果を主張することは有効である。

(2) 進歩性違反の場合

[1] 引用文献の内容に動機付けとなり得るものが存在しないこと(技術分野の関連性がない、課題に共通性がない、作用・機能に共通性がない、引用発明に示唆がない等)を明らかにする。

[2] 本願発明と引用発明の相違点に基づき、実験成績証明書等により、本願発明が引用発明と比較して「有利な効果」を奏することを明らかにする。これにより、進歩性が肯定される可能性が高くなる。
 但し、明細書に記載がない効果であり、明細書等から当業者が推論できない効果を意見書で主張・立証しても参酌されない点に留意する必要がある。

[3] 選択発明または数値限定発明については、刊行物に記載された発明が有する効果とは異質な効果、または同質であるが際だって優れた効果を有し、これが技術水準から当業者が予測できたものでないことを、実験成績証明書等により明らかにする。
 但し、数値限定発明と引用発明の相違点が数値限定の有無のみであり、課題が共通する場合は、有利な効果について数値限定の臨界的意義が要求される。

[4] 引用文献において、本願発明に容易に想到することを妨げる記載(例えば、本願発明の数値範囲では目的を達成できない、本願発明の必須成分を含むと悪影響を及ぼす等の本願発明を排除するような記載)がある場合には、本願発明の進歩性を肯定する強力な根拠となる。また、複数の引用文献の組み合わせにより進歩性が否定されている場合に、引用文献の中に引用文献同士の組み合わせを排除する記載があるときは、その組み合わせに困難性がある(組み合わせの動機付けがない)ことを主張すれば、進歩性が肯定されやすい。

5.記載要件違反に基づく拒絶理由に対して

(1)特許請求の範囲の記載要件違反(特許法第36条第6項第1~4号)

 この拒絶理由のうち、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されていること(第1号)、特許を受けようとする発明が明確であること(第2号)に違反するものがほとんどである。
 上記の拒絶理由に対しては、補正を行ったり刊行物を提出するなどして、発明の詳細な説明に十分にサポートがありまたは請求項が明確であることを明らかにする。
 但し、出願当初の明細書等に、請求項に係る発明をサポートする十分な具体例(例えば実施例)の開示がない場合には、補正することなく第1号の拒絶理由を解消することは一般に困難である。補正する場合でも、実施例の範囲に限定するなど大幅な減縮補正を余儀なくされることになる。
 したがって、出願時点において、請求項の範囲を裏付ける十分な数の具体例(実施例)を盛り込んで明細書を作成することが極めて重要となる(後から実験データを提出することは困難である場合が多い)。

(2)発明の詳細な説明の記載要件違反(特許法第36条第4項第1~2号)

 この拒絶理由は、当業者が実施できるように発明の内容を記載しなければならないという要件(実施可能要件)(同第1号)に違反するものがほとんどである。この拒絶理由に対しては、刊行物を提出するなどして、出願時の技術常識に基づき当業者が実施可能であることを証明して対応することができる。
 但し、出願当初の明細書等に、物の製法、使用方法(用途)等の記載がなく、また技術常識を考慮してもその物をどのようにして作り、どのようにして使用できるか理解できない場合は、この拒絶理由は解消できない場合がある。
 したがって、出願時点において、その請求項の発明が実施できるように明細書を作成することが極めて重要となる。

(3)進歩性との関係

 上記の(1)乃至(2)の記載要件違反の拒絶理由に対する反論の際に留意すべきは、進歩性との関係である。記載要件違反の理由を解消するためには、一般に、出願人は、本願請求項の発明は発明の詳細な説明の記載と技術常識から明確である、あるいは、発明の詳細な説明の記載は技術常識を考慮すれば容易に実施できる旨を主張することになる。しかし、これらの点を強調しすぎると、先行技術からの本願発明が容易に想到できることまでも自認する(進歩性がないことを自認する)結果となってしまう場合がある。そのため、記載要件違反の理由への反論は、進歩性の主張と矛盾が生じないように注意する必要がある。

6.発明の単一性違反(特許法第37条違反)の拒絶理由に対して

 この拒絶理由に対しては、出願に含まれる二以上の発明のうち、単一性の要件を満たすように、いずれかの請求項を削除するか補正をすることにより対処することができる。
 この対応をする際、以下の場合には、出願の分割を検討するのが得策である。
・拒絶理由のない請求項の権利化を迅速に進めたい場合
・発明の詳細な説明のみに記載された発明の権利化を図りたい場合
・最後の拒絶理由通知に対する応答で限定的減縮ができない場合



拒絶査定

 補正書や意見書を提出しても、なお拒絶理由が解消しないときには、審査における最終処分として拒絶査定がなされることとなる。
 しかしながら、審査官による判断に誤りがないとは限らない。その誤りにより拒絶査定を受けた場合には、本来特許されるべき出願が特許されなくなるという事態を招くこととなる。
 そのため、拒絶査定に不服がある出願人は、拒絶査定に対して審判を請求することができる。

1.拒絶査定不服審判を請求するにあたって検討すべきこと

(1)審判請求の要否の検討について

 審判請求が可能といっても、原査定(拒絶査定)を覆すことができる見込みが全くなければ請求する意味はないので、拒絶査定の謄本、先の拒絶理由通知書等の内容も含めて本願発明をもう一度良く見直し、その拒絶査定を覆すことができる可能性があるかどうか十分検討する必要がある。

[1]審査官の判断が誤っていると考えられる場合、例えば、本願発明または引用発明の技術内容を誤って理解していたことにより拒絶査定を受けた場合などは、拒絶査定を覆せる可能性が高いので、審判請求しその旨を審判請求書の請求の理由の項で主張する。
[2]審査官の判断が妥当であると考えられるときでも、本願発明を限定することにより特許性が主張できる場合には、明細書、特許請求の範囲または図面の補正についても検討する。
[3]審査官の判断が妥当であり、補正しても特許性を主張することができない場合は、放置または放棄するか、出願を取り下げることにより出願の係属を断念する。
その他
 審判を請求するにあたっては、請求項の数に応じた所定の手数料を要する。

(2)補正の検討について

 審判請求をする場合には、請求と同時に明細書または図面を補正することができる。補正することにより、引用発明との重複部分をなくしたり、より効果の高い発明に限定すること等により、本願発明の特許性を強調することができる。また、補正により明細書、特許請求の範囲または図面の記載不備も解消できることもある。

[1]審判は原則として3名の審判官の合議体によって審理されるが、上記における明細書、特許請求の範囲または図面の補正があった場合は、合議体による審理に先立って、原則としてもとの審査官による審査が行われ(前置審査)、依然として拒絶理由が解消されていないと判断された場合には合議体による審理に移行する(前置審査の解除)。
[2]補正できる範囲は、特許法第17条の2第3~6項に規定された範囲に限られる。したがって、新規事項の追加が禁止され、出願日が平成19年4月1日以降の出願についてはシフト補正も認められないことはもとより、補正の目的等も制限されている。補正できる範囲が大幅に制限される点に注意すべきである。

 実施例等を追加する補正は、原則として新規事項の追加となるので認められないが、試験例、比較例等については審判請求書に実験報告書、参考資料等として添付して提出することができる。

(3)分割出願の検討について

 分割出願可能な一定の時または期間内(特許法第44条第1項第1号及び第3号)、出願の分割も行うことができる。分割出願を行うことにより、拒絶理由のない請求項につき迅速な権利取得を図ることができる。
 また、発明の詳細な説明に記載された事項を特許請求の範囲に追加する補正は、上記の補正の制限から認められない場合があるので、このような場合にはその事項が追加された発明を分割出願することにより別途権利化を図ることができる。特許法第37条(発明の単一性)違反により拒絶された場合にも、出願を分割することによりその拒絶理由を解消することができる。

2.審判請求した場合の手続き

 審判を請求した後の手続きは、以下のように、その出願における明細書、特許請求の範囲または図面(以下、「明細書等」と記載する)を補正するか否かによって異なる。

(1)審判請求時に明細書等を補正した場合

[1] 出願は、前記のように前置審査に移行し、再度原査定を下した審査官によって審査される。この場合、出願人には前置審査に移行したことを通知する通知書が送付される。  
[2] 審判請求書(主に請求の理由)、補正書、本願発明等の内容を再審査した結果、未だ拒絶理由が解消されていないと判断された場合には、前置審査の解除が出願人に通知され、3名の審判官の合議体による審理に移行する。
[3] 原則として合議体の審理に先立ち、審判請求人に対して、前置審査における審査官の見解を記した前置審査報告書の内容が通知される(審尋)。これに対して審判請求人は回答書にて反論することができる。但し、この場合補正はできない。
[4] さらに審判官合議体による審理においても原査定を維持できると判断した場合には、審理終結通知がなされた後、拒絶すべき旨の審決が下され、その謄本が送達される。これに対して不服ある出願人は一定期間内に知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起することができる。
 一方、拒絶査定を維持できないと判断した場合には、その査定が取り消され、特許すべき旨の審決の謄本が送達される。
 なお、拒絶査定を維持できないと判断した場合であっても、合議体による審理において、新たな拒絶理由が発見された場合には、新たに拒絶理由通知が発せられる。

(2)審判請求時に明細書等を補正しない場合

 この場合は、出願は、前置審査に付されずに、審判官の合議体による審理に付されることとなる。審判官の合議体による手続きは上記の場合と同様である。


Last Update: April 1, 2012