4.国内優先権制度の活用

 わが国特許法は、いち早く特許出願した者に権利を与える先願主義を採用しているため、できるだけ急いで迅速な出願をする必要があります。
 その一方で、新規事項の追加となる補正は厳しく禁じられているので、より強い権利を取得するためには特許出願の際に明細書を充実させる必要があり、そのためにある程度の時間が必要となります。
 このため、迅速な出願と明細書の内容の充実とのバランスをとりながら特許出願するのが一般的ですが、時には迅速な出願を優先させなければならない場合があります。
 例えば、発明品を商品として販売する場合、他者が同様の特許出願をするおそれのある場合等は、できるだけ早く特許出願して出願日を確保する必要があります。
 このような場合に、出願日を確保できる程度の内容で出願(先の出願)しておき、その後に、国内優先権制度を活用して、より内容を充実させた明細書で特許出願(後の出願)をすることにより、出願日を確保しつつ、明細書の内容を充実させた状態で権利取得を図ることが可能になります。
 従って、国内優先権制度の典型的な活用としては、以下のような態様があります。

(1)実施例補充型
 先の出願で特許請求の範囲を広く記載し、その範囲をサポートするための実施例を後の出願で追加する態様です。
 例えば、先の出願の請求項1でカルボン酸を記載し、その実施例が酢酸のみの場合に、後の出願で、実施例としてギ酸とシュウ酸を追加する場合です。
 この場合、先の出願において「カルボン酸」として酢酸しか課題を解決することができることが実証されていませんので、後日、先の出願の請求項1の「カルボン酸」を、技術的に裏付けのある「酢酸」に限定せざるを得なくなるおそれがあります。
 しかしながら、後の出願(優先権主張出願)において、カルボン酸としてギ酸とシュウ酸の実施例が追加された結果、カルボン酸全体が課題を解決することができることの裏付けができれば、「カルボン酸」の全範囲を包括して権利取得することも可能となります。

(2)単一性利用型
 特許法第37条に規定する発明の単一性の要件を満たす新たな発明を、先の出願に対して追加する態様です。
 例えば、セメント組成物の製造方法を発明して特許出願(先の出願)した後に、その製造に適した装置も発明した場合は、国内優先権制度を活用して、後の出願に当該装置について記載することにより、その装置を含めた形で網羅的に権利取得することが可能となります。

(3)上位概念抽出型
 下位概念の発明を特許請求の範囲に記載した複数の出願があり、これらの発明をひとまとめにした上位概念を形成できる場合、これら複数の特許出願の国内優先権を主張し、ひとまとめにした広い概念の発明を改めて特許出願する(上位概念化する)態様です。
 例えば、先の出願1に防かび剤として「ソルビン酸」が記載され、先の出願2に「ソルビン酸カリウム」が記載され、先の出願3に「ソルビン酸カルシウム」が記載されている場合、これらの先の特許出願に基づいて国内優先権主張出願(後の出願)を行い、防かび剤として「ソルビン酸化合物」に上位概念化することにより、網羅的に権利取得することが可能となります。
 また、例えば、滑り止めグリップを設けたボールペンを特許出願(先の出願)した後、この滑り止めグリップを筆記用具全般に適用できることを見出した場合は、国内優先権を主張して滑り止めグリップを設けた筆記用具を出願することにより、ボールペンを筆記用具に上位概念化した状態で権利取得することができます。

(4)補正代用型
 特許出願した際には完全な形で出願できたと思っていても、特許出願後に誤記、不明瞭な記載等の記載不備を発見することがあります。また、特許出願後すぐに早期審査又はスーパー早期審査の請求をした場合には、特許出願から1年以内に拒絶理由通知を受け取ることもあります。このような場合に、その記載不備又は拒絶理由を解消する補正が新規事項の追加となる場合には、深刻な問題です。
 このような場合に、その記載不備や拒絶理由を解消するための訂正をして国内優先権主張出願を行うことにより、新規事項の追加とならずに、安全に記載不備や拒絶理由が解消した後の出願を行うことができます。

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