2.発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるにあたり研究者が注意すべき事項

 以上のように、この規定を利用できれば、学会発表等の後からでも特許出願することができるため、研究者にとっては便利で都合が良いものと言えます。
 しかしながら、この規定の適用を受けるあたり、以下の点についても十分理解しておかないと、出願が不利に扱われたり、場合によっては特許を受けることができなくなったりするので、注意が必要です。

(1)発表した者(公開者)等と出願における発明者等との関係
 本規定の適用を受けるためには、原則として発表者と発明者とは一致している必要があります。
 ただし、複数の発明者の一部の者が発表した場合、または複数の発表者の一部が発明者である場合であっても適用を受けることができます。このような場合には、発明者と発表者との関係について釈明した書面を提出することが必要となります。当該書面の記載要領については、特許庁HP内の以下の「平成30年改正法対応・発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」をご参照下さい。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/hatumei_reigai/h30_tebiki.pdf

(2)先願主義等との関連で留意すべき事項
 本規定は、あくまでも特許出願より前に公開された発明は特許を受けることができないという原則に対する例外規定であることに留意する必要があります。仮に特許出願前に公開して新規性を喪失した発明についてこの規定の適用を受けたとしても、例えば、新規性喪失日と特許出願日との間に、第三者が同じ発明について先に特許出願していた場合や、先に公開していた場合には、特許を受けることができません。
 従って、新規性喪失の例外規定の適用を受けられるからと言って新規性を喪失した日から1年猶予があると考えるのは危険であり、新規性を喪失した後はできるだけ早く出願しておくのが賢明です。

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(出典:特許庁「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について」)

(3)発明の同一性について
 発明の新規性喪失の例外規定は、新規性を失った発明と同一の発明を特許出願した場合のみならず、新規性を失った発明と相違する発明を出願した場合にも適用されます。つまり、発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けると、その特許出願に係る発明の新規性及び進歩性の判断において、発表等された発明は先行技術として考慮されません。

(4) 外国との関係で留意すべき事項
 海外への特許出願を予定している場合には、各国の発明の新規性喪失の例外規定にも留意する必要があります。各国の国内法令によっては、自らが公開したことにより、その国において特許を受けることができなくなる可能性もありますので、十分に注意する必要があります。
 日本において新規性喪失の例外規定の適用を受けられたからと言って、他の国で同様の利益が受けられるとは限りません。諸外国での権利取得を希望される場合は、できるだけ発明の公表前に特許出願を行うことをお勧めします。

*詳細につきましては、以下のURLをクリックして、特許庁の資料「平成30年改正法対応・発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」及び「平成30年改正法対応・発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」をご覧いただけます。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/hatumei_reigai/h30_tebiki.pdf
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/hatumei_reigai/h30_qanda.pdf

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