特許異議の申立て制度

.特許異議の申立て制度

 特許異議の申立て制度とは、設定登録後の特許権について、特許掲載公報発行日から六月以内に、所定の特許要件を満たさないことを理由に、特許権の取り消しを申し立てることのできる制度である。

2.特許異議の申立て制度の背景・経緯

 特許無効審判制度は厳格な審理が可能であるが、口頭審理を原則としており、当事者の手続負担が大きいという問題がある。また、特許無効審判は特許の設定登録後いつでも請求できるので、権利者が事業展開のために多額の投資を行った後に特許権が無効になると、致命的な損害を受けかねない。このため、我が国において強く安定した特許権を早期に確保することが、ますます重要になってきた。そこで、特許化後の一定期間に特許付与の見直しをする機会を与えるための新たな特許異議の申立て制度を導入することが適切である、とされた。

3.特許異議の申立ての運用

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(1)特許異議申立人が、特許異議申立書を特許庁長官に提出する(特許法(以下同様)第115条第1項)。何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許異議の申立てをすることができる(第113条柱書き)。特許処分の見直しの契機を広く求めるため、「何人も」申立てができることとし、特許異議申立人の準備期間の考慮、権利の早期安定化の両方の観点から、申立期間を特許掲載公報の発行の日から「六月」としている。
(2)3名又は5名の審判官の合議体が構成され(第114条第1項)、審判長が、特許異議申立書の副本を、特許権者に送付する(第115条第3項)。また、審判長は、異議が申立てられたことを、専用実施権者や特許に関し登録した権利を有する者に通知する(第115条第4項)。この通知を受けた者は、特許異議申立てについて決定があるまで、特許権者を補助するために、異議申立ての審理に参加することができる(第119条)。
(3)審判官の合議体により書面審理が行われる(第118条)。原則として、審理は特許異議申立期間の経過後に行われるが、特許権者の申し出により、特許異議申立期間経過前に審理を行うことも可能である。当事者の対応負担を無効審判よりも低いものとし、かつ、審理手続自体も簡易なものとすることで、より利用し易い制度にするという観点から、「全件書面審理」によるものとしている。書面審理において、特許を維持すべきと判断された場合には、維持決定が行われ、維持決定の謄本が、特許権者、特許異議申立人、参加人等に送達される(第120条の6)。
(4)書面審理において、特許を取消すべきと判断された場合(取消決定をする場合)には、取消理由が、特許権者及び参加人に通知される(第120条の5第1項)。
(5)取消理由通知に対して、特許権者及び参加人は、指定期間内(標準60日、在外者90日)に意見書を提出することができる(第120条の5第1項)。審理の結果、特許が取消理由に該当し得るという心証を得た場合においても、特許権者になんら弁明の機会を与えずただちに取消決定をすることは酷であり、かつ審判官にも全く過誤なきことは保証し得ないからである。また、取消理由通知に対して、特許権者は、意見書提出期間内に明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる(第120条の5第2項)。特許権者は、訂正審判と同一の範囲内で明細書等の訂正を請求できる。
(6)訂正が行われた場合には、原則として、訂正された明細書等の副本が特許異議申立人に送付され、特許異議申立人に意見書を提出する機会が与えられる(第120条の5第5項)。
(7)特許異議申立人は、指定期間内(標準30日、在外者50日)に意見書を提出することができる(第120条の5第5項)。特許異議申立人の当事者としての対応負担を低く保ちつつ、制度の利便性向上を図る観点から、特許権者による訂正請求があった場合には、特許異議申立人に対しても、その希望に応じて意見提出の機会を設けるため、当該訂正請求に対して書面での意見提出を可能としている。
(8)提出された意見書等の内容を参酌し、再度書面審理が行われる。特許を維持すべきと判断された場合には、維持決定が行われる。
(9)取消決定を行う前に、運用として取消理由通知(決定の予告)が行われ、特許権者に訂正の機会が与えられる。ただし、取消理由通知に対する応答が無かった場合又は決定の予告を希望しない旨の特許権者の申出がある場合には、取消理由通知(決定の予告)は行われない。
(10)取消理由通知(決定の予告)に対して、特許権者及び参加人は、指定期間内(標準60日、在外者90日)に意見書を提出することができる。また、取消理由通知(決定の予告)に対して、特許権者は、意見書提出期間内に明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。特許権者からの訂正の請求があった場合は、再度特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられる場合がある。これらの手続を経て、維持決定又は取消決定が行われる。
(11)維持決定の場合には、維持決定に対する不服申立てはできない(第114条第5項)。ただし、特許異議申立人が利害関係人であれば、特許無効審判を請求できる(第123条)。
(12)取消決定の場合には、特許権者及び参加人等は、取消決定に対する訴えを東京高裁(知財高裁)に提起することができる(第178条、第179条)。訴えを提起せずに取消決定が確定したときは、特許権は初めから存在しなかったものとみなされる(第114条第3項)。
注1:2015年4月1日以降に特許掲載公報が発行された特許に対して、特許異議の申立てが可能。
注2:特許異議申立書の要旨を変更する補正は、原則不可。ただし、「特許異議の申立ての理由及び必要な証拠の表示」については、特許異議申立期間の経過前かつ取消理由通知が通知される前であれば、補正が可能。
注3:複数の特許異議申立ては、原則、特許異議申立期間の経過後、審判合議体が全ての申立理由を整理して、まとめて審理(運用)。
注4:特許異議の申立てが特許庁に係属した時からその決定が確定するまでの間は、訂正審判の請求は不可(第126条第2項)。
注5:特許異議の申立てと特許無効審判が特許庁に同時係属したときは、原則、特許無効審判の審理を優先し、特許異議の申立ての審理を中止(運用)。
注6:特許異議の申立てと訂正審判が特許庁に同時係属したときは、特許異議の申立てについての審理に際し、すでに訂正審判が請求されている場合であっても、特許異議の申立てにおける取消理由通知に対して、改めて訂正の請求をすることができるので、原則、特許異議の申立てについての審理を優先し、訂正審判の審理を中止(運用)。
注7:特許異議の申立てと特許無効審判との間に、一事不再理の適用はなし。特許異議の申立てと同じ理由、同一証拠による特許無効審判の請求が可能。



Last Update: April 1, 2015