出願公開および補償金請求権

1.出願公開制度

(1)出願公開制度とは

 出願公開制度は、原則として特許出願の日から1年6月経過後に出願内容を特許公報に掲載することにより公開する制度である。
 出願公開すべき内容が掲載された特許公報を一般に公開特許公報(あるいは、単に公開公報)と呼ぶ。なお、特許権の設定登録後に発行される公報は、単に特許公報と呼ばれることが多いが、正確には特許掲載公報という。

(2)公開の基準となる日

 出願公開は、出願日から1年6月経過後になされるが、パリ条約上の優先権または国内優先権の主張を伴う出願は、基礎となった最初の出願日から1年6月経過後に公開される。分割出願および変更出願は、原出願日から1年6月経過後に公開され、既に1年6月が経過している場合は分割・変更後すみやかに公開される。

(3)早期公開制度

 平成11年法改正により早期公開制度が導入され、出願人が請求すれば、出願日から1年6月を待たなくても、早期に出願公開されるようになっている。但し、早期公開請求は、一度請求すると取り下げることができない。

(4)出願公開による利害得失

[1] 第三者の利害得失
 公開特許公報に掲載される特許請求の範囲は、不確定な範囲ではあるが、将来の権利範囲をある程度予測することが可能であり、権利情報としての利用価値がある。したがって、出願人以外の者(第三者)は、出願公開によって明らかになった他社の先願発明と重複する研究を避け、無駄な投資を回避し、他社先願発明と重複する発明についての出願を回避することができる。
 また、公開特許公報は、最新の技術を含む発明が掲載されるため、第三者にとっては技術情報として利用価値がある。 なお、出願公開によって第三者が受ける不利益は、あまり無いと考えられる。

[2] 出願人の利害得失
 出願人は、出願公開によって、第三者による模倣という危険にさらされることになる。出願公開中の模倣行為者に対し、出願人は、後述する補償金請求権に基づく警告を行うことができる。なお、早期権利化を図るため、出願人は、所定要件を満たす場合には、優先審査制度や早期審査制度を利用することもできる。
 一方、出願人には、出願公開後、いわゆる拡大された先願の地位(特許法第29条の2)が与えられる。また、公開特許公報に記載された発明が公知発明となり、その公知発明に対して新規性、進歩性の無い発明が公開後に特許出願された場合に、その特許出願を拒絶に導くことができる。さらに、公開特許公報を見た第三者に対し、その発明が将来特許されるかも知れないという牽制的効果を生じることもある。

(5)出願公開による問題

 インターネットを利用した公報の発行が行われるようになってからは、外国でも容易に模倣できるようになり、技術の国外流出が問題となっている。

(6)他社出願への対応

 公開公報は定期的に発行されるから、競合他社の公開特許公報を定期的に調査しておくことで、競合他社の出願状況を把握することができる。
 なお、公開特許公報に記載されている発明が自社製品と抵触する可能性がある場合には、その発明の特許可能性を調査し、特許性を否定し得る先行文献があれば、情報提供制度(特許法施行規則第13条の2)を利用して当該先行文献を特許庁に提出し、特許化を阻止し、あるいは、特許請求の範囲の減縮に導くことができる。なお、出願審査請求がなされずに出願が取り下げ擬制される場合もあるため、情報提供は、出願審査請求がなされていることを確認した後に行うことが好ましい。


2.補償金請求権

(1)補償金請求権とは

 補償金請求権は、出願人が出願公開後、特許権の設定登録前に業として出願に係る発明(特許請求の範囲に記載された発明)を実施した者に対して、警告することを条件として、警告後から特許権設定登録迄の実施料相当額を請求し得る権利である(特許法第65条)。
 補償金請求権は、警告後特許権設定登録迄の実施について実施料相当額を請求することができるのみであり、差止や損害賠償を請求することはできない。また、公開後に拒絶査定確定等によって登録されなかった場合、あるいは、いったん登録されたものの無効審決確定により特許権が遡及消滅した場合には、補償金請求権は初めからなかったものとみなされる。
 なお、出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って特許権の設定登録前に業としてその発明を実施した者に対しては、警告をしていなくても補償金請求権を行使することができる。但し、この場合、出願人は、相手方が知っていたことを立証しなければならない。

(2)警告とは

 補償金請求権について特許法第65条でいう警告は、警告後の模倣品の製造・販売等の行為の中止を求めるというものではなく、特許権の設定登録後に警告後から登録までの間の製造・販売等の行為に対して実施料相当額を請求する旨、および、特許出願に係る発明の内容を特定する事項を記載した書面を提示して通知することである。
 警告書には、出願公開番号、出願公開の年月日、特許出願番号、特許請求の範囲、発明の詳細な説明を記載し、これを内容証明郵便で相手方に送る。図面は内容証明郵便で送れないので、必要な図面は、図面が掲載された公開公報を、別途、配達証明郵便で送る。

(3)補償金請求権を行使できる期間

 補償金請求権を行使できる期間は、特許権の設定登録後3年間である。特許権の設定登録後に限定したのは、特許付与前は権利範囲が確定していないからであり、3年間に限ったのは不確定な期間を長期間継続させるべきでないからである。

(4)補償金請求権を行使するタイミング

 補償金請求権は、上記のように警告が条件となっており、警告後の実施に対してしか請求できないから、公開後に第三者の模倣を知ったら出来るだけ速やかに警告しておくことが望ましい。警告が遅れると、警告前の実施が明らかであっても、遅れた分については補償金請求権の対象とならない。

(5)早期公開制度の活用

 出願から間もなくその発明を出願人が実施していて、その発明を第三者が模倣している場合、通常であれば、出願日から1年6月が経過して出願公開がされるまで補償金請求権が発生しないが、出願公開の請求を行うことにより、早期に出願公開され、補償金請求権を早期に発生させることができる。

(6)補償金請求権と特許権

 特許権の行使と補償金請求権の行使とは、別である。補償金請求権を行使したからといって、特許権の行使は妨げられない。

(7)注意事項

 補償金請求権の対象は、特許された後に特許請求の範囲に記載されている発明(特許発明)の技術的範囲に属する物または方法、すなわち権利範囲に含まれる物または方法に対してである。したがって、例えば、権利範囲に直接関係しないようなノウハウ的事項を含む記載や、公開特許公報の特許請求の範囲に記載されていた発明が審査段階で補正によって減縮されて特許された結果、権利範囲に含まれなくなった発明(例えば補正前の請求項に記載されていた発明)は、単に第三者に公開しただけになってしまうことになるので、どこまで開示するかを吟味しておく必要がある。


Last Update: April 1, 2012