アイデアの着想から特許出願まで

6.ソフトウェア・ビジネスモデル分野

1.どこまで完成させれば特許出願ができるか

 コンピュータ・ソフトウェアは特許で保護されます。「ビジネスモデル関連発明」は、コンピュータ技術を基にした新たなビジネスに関連する発明であり、コンピュータ・ソフトウェア関連発明の一形態として捉えることができます。

(1) ソフトウェアに関する発明

[1] 発明の成立性の検討
 コンピュータ・ソフトウェアの発明であっても、具体的な技術的手段に対して特許が与えられます。着想や課題(願望)しか提示できないレベルでは特許出願することはできません。
 通常、ソフトウェア開発は「仕様設計」→「システム設計」→「プログラム設計」→「フローチャートの作成」→「プログラミング」の順序で行われます。「仕様設計」は、目的や課題を明確にする段階であり、少なくともこの段階を経ていなければ、特許出願できる程度に発明が完成していないといえます。一方で、発明(アイデア)を実施する手段の一例を具体的に示すことができれば十分であり、「プログラム設計」以降が実際に成されている必要はありません。

[2] 対象とするハードウェアの明確化
 ソフトウェアは、ハードウェアによって実行されて、目的を達成します。ソフトウェア関連発明の種類としては、次のようなものがあります。   
(a) 時系列につながった一連の処理、すなわち「手順(プロセス)」によって特定される方法の発明
(b) 複数の機能によって特定される物の発明、たとえば装置やシステム  
(c) コンピュータが果たす複数の機能を特定したプログラム  
(d) プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体
 ソフトウェアがどのようにハードウェア資源を用いて目的を達成するかを具体的に示すことが要求されるので、処理が実行されるハードウェア(システムを含む)が明確になっていなければなりません。機能レベルでハードウェア構成のブロック図を作成でき、フローチャートを用いて説明できる程度に明確になっていることが必要です。
 例えば、上記の「仕様設計」、「システム設計」の段階が終わっていれば、特許出願可能な段階にあると考えられます。なぜなら、ハードウェア(システムを含む)構成をブロック図として示すことができ、ソフトウェアがハードウェアの各構成部分をどのように制御するのかが、明確になっているはずだからです。

[3]著作権との関係
 ソフトウェア関連の発明をし、既にプログラム開発を終えていれば、著作権法による保護を受けとることこともできます。保護対象は、特許法では「アイデア(技術的思想)」ですが、著作権法ではアイデアの具体的「表現」であり、ソフトウェアではプログラムのソースコードがこれに該当します。実際のプログラムが完成していなければ、法的保護を受けるためには特許出願することが必要になります。

(2) ビジネスモデル関連発明

[1] 発明の成立性の検討
 ビジネスモデル関連発明は、コンピュータ・ソフトウェア関連発明の審査基準にしたがって審査されます。「ソフトウェアに関する発明」の項で述べた点、特に発明の成立性に注意することが必要です。
 たとえば、人が行なっていた従来のビジネスをコンピュータやネットワークシステムを用いて実行するようにしただけでは、人為的な取り決めに過ぎず、特許法上の発明ではありません。新たなビジネスを実現するために、また従来のビジネスの課題を解決するために、ハードウェアをどのように使用して、どのようなデータをどのように処理するのかが明確になっていることが必要です。すなわち、ビジネスの具体的内容を、ハードウェアのブロック図と、処理の順序を示すフローチャートとを用いて説明できる程度に発明が完成していることが必要です。

[2]システム構成の明確化
 発明の成立性、技術的特徴が明確になるように記載するには、少なくともシステム構成を機能ブロック図などで説明できるレベルまで完成している必要があります。技術的特徴と関連する部分のハードウェア構成が具体的に示せるのが望ましいです。このとき、「ハードウェア資源」を構成要素としてシステム構成を記述することに注意する必要があります。提供者、センター、局、機関(たとえば、サービス提供者、サービスセンター)などの用語や、銀行、店舗などの用語を使用して説明する場合、これらは第一義的には、ハードウェア資源というよりも社会的な組織や機構を表すと考えられる点に注意が必要です。これらの用語を用いて請求項を記載した場合、ソフトウェアの審査基準に適合しないと判断される可能性があります。発明の成立性、技術的特徴が明確になるように、コンピュータや周辺機器が含まれていることが明確に分かる記載にすべきです。

2.特許出願にあたって整理しておくべき点

 ソフトウェアの技術分野では、ある分野で利用されている方法、手段などを組み合わせたり別の分野に適用したりすることは、普通に試みられています。たとえば、情報処理や統計処理の技術が、医療分野、バイオ分野などに応用されています。
 一方、ソフトウェア技術の応用展開の容易性から、技術の組み合わせや別の分野への適用に技術的な困難性(技術的な阻害要因)が無い場合には、特段の事情(顕著な技術的効果など)が無い限り、進歩性は否定されます。これらの点を考慮し、進歩性が認められる明細書を作成する上で、次の点に注意すべきです。

(1) 対象とするハードウェアを明確にする

 ハードウェア構成をどの程度まで詳細に記載する必要があるかは、発明の特徴と動作環境に応じて異なります。コンピュータ単体で動作する場合には、処理と直接関連するハードウェア資源、たとえばCPU、メモリ、記録装置などや、キーボード、マウス、ディスプレイなどの入出力手段を示すことが望ましいです。一方、通信回線を使用する大規模なシステムであれば、必ずしも個々のコンピュータの内部構成まで示す必要はありません。

(2) データの種類および相互の関連性を明確にする

 ソフトウェア発明の場合、データを取得し、伝送、加工、記録、出力などの処理を伴います。したがって、複数の機能ブロックの間で伝送されるデータ、加工前後のデータ、コンピュータの入出力データなどを明確に説明することが望ましいです。特に明細書作成者に発明を理解してもらうためには、処理の流れが分かるフローチャート、状態遷移図などを作成しておくことが望ましいです。

(3) ビジネスモデル関連発明の場合

 ビジネス自体の特徴と、それを実現するための技術的特徴を明確に説明できる資料を用意します。従来無かったビジネスを実現した場合、取り決め(ビジネスのルール)が新しいために可能になったのか、技術的な工夫によって可能になったのかを明らかにしておく必要があります。新規な取り決めをした場合には、コンピュータ間で特有の情報を交換したり、特殊な情報処理を行なったり、さらには特有の情報を取得するための特殊な機器を使用したりする必要性が生じる可能性があります。したがって、ビジネスの取り決めとそれを実現する技術との関係を明確にし、目的達成や課題解決への寄与の程度を明確にしておくべきです。

3.広い権利取得への発想の手掛かり

 ソフトウェア・ビジネスモデル関連の発明に関して、広い権利を取得するためには、出願段階において以下の点に注意が必要です。

(1) ソフトウェアの場合

[1] カテゴリーの検討
 ソフトウェア関連発明では、時系列的の一連の処理として表現できるので、通常「方法」の発明として出願します。ソフトウェアを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体(物のカテゴリー)としても出願することができます。また、「プログラム」の名称を用いて請求項を記載すれば、日本では物として保護を受けることができます。さらに、装置の発明として出願する可能性、必要性を検討すべきです。
 尚、「構造を有するデータ」、「データ構造」として権利化を図ることも可能です。発明に該当するかどうかの判断は、ソフトウェアに関する判断と同様に行われるので、データの構造によりコンピュータが行う処理内容が特定されるなど、何らかのプログラム的要素を含むデータ構造であることが必要だと考えられます。

[2] 機能・処理の必要性と順序の検討
 たとえば、発明が機能A及びBから構成され、機能Aを実現するプログラムがCD-ROMで提供され、機能BがコンピュータのOSから提供される場合、そのCD-ROMをコンピュータにインストールして実行すれば直接侵害となりますが、CD-ROMの提供行為は直接侵害とはなりません。このような場合、機能Aに限定して請求項を記載できないか検討します。
 発明を構成する処理の順序に任意性が無いかどうかを検討します。処理順序を入れ替えても効果を得ることができる場合には、順序が限定されないように請求項を記載します。
 
[3]システムの場合
 権利行使が容易になるように、システム全体を1つの請求項に記載するのではなく、サーバコンピュータ単体、または端末コンピュータ単体のみを記載することを検討すべきである。請求項にコンピュータ単体として記載できれば、発明の構成要件がより少なくなるので権利範囲が広くなります。

(2) ビジネスモデル関連発明の場合

 適用可能な分野全体をカバーするように上位概念化して請求項を記載することを検討すべきです。また、そのビジネスを実現するための技術自体に特許性があれば、ビジネスと切り離して、その技術自体に関して特許出願すれば、より広い権利を得ることができます。


Last Update: April 27, 2021

 

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